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第六話 パジャマパーティー気分でお泊まりしに来たよ♪

六月二十四日、月曜日。智史の通う高校の期末テストまであと一週間となった本日。寄り道はせず普段通りの午後四時過ぎに帰宅した智史は自室に足を踏み入れるや否や、

「おかえり智史君、いよいよ期末テスト一週間前ね」

「サトシくん、テスト前はテンションアップするよね」

「智史お兄ちゃん、今日からはさらに本気出して数学頑張ろう」

「サトシリカゲル、化学と生物は普段あまり勉強してくれないからここでいっぱい勉強しようぜ」

「智史さん、今日からは家庭学習時間を二時間増やしましょう」

教材キャラ達からこう話しかけられる。みんないつも以上に機嫌良さそうだった。

「分かってるよ。期末は副教科もあるのが面倒だなぁ。中学の時よりは少ないけど」

「副教科も頑張った方が良いかもです。大学入試でAOや推薦を狙うなら評定平均に響いてくるので」

今日の帰りのSHRで配布された、期末テスト日程範囲表を眺めつつため息まじりに呟いた智史に、葉月はほんわか顔でエールを送る。体育、書道、情報は授業評価のみで期末テストは無しだ。

「智実ちゃんはAOと推薦は邪道。当日一発勝負の一般入試で挑まなきゃダメってお考えみたいたけどね」

「それ俺にも言ってたよ。俺も推薦は考えてないし、智実は副教科の分の成績は考慮しないって言ってたから……とりあえず平均点くらいは取れる程度に頑張るよ」

「それがベストだね。サトシくんの高校のテストスケジュールはJulyの一、二、三、四、五か。今度のSaturday,Sundayはサトシくんをconfinementだね」

「つまり土日は幽閉されて勉強漬け。外出禁止ってことよ」 

「えっ、でも。今度の土曜は欲しいマンガの発売日なのに」

 モニカと露古湖から告げられたことに、智史はどぎまぎする。

「そんなのはテストが終わってから買えばいいでしょ。サトミちゃんもその辺のメリハリは付けてるわよ」

 露古湖はこう意見した。

「でも、絶対売り切れそうだし。発行部数そんなに多くないから」

「サトシくん、マンガに萌えキャラを求めなくても、ワタシ達がいるじゃない」

 モニカはウィンクする。

「確かにきみ達はマンガやアニメの萌えキャラに匹敵、いや凌駕するくらいとってもかわいいけど、実際のマンガやアニメのキャラじゃないと話題性が……あと、見たい新作アニメの放送開始日とも見事に重なってるよ。中学の頃は一学期末は六月中、夏アニメ放送開始前に終わってたんだけどな」

「それもテスト終了後のenjoymentということでー」

「気になって余計勉強に実が入らないかも」 

 智史はかなり不満そうにする。

「そういう子はたとえアニメが無くても何かと理由を付けてそう言うものです。智史さん、期末試験は今学期の成績に大きく響く一大イベントですので、一生懸命頑張りましょうね」

 葉月はにこにこ顔でエールを送ってあげた。

「分かったよ。テスト終わるまで我慢するよ。総合得点で百位以内に入らないと、智実にかなりやばい折檻されるし」

「Oh,そうなんですかっ! サトシくんのリトルシスターはeducational policyがワタシ達とsimilarなんだね。サトシくん、これはますます本気出さなきゃいけないね。ワタシ達だけでなくサトミちゃんからもボコボコにされたら女々しくて弱々しいサトシくんはリアルに再起不能になっちゃうもんね」

「うっ、うん」

 こうして智史は椅子に座るというか、ギラギラした目つきのモニカに力ずくで座らされる。

智実の通う小学校でも七月二日から四日までの三日間に渡って、良妻賢母理念と共に学業も重視な教育方針により、全学年で一学期総復習ペーパーテストが実施されることになっている。五、六年生は国語、算数、社会科、理科、英語、図工、音楽、保健体育、家庭科の九教科だ。

「智史君の通う高校で上位百位以内なら、国公立大現役合格を目指せそうね。智実ちゃんの通う学校の高等部と比べたら劣るけど、智史君の高校も毎年東大一、二名、京大四名前後の現役合格者が出てるから、それなりの進学実績があるじゃない」

露古湖は智史の高校入学時に配布されていた高校生活の手引きの冊子、進路状況の項目を眺めながら話しかける。

「まあ、近隣の公立で二番手みたいだから。三人に一人は国公立大に進学してるようだし」

「智史さんも、国公立大狙いですか?」

 葉月は興味深そうに尋ねてくる。

「うん。母さんもそれを望んでるし。私立は学費高いからね」

「親孝行ね、智史君」

「いっ、いやぁ、そんなことは……」

 露古湖に頭を優しく撫でられ、智史は頬を少し赤らめ照れくさがった。

「サトシリカゲル、期末テストで学年順位楽々百位以内に入れる裏技があるぜ」

「そんな方法が本当にあるの!?」

 化能蒸から突然告げられたことに、智史は驚き顔で問う。

「うん。職員室に忍び込んで問題を盗み出せばいいのだ」

「そっ、そんなことしたらダメに決まってるだろ」

 化能蒸のアイディアに、智史はすかさず突っ込んだ。

「化能蒸ちゃん、それは校則の厳しい高校だったら停学どころか退学に値する行為よ」

「あいだぁーっ!」

 露古湖にゴチッと思いっ切り頭を叩かれ、

「不正行為は厳禁です。試験は正当な方法で挑まなければなりません!」

 葉月に険しい表情を浮かべられ、

「ごめんなさーい」

 化能蒸は慌ててぺこんと頭を下げた。

本当は、やりたいんだけどね。

智史がこう思ったその時、

 ピンポーン♪ いつもの朝のように玄関チャイムが聞こえて来た。

「智史くん、おば様。こんばんはー」

 伸英がやって来たのだ。

やっぱり来たぁー。

 智史は気まずい気分に陥る。

 テスト直前になると伸英は毎回のように、テスト範囲の重要ポイントなどを教えに来てくれるのだ。中学一年一学期中間テストの頃から続けている伸英の習慣となっている。

「智史ぃ、伸英ちゃんが来てくれたわよーっ。下りてらっしゃーい」

「はいはい」

 母に叫ばれ、智史は部屋から出た。階段を下り、玄関先へと向かっていく。

「智史くん、今日は私、お泊りするね」

「えっ!!」

 伸英からの突然の発言に、智史は目を大きく見開く。

「智史、よかったわね。今夜は伸英ちゃんがお勉強、付きっ切りで指導してくれるって」

 母はにこやかな表情で伝えた。

「智史くん、今夜はよろしくね♪ 外泊許可は播野先生に取って来たよ」

「べっ、べつに、そこまでしてくれなくても……」

 智史は困惑する。

「だって私、久し振りに智史くんちでお泊りしたくなったんだもん。この間、英語の授業でパジャマパーティが出て来たでしょ、私もやりたいなぁって思ったの」

 伸英は満面の笑みを浮かべながら言う。大きめのトートバッグも手に持っていて泊まる気満々な様子であった。

「そんな理由かぁ」

 智史は納得出来たが、やはり動揺している。

「伸英ちゃん、自分のおウチのようにくつろいでね」

 母は温かく歓迎した。

「はい! お世話になりまーす。英語で言うとメイクユアセルフアットホームですね」

 伸英は靴を脱いで廊下に上がると嬉しそうに階段を駆け上がり、智史の自室へ向かっていった。

「あっ、ちょっと待って、伸英ちゃん」

 智史は大声で叫ぶも伸英は聞く耳持たず、智史の自室に入ってしまった。

 これも毎度のことなのだ。

「どうしたの? 智史。今回はやけに慌てて。智史が持ってるオタクっぽい物、今さら見られたってなんともないでしょ?」

 母はにやにやしながら尋ねて来た。

「確かにそうだけど……」

 智史はそう答えて、急いで二階へ駆け上がった。

 自室の扉を開けると、

「智史くん、かわいいお人形さん、また増えたね」

 伸英は机棚を中腰姿勢でじーっと見つめていた。

よかったぁ。あの子達の姿は、見られてない。

 智史はホッと一安心した。

「智史くん、テスト範囲のプリント揃ってる? 足りないのがあったら、コピーしてあげるよ」

 続いて伸英は、机の上や引出を物色し始めた。

「全部揃ってるよ」

 智史はそう言うと、机備えの本立てからファイルを取り出した。

 科目毎にきちんと分けられ、全部で九冊あった。

「本当だ、一枚も抜けがない。えらいね智史くん。ちゃんと整理整頓出来るようになって」

 一冊ずつ捲って確認してみて、伸英は大いに褒めてあげる。

「いやぁ、それほどたいしたことでもないと思うけど」

 智史はちょっぴり照れる。あの子達の指導のおかげだし、と彼は心の中で思っていた。

「今までは全然出来てなかったんだから、大きな進歩だよ。ねえ智史くん、智実ちゃん作のかわいい女の子が表紙の家庭学習用教……あっ、これだね。イラストすごくかわいいね」

 伸英は、床に置かれてあった英語のテキストを拾い上げた。表紙をじーっと見つめる。

「そっ、それは……」

 智史の表情は凍りつく。

「智史くん、ちゃんと中の演習問題も解いてるね」

三〇秒ほど見つめたのち、伸英はパラパラ捲り始めた。

「えっ、あっ、うっ、うん。ちゃんと毎日続けてるよ」

「えらいね智史くん。授業中も最近はいつも真面目にノートを取るようになったし、期末テストでは良い点取れそうだね」

「うっ、うん」

 智史は背中から冷や汗を流しながら適当に頷く。

あの子達、飛び出して来ないだろうな?

と、智史はかなり心配になっていた。

「じゃ、いっしょにテスト勉強始めよう」

「わっ、分かった」

 智史が椅子に座ると、

「智史くん、もう少し詰めてね」

 椅子の僅かなスペースに、伸英も座ってこようとして来た。

「あの、伸英ちゃん。そんなに引っ付かなくても」

「でも、落ちそうだし。じゃあベッドの上でやろう」

 伸英はそう言うと、智史の腕をぐいっと引っ張った。

「わわわ」

 智史はベッドの上に座らされる。

「智史くんのベッド、ふかふかー♪ 私、今夜は智史くんと同じベッドで寝るね」

 伸英はうつ伏せなって足をパタパタさせながら言う。

「ダッ、ダメだよ」

 智史は嫌がる素振りを見せる。

「あーん、お願ぁ~い」

「でもぉ」

「智史ぃ、伸英ちゃん。夕飯が出来たわよーっ!」

 気まずい雰囲気を打ち消すかのように、一階から母に叫ばれた。

 こうして二人はキッチンへ。

「今夜は伸英ちゃんの大好物よ」

 母は機嫌良さそうに伝える。晩御飯のメインメニューはハンバーグステーキだった。

「わぁっ。とっても美味しそう♪ ありがとうございます、おば様。私、貧血で倒れて以来、緑黄色野菜を日々たくさん補おうと心がけてるんです。ハンバーグは最適ですね」

 伸英は満面の笑みを浮かべる。

「智史も未だけっこう好き嫌いが激しいのよ、ミカンとか」

「だって酸っぱいし」

「智史くん、ビタミンCが不足して壊血病になっちゃうよ」

「俺、柑橘系やいちごは絶対好きになれないな」

 智史は苦笑いで主張し、椅子に座った。

「伸英ちゃんはここに座りなさい」

 母は微笑みながら、智史の向かい側の椅子を差した。

「はい、失礼します」

 伸英は嬉しそうにその場所に座る。

 そこ、母さんの席なんだけどな。

 智史はちょっぴり気まずく感じるも、ともあれ食事開始。母は普段は誰も使ってない予備の椅子に座った。

 十五分ほどのち、三人が食事を終えようとしたところ、

「ただいまー」

 父が帰って来た。まもなくキッチンにやってくる。

「おじゃましてます。おじ様」

「やあ伸英ちゃん、お久し振りだね。ますますかわいらしくなって。智史の嫁さんに最適だな」

「おじ様ったら」

 伸英は頬をほんのり赤らめた。

「何言うんだよ、父さんは」

 智史は当然のように迷惑がる。

「ハハハ」

 父は上機嫌で笑いながら、スーツから普段着に着替えるためリビングへ。

「ふふふ、智史も照れてるわよ。伸英ちゃん、お風呂ももう沸いとるから、このあとどうぞ」

 母は笑顔で伝える。

「ありがとうございます。でも、智史くん先にどうぞ。私、夕飯のお片づけを手伝うから」

「あら悪いわね、伸英ちゃん」

「いえいえ」

「じゃあ、俺、先に入るね」

 智史は夕食を平らげるとすぐに椅子から立ち上がり、風呂場へと向かっていった。

風呂椅子に腰掛け、髪の毛をこすっている最中、

「やっほー、サトシリカゲル!」

 全裸の化能蒸が湯船からバシャァァァーッと飛び出して来た。

「あの、化能蒸ちゃん。俺の入浴中に入り込んでくるのはやめようね」

 智史は優しく注意する。こういうことが度々あり、智史はもはや驚く様子は無かった。

「生ノブエステル、本当にかわいいね。生殖器と内臓のみならず細胞レベルまで観察したいくらいだぜ。ねえサトシリカゲル、今夜はノブエステルとベッドの上で交尾的なことするんでしょ?」

「……何言ってるんだよ。すっ、するわけないだろ、そんなこと」

 にやにや顔で質問してくる化能蒸。智史は焦り顔で即否定した。

「サトシリカゲル、つれないなぁ。普通ヒトのオスにとってのメスの幼馴染っていうのは、お互い仲良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのだ。サトシリカゲルは三次元世界の住人のくせにラブコメマンガやエロゲー、ラノベの設定みたいに恵まれてるんだから、ノブエステルを大切にしてあげなきゃダメだぜ」

「大切にするってそういうことじゃないだろ」

 化能蒸の力説に、智史が迷惑顔で反論していたその時、

「おじゃまするね、智史くん」

 浴室扉がガラガラッと開かれた。

「うわぁっ!」

「ひゃぅっ!!」

 智史と化能蒸はびくーっと反応する。伸英が入って来たのだ。

「あれ? 女の子……」

 伸英は化能蒸の方に目を向けた。

「やっべ」

 化能蒸はこう呟くと、一瞬で姿を消した。

「ねえ、智史くん。さっき素っ裸で紫髪の女の子がいなかった?」

 伸英はきょとんした表情で尋ねてくる。

「きっ、きっ、きっ、気のせい、気のせいだよ」

 智史が慌てて説明すると、

「……そうだよね? まあ、いいや。智史くん。お背中流すよ」

 伸英はあっという間に普段の表情へと戻った。何事も無かったかのように智史に接する。

「あっ、あの、伸英ちゃん。よく俺が入ってるのに平然と入って来れるね」

 智史は伸英から目を逸らそうとする。

 伸英はハイビスカス柄のワンピース水着姿だったのだ。

「昔はよくいっしょに入ってたんだし、全然抵抗ないよ。それに私、水着着けてるし、智史くんだって前隠してるでしょ。いっしょにプールに入ってるようなものだよ」

 伸英は智史の下半身をちらっと見て、にこやかな表情で主張した。

「そういう問題じゃないって」

 それでも智史は居た堪れなく感じていた。目のやり場にも非常に困ってしまう。

        *

「どうしよう。ノブエステルに微小時間だけど姿見られちゃったよ」

 智史の自室に戻った化能蒸は苦笑いで四人に報告した。

「Oh my gosh!」 

「化能蒸お姉ちゃん、間に合わなかったんだね」

 モニカと理密図はハハッと笑う。

「その後は、何事も無かったかのように普通に接してるけど」

 露古湖はモニターに入浴中の二人の映像を映した。

「幸いなことに伸英さんは、お部屋の様子を見る限りメルヘンチックなお方でしょうから、わらわ達の姿が見られても全く問題ないかもです」

 葉月は冷静に分析する。

「それじゃあさ……」

 化能蒸はあることを提案した。

 それから少し時間が経過した浴室内。

「智史くん、男子の水泳はすごく大変だよね。五〇メートル途中で足付かずに泳ぎ切らないと夏休み補習に呼ばれるみたいだし。女子の方はノルマないし、遊びみたいなものだよ。智史くん、一学期最後の授業までに泳ぎ切れそう?」

 伸英は湯船に体育座りをしてくつろぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。

「まあなんとか。じゃあ、俺、もう出るね」

「智史くん、もう出るの? 早過ぎだよ」

 伸英は困惑顔で注意した。

 智史は化能蒸が姿を消してからすぐに逃げ出そうとしたのだが、伸英に捕まえられ、背中を洗われさらに湯船にも力ずくで入れられてしまったのだ。彼は嬉しいという気持ち以上に恥ずかしいという気持ちの方が遥かに凌駕していた。

「やっほー♪ 智史お兄さん。伸英お姉さんも来てるんでしょ?」

 そこへつい数分前に帰宅した智実もすっぽんぽんで乱入してくる。

「あのっ、智実ちゃん、素っ裸はダメだよ。気遣いが足りてないよ。智実ちゃんももう五年生。大人の女の子の体になりかけてるんだから、智史くんと入る時はせめてタオルは巻いてあげてね」

「あぁんっ! もう、伸英お姉さん大胆だね」 

 伸英は慌てて湯船から飛び出し、智実の乳首を両手のひらでじかにぎゅぅーっと押さえ付け壁際に押し込む。

「伸英ちゃんも気遣い足りてないと思うけど」

 智史は困惑顔で主張しながら湯船から出て、伸英の背後を通り過ぎ脱衣場へと逃げて行った。

「伸英お姉さん、智史お兄さん見栄張って逃げてっちゃったし、水着脱いじゃいなよ」

「そうだね。脱いじゃおっと♪」

 こうして伸英もすっぽんぽんに。

「おう、伸英お姉さん、いいヌード♪ めっちゃデッサンしたい。ますます成長したね」

「智実ちゃん、そんなに見つめられると恥ずかしいな」

「ごめんなさーい。おっぱい、触ってもいいですか?」

「それは、ちょっと……でも、私も智実ちゃんのおっぱいしっかり触っちゃったし、ちょっとだけなら、いいよ」

「サーンキュ♪」

「ひゃぅっ! 智実ちゃん、優し過ぎてかえってくすぐったいよぉ」

「めっちゃ触り心地ええ♪ もっと欲を言えばお顔埋めて吸い付きたぁい」

「それは、さすがにダメだよ」

「冗談、冗談」

こんな会話が聞こえて来て、

智実、伸英ちゃんに猥褻行為はやめろよ。

智史はついつい耳をそばだててしまう。罪悪感に駆られた彼は籠に置かれてあった智実の薄ピンク系統の下着類はもちろん、伸英の白系統の下着類からも目を背けてバスタオルで体を拭き、急いでパジャマに着替え、リビングへやって来ると、

「あら智史、十分くらいで出てくるなんて烏の行水ね」

母から微笑み顔で突っ込まれる。

「だって母さん、伸英ちゃんと智実が……」

「智史ったら、小学四年生頃までは伸英ちゃんとよくいっしょに入ってたくせに」

 かなり気まずそうな智史を眺め、母はくすくすと笑う。

「大昔の話だろ」

 智史は当然のように不愉快になった。

「伸英ちゃんが昔みたいにいっしょに入りたいって言ってたから、入ったらって言ったのよ。そしたら伸英ちゃん嬉しそうに走っていって」

「母さん、その時引き止めてくれよぅ」

「どうして? べつにええやない。幼馴染同士なんだし」

 智史と母とでそんな会話をしていた時、

「智実ちゃんともいっしょに入れて私のお風呂タイムはいつも以上に楽しめました♪」

「うちも久し振りに伸英お姉さんと裸の付き合い出来てめっちゃ嬉しかったわ~」

 伸英と智実も上がってリビングへやって来た。

「俺はとてもくたびれたよ」

 智史はげんなりとした表情だ。

「それじゃ智史くん、お部屋に戻ってテスト勉強の続きやろう」

「うっ、うん」

「二人とも頑張ってね」

 コアラの着ぐるみパジャマ姿な智実に見送られ、智史が前、アジサイ柄パジャマ姿な伸英が後ろを歩いて二階へ上がっていき、

「サトシリカゲル」

「うわぉっ!」

 部屋に入った瞬間、智史は思わず仰け反った。

 化能蒸だけでなく五人全員、テキストから飛び出していたのだ。

「ちょっ、ちょっと、あっ、あの」

「あらま、女の子がいっぱいいるね」

 慌てる智史をよそに、伸英は素の表情で的確に突っ込んだ。

「いとうつくしきかたちなる伸英さん、初めまして。わらわは、智史さんに国語を教えている新玉葉月です」

「あたし、数学担当の四分一理密図だよ」

「アイアム栗巣モニカ。サトシくんにEnglishをレクチャーしてるよ」

「長宗我部・エリザベス・露古湖よ。世界史と現代社会を担当してるわ」

「理科担当の原子化能蒸なのだ」

 教材キャラ達は陽気な声で、伸英にごく普通に自己紹介した。

「あっ、あっ、あっ、あの……」

 智史はかなり焦る。

「はじめまして。私、延山伸英です」

 伸英は爽やか笑顔でそう言って、ぺこんと頭を下げた。

「智史くんの家庭教師さん?」

 続いて智史の方を向き、興味深そうに尋ねてくる。

「まっ、まあ、そんな、感じ」

 智史は焦り顔で説明した。

「アタシ達は、このサトミトコンドリア作の教材の中から出て来たのだ」

 化能蒸はあのテキスト五冊をぴっと指差す。

「そうなんですかぁ。すごいですねぇ!」

 すると伸英は目をきらきら輝かせ、五人のいる方へぴょこぴょこ歩み寄る。

「のっ、伸英ちゃん、この子達のこと、不思議に、思わないの?」

 智史は驚き顔で問いかけた。

「さすがにちょっとびっくりはしたよ。でも、飛び出す絵本の進化版だって考えれば、そんなに不思議には思わなかったよ」

 伸英はとても嬉しそうに言う。

「そっ、そう?」 

 智史はかなりホッとした。

「紙の教材にこんな技術を組み込むなんて、智実ちゃんは超天才だね」

 伸英の智実に対する尊敬度はますます上がったようだ。

「化能蒸さん、伸英さんにあのことを謝っておきなさい」

 葉月は困惑顔で命令する。

「うっ、うん」

「えっ!? 化能蒸ちゃん私に何か悪いことしたっけ?」

 伸英はきょとんとなった。

「アタシ、ノブエステルんちのお部屋に無断で忍び込んで、下着を何枚か盗みましたのだ。ごめんなさい」

 化能蒸は土下座姿勢で謝罪の言葉を述べた。

「なぁんだ。そんなことか。いいの、いいの、私、全然気にしてないよ」

 伸英は爽やかな表情で言う。

「ありがとうございます。ノブエステル」

 伸英の寛容さに、化能蒸は再度深々と頭を下げ感謝の意を表した。

「今夜はみんなでいっしょにテスト勉強しよう。七人でやるとすごく楽しそう」

 伸英は嬉しそうに提案する。

「OK.たまには他の科目もラーニングしてみたいからね」

「もちろんいいよ。あたしもいろんな科目勉強して、もっともっと賢くなりたいから」

「わらわも勿論参加致します。数学と理科の苦手意識をほんの少しでも無くしたいですし」

「アタシもいっしょに頑張るぜ。サトシリカゲルとノブエステルだけにたくさんの科目を学ばせるのは不公平だからな」

「智実ちゃんも創作活動のために幅広い教養を身につけた方が良いという考えみたいなので、わたくしも参加します」

 教材キャラ達は快く了承してくれた。

「とりあえず、智史くんの一番苦手な英語からやろっか?」

 伸英はこう提案した。

 その直後に、

「伸英お姉さん、智史お兄さん。勉強頑張ってるとこ悪いけどちょっとの時間失礼するね」

 ガチャリと扉が開かれ、智実が入り込んで来てしまった。モニカ達はすばやく教材内に飛び込んで智実の目には一切映らず。

「智実、いつも言ってるけどノックくらいしろよ」

 智史は迷惑そうに言う。

「まあいいじゃん。うち、智史お兄さんと伸英お姉さんのために、期末テストの主要科目予想問題集作ってあげたよ。これも活用してね」

 智実は期末テスト予想問題集と題された冊子を手渡してくる。

「ありがとう智実ちゃん! 良い点が取れるように頑張るよっ!」

 伸英は嬉しそうに受け取る。

「ありがとう。五教科九科目分あるんだな」

 智史もちょっぴり躊躇うように受け取りつつも、感謝の気持ちは感じていた。

「智史お兄さん、うちに折檻されんようにテスト勉強しっかり頑張りよ。うちはめっちゃ折檻したいねんけどね♪」

 智実はそう伝えてフフッと笑う。

「智史くん、頑張らなきゃダメだよ」

 伸英に肩をポンッと叩かれ真顔で言われ、

「分かってる。俺も今回は本気モードだよ」

 智史はきりっとした表情で主張した。

「智史お兄さんにそう言ってもらえて、うちは嬉しいような嬉しくないような複雑な心境だな。。

「ほな二人とも、テスト勉強頑張ってね。うちも頑張るから。エッチはまだ高校生なんやからしちゃダメだよ」

 智実はにやけ顔でそう言い残し、この部屋から出て行った。

「邪魔だから二度と入ってくるなよ」

 智史は不愉快そうな顔でこう注意しておく。

「それじゃ、勉強再開しよっか?」

伸英はちょっぴり頬が赤らんでいた。

「そうだね」

 智史がそう呟いていると、

「一応隠れておいたぜ。サトミトコンドリア作者だから姿見られてもいいとは思ったけど」

「わらわも、智実さんにもわらわ達の姿を見られてしまっても良かったのではないかとも思いました」

「あたしもそう思ったぁ」

「I agree.」

「わたくしも同意よ。途中で出ようかと思ったわ」

 化能蒸を先頭に、他の四名も次々と教材から飛び出して来た。

「私も智実ちゃんにも見られてもいいと思う。むしろその方がいいんじゃないかな?」

「俺もそうも思うけど、とりあえず今はナイショにしておこう」

その後もモニカ達の姿は智実に見られることなく、みんなで副教科を除く五教科九科目の重要項目をそれぞれ十五分から二〇分ほど軽く勉強していき、あっという間にまもなく日付が変わる頃になった。

「智史お兄ちゃん、伸英お姉ちゃん、おやすみなさーい。いろんな教科が学べて知識も増えて楽しかったよ」

「おやすみサトシリカゲル、ノブエステル。二人で太陽の中心のように熱い夜を楽しんでね」

「おやすみなさいです」

「グッナイ! See you again,ノブエちゃん」

「智史君、伸英ちゃん。おやすみ」

 教材キャラ達は就寝前の挨拶をして、テキストに飛び込んでいく。

「おやすみーっ。出会えて嬉しかったよ。智史くん、とっても素敵な家庭教師さん達だね」

 伸英は全く不思議がることなくその様子を眺めていた。

「あの、伸英ちゃん。あの子達の存在は、他のみんなには絶対ナイショにしてね」

「もちろんだよ。二人だけの秘密にしようね」

 伸英がこう言ってくれて、智史はホッとする。

「あの、伸英ちゃん、もう一つお願いがあるんだけど、俺と同じ布団で寝るのは、やめて欲しいなぁ。出来れば母さんの寝室で」

「それは嫌だよ。私、智史くんと同じお布団で寝るぅ!」

 この要求は、伸英は受け入れてくれなかった。智史は当然のように困惑してしまう。

「じゃあ俺は、床で」

「ダメだよ。そんな所で寝たら絶対風邪引いちゃうよ。いっしょに寝るのは私と智史くんだけじゃないよ。この子もいっしょだよ」

 伸英はほんわか顔でそう伝えると、

「じゃーん、これ見て。智史くんにこの間取ってもらったナマちゃん。川の字に寝よう」

 トートバッグからそれを取り出し、敷き布団の上に置く。

「……」

 智史は困惑顔を浮かべながらも、無いよりはマシかなっと思った。

「智史くんも早く寝よう。夜更かしは体に毒だよ」

伸英はおかまいなく、いつも智史が使っている夏蒲団に潜り込む。

「わっ、分かった」

 智史はそれからすぐに電気を消して、ゆっくりとした動作で慎重に同じお布団に潜り込んだ。

「おやすみ智史くん」

「……おやすみ」

 そんな会話を交わしてから二分も経たないうちに、伸英の寝息が聞こえて来た。

「……眠れない」

 智史は極度の緊張で目が冴えてしまっていた。

 それから三〇分くらい経っても、状況は変わらず。

間にあのナマケモノのぬいぐるみがあったため、体が引っ付き合うことは避ける事が出来たのだが、それでもやはり気になってしまう。

「サトシリカゲル、今、ノブエステルと交尾する絶好のチャンスだぜ」

「うわっ!」

 化能蒸が突然目の前に現れ、智史はびくーっと反応した。

「ノブエステルの寝顔、とってもかわいいでしょ?」

「たっ、確かにかわいいけど」

 智史は伸英の寝顔をちらっと覗いてしまった。

「まず手始めに服を捲りあげて、ブラジャー外しておっぱいじかに触っちゃえ」

「そんなこと、出来るわけないだろ」

「サトシリカゲル、草食動物みたいだな。そんなんじゃ子孫残せないぜ」

「化能蒸ちゃん!」

「あいたぁ!」

 突然、露古湖に背後から頭を叩かれた。

「ごめんね智史君。化能蒸ちゃんがご迷惑かけて。すぐに引き戻すから」

「あーん、ロココロナ。もう少しだけぇ~」

「ダメよ、智史君困ってるでしょ」

「やっ、やめてぇぇぇ~」

 露古湖は嫌がる化能蒸を、自分のものと同じ社会科のテキストに押し込めた。

「それじゃ、おやすみ智史君。化能蒸ちゃんのことならもう心配ないわ。自分用のテキスト以外からは、自ら脱出も侵入も出来ないからね」

 露古湖はにこにこしながらこう告げて、社会科のテキストに飛び込む。

「あっ、ど、どうも」

そんな仕様もあったのか。よかった。

 智史はこれで一安心する。

 布団に潜り込もうとしたら、

「あの、智史君」

「うわっ!」

 再び露古湖が飛び出して来た。智史は少しだけ驚く。

「今日、というかもう昨日だけど、伸英ちゃんがいたから体罰は控えたけど、また今日から復活するからね♪」

 露古湖はウィンクして、再度テキストに飛び込んだ。

「……やっぱり」

 智史は苦笑いする。彼は再び布団に潜り込んだが、やはり伸英がすぐ隣で眠っていることもあって、なかなか寝付けなかったのだった。

          ☆

朝、七時三五分頃。

伸英ちゃん、いないな。

 智史が目を覚ました頃には、すでに伸英の姿は無かった。智史はいつも通り制服に着替え、一階ダイニングへと向かっていく。

「おはよう智史」

「おはよう智史くん」

「おっはよう智史お兄さん、今朝の朝食、伸英お姉さんも手伝ってくれたよ」

「そうなんだ」

伸英もすでに制服に着替え終えていた。制服は持って来てなかったので、一旦家に戻ったらしい。

「私はスクランブルエッグを作ったよ。食べてみて」

「美味そうだ」

 智史は椅子に座ると、最初にスクランブルエッグに箸をつけた。

「けっこう、甘いね。俺の好みだよ」

 いつもの塩味とは違い、お砂糖いっぱいだった。

「ありがとう。嬉しいな♪」

伸英は満面の笑みを浮かべる。伸英は智史と同様、甘党なのだ。

智実も、甘いものが大好きである。


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