二章 中編
早乙女非鼠=アリス
片桐玲=アラジン
白露優那=ジュリエット
です
では本編で
日付が変わるまで二十分を切った。火鼠はベッドに仰向けになり、初めて会ったときに見たメアリーのプレイを思い出していた。あの反則的なまでの動きを。そう、あれは何らかの違反行為だったのではないか。
「――リリリリリリリリリリリ」
さっきセットしておいたアラームが鳴った。火鼠はけだるそうに起き上がりPCを起動した。
日付が変わった。メアリーの姿だけ見えなかったので思はず訊ねてしまった。
「あれ?メアリーはいないの?」
「明日寝落ちしないために寝るってよ」
言外に「お子様だよな。チョーウケル」とでも言っているかようにアラジンが答えた。
「そ、そうなんだ...。まあ、いいか。明日の大会のために、今日は早めに解散しようか」
「じゃあ、急ごう。もう、日付変わってるって」
「さっそく、凸るか」
アラジンのツッコミに対する明確な返事はなく、そのまま話が進んだ。
その後、解散する前に集合時間を確認した。その時間は、とても一般的には早めと呼べる時間に解散することはなく、三時過ぎまで続いた。彼らにとっては早めだったのかもしれないが。
――午後七時四十五分――大会受付終了まで残り十五分
「なんで、誰も来ないんだよ」
アリスは、大会会場の古代ローマ帝国のコロッセウムを模したスタジアムの前でひとり呟いた。
「はあ、なんか切なくなってくるな。待ち合わせの時間過ぎても誰も来ないと」
火鼠は、PCの前で何度目かのため息を吐いた。彼はもう、マイク付きのヘッドホンを装備し、いつでも始められるよう準備万端だった。一つ以外は。それは、メンバーが誰一人来ないことだった。
受付は全員が揃っていなければ、済ませることができないのに。
「ごめん遅れた」
その抑揚が欠ける声が聞こえたのは、受付終了時間まで、五分を切ったところだった。
「ロミオ、遅いって」
ロミオのキャラせいか、いままで募っていた苛立ちをアリスはぶつけることができないのであった。そのぶん、次に声をかけた人が、怒りを向けられることになったが。
「わりぃ、遅れた」
「おい、もう三分切ってるぞ。なんでそんなに、軽いんだよ」
「勇者ってのは、遅れてくるもんだろ」
アラジンは満面の笑みで言った。もちろん、アバターに表情を反映させる機能なんてないので、ボイスチャットを通した声しか判断材料はなかったが、それでも十分すぎるほど感情を予想できるほど弾んだ声だった。
「もういい、時間無いからさっさと受け付け済ませるぞ」
問い詰めても聞きたいことを聞くまでに、かなりの時間がかかってしまうことは予想できたので、これ以上聞くのを止めて受付に向かって歩き始めた。
その後、滑り込みで受付を済ませ、アリスはメンバーに、集合をかけた。
「少し相談があるんだけど、いい?」
「リーダーの相談を断るわけねえーだろ?」
アラジンが元気よく答え、メンバーが一同に頷いた。
「まあ、俺はてっきりさっきのこと怒られるのかと思ったわ」
「そんなに怒ってほしいのか?――まあ、時間がないからそれは後回しだ」
ちょっとした悪ふざけを真面目に返され、アラジンは驚いているようだった。
「実は、今回の大会の内容が変更になった」
「おい、アリス。四月でもないんだし、そんな真面目な声で嘘つくもんじゃねえぞ」
声と言ったのは、直接顔が見えないことを気にして言ったのか。
「......」
しかし、アラジンが予想しただろう答えは返ってこなかった。
「だと良かったんだけどなぁ。まあ、一概に良かったとはいえないけど」
「そんなことはいいから、本題入りましょうよ」
空気が重くなりかけてきたことに危機感を覚えたのか、いままで黙っていたジュリエットが、話を進めるために入ってきた。
「そうだな。じゃあ、よぉく聴いておけよ」
アリス以外が一同に息を吞むのが分かった。
いつもと違い、大きめの声で釘を刺した成果だろうか。あくまでも、普段より――だが。
「まずは一つ目、今回の大会は出場者が多いからシューティングでベスト4まで決めることになりました」
「なに!?練習してないぞ。それにさぁ、俺たちの中に狙撃得意なやついなくね?」
「ぎゃぁ!」普段のボイスチャットでは聞くことのできない可愛らしい声が響いた。アラジンにとってさほど大きくない声だったが、アリスの声をしっかりと聞き取るために音量を上げていいたためか、声量の差に驚いたための悲鳴か。それとも...。
刹那の沈黙がその場を支配した。
「そうだけど、まあ仕方ないよ。それは、どのチームも一緒だからさ」
アリスは勇気をもってその静寂を破った。
「おう、そうだな」
この沈黙を起こした一因を持つ男がそれを肯定した。全く悪びれもせずに。もともと、本人に罪の意識はなかったのかもしれないが。
そのアラジンらしいといえばアラジンらしい無神経な言動で悲鳴の主が再び機嫌を損ねないようにアリスは一度小さく咳払いをした。とはいえ、全員に聞こえる最低限の音はしっかりと出して。
「そんなことよりルールはどうなったのよ」
「そんなことより?なん――」
「ストップ!」
アラジンがメアリーの言いぐさに対して文句を言い掛けたのでアリスが透かさず仲介し、もう一度仕切り直した。
場を静めたアリスはその日二度目の声量で説明を再開した。
「まずデータ送るからそれを見て」
――ルール変更のお知らせ――
円形闘技場の中心に拠点を置き内壁の四方に配置された入口からmobが進行してくる形式の拠点防衛戦とする。
1.武器制限について:拠点防衛に適している機関銃、狙撃銃などは1分隊につき一つまでとする
2.能力値について:通常と同じとしHP喪失時に不利な制裁、制限などは発動しない
3.アイテムの使用について:通常の弾薬は支給される 特殊な弾薬、回復系のアイテムの消費は自己負担とする
備考:通常の弾薬はアイテムストレージ内に無限に配布される 武器の整備は自己負担とする
――数分後――
「どう、読み終わった?」
とアリスが声をかけ小さく溜め息を吐〈つ〉いた。誰にも聞こえないよう、マイクを少し口から離して。きっと火鼠はこのような場面で自分から声をかけることが苦手なのだろう。一回目でもないのに。
「アリス、どうしたの?」
過去最高に長い編になりました
次はもっと長くなる予定です
分けるかもしれませんが…
以後もよろしくお願いします
また、誤字脱字、ご意見等ありましたら遠慮せずに教えてください