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Alice in After World  作者: bell
序章
5/8

二章 前編

 夏季休業明けの週、火鼠(かそ)はテストの翌日から授業中時間を寝て過ごした。

 そこに、なぜ起こされないかという疑問が生じるだろう。もちろんその学校が、寝るのを許容しているわけではない。火鼠は窓側の一番後ろという席の恩恵を存分に満喫していたのだ。学校で寝ている理由は、家での寝不足の埋め合わせだ。そう、火鼠はこの特にイベントやテストが何もないこの時期にしかできない、彼的には最高の生活を送っていたのだ。家でゲームをし、学校で睡眠をとるという。そのような生活を送っている人がこの時期一人なわけもなく、その学級には他にも二人ほど机にうつ伏せになっている生徒がいた。


その週の土曜日『Faily Tails』のメンバーは、午後八時という普段では考えられないくらい早く集まっていた。なぜなら、明日三週目の日曜日。『After World』において第三日曜日はプレイヤー同士の対戦形式の大会があるからだ。その大会には個人戦、チーム戦がある。チーム戦には四部門ある。大隊(百二十)、中隊(六十)、小隊(二十)、分隊(五)の四種類である。 

 せっかく『深紅のメアリー』の所属により五人編成のスクワッドとなったので、この大会に参加してみようという話が前日の金曜日のプレイ中にでたからである。そのときはメンバー全員が寝不足で話が進まなかったので、次の日に早く集まって会議を開くことのなったのだ。


 五人用の円卓を囲い、今日行われる会議の要綱が書いているデータが全員にいきわたった。

「じゃあ、会議を始めようか」

そんなアリスの軽い一言で会議は始まった。

「まず、大会に出たい人いる?」

「はい!」

アラジンが勢い良く同意を示した。続いて、二人も同様に頷いた。

「あれ、メアリーは出たくないの?」

一人手を挙げなかった人、この前新しく加入した『深紅のメアリー』に尋ねた。

「みんなが出て欲しいって言うなら出てあげてもいいわよ」

これがツンデレってやつか。

「おいおい、そんなに乗り気じゃないのは寝落ちするからか?」

いままで溜まっていた不満を全力でぶつけるかのようにアラジンは煽った。メアリーの性格的にここで大人しくしていられないであろうことを全員が察していた。だからこそ、アラジンも煽ったのだろう。

「ストッ――」

「なによ。ただ夜に弱いだけよ」

火鼠の心遣いの間一髪で間に合わなかった。アリスは諦めたようにため息を吐いた。ジュリエットは傍観に徹するというのが見て取れた。ロミオも同様に見えた。

「へぇー、初日から寝落ちしといて?」

「じゃあ、仕切りなおそうよ。どうして出たくないの?」

ロミオの優しい一言でヒートアップ寸前の空気が霧散した。傍観すると見えたのは若干のいら立ちが含まれていたからか。アラジンは面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「寝ちゃうから...」

やはり、小さい子どもに長時間のゲームプレイは難しいのだろう。

「そうだよね。勝ち進んだら長時間になるからね」

火鼠にとっては優しく言ったつもりだった。怒らせないように。

「あんた、馬鹿にしてんの?」

「じゃあ、やっぱり出ないってこと?」

「そうは言ってない!」

難しい。アリスが悩んでいるとロミオから助け舟がでた。

「メアリー、ホントは出たいんだよね?」

「だから、ワタシ――...うん」

メアリーもここで断ったら、後戻りができないことを察したのか素直に本音を言った。

「全員が参加に賛成ってことで」

と、まとめた。


 場面が変わって、ダンジョンの中。銃撃音が、複数響き渡っていた。あの後ダンジョンばかりプレイしていて、対人戦の練習をほとんどやっていないとこを気がつき、さっそく練習することになったのだ。

 相手を募集しても良かったのだが、時間がかかるのでプレイヤーと同じ装備の中からランダムで装備してくるゾンビをメインに討伐するクエストに出たのだ。もちろん、大会練習のために来たので難易度は高めである。

「あいつ、早い。通常の三倍で動いてるんじゃないか」

「そんなわけあるか」

「はあ、真面目に返すなよ」

アラジンにツッコミを入れながら、メアリーをもう一度見た。確かに、三倍とまではいかなくてもメアリーのスピードは以上に早い。アサルトライフルなのに片手拳銃よりも早い。流石に早すぎる。アリスがそんなことを考えているうちに戦闘は終わっていた。ほとんど、練習しないうちに。

「アリス、動き悪かったぞ」

「ああ、ごめん」

そう返したアリスだったが、完全に上の空だった。しかし、ずっと思いにふけっていることはできなかった。

「ちょっと、アンタ。自分から誘っておいて今のプレイはないんじゃない」

思考から、引き戻したのは皮肉にもアリス自身だった。

「ちょっと気になることがあって...」

「そんなんじゃ、死ぬわよ」

アリスがメアリーに責められているなか、アラジンは「そこは、『バカなの?死ぬの?』が鉄板だろ」と呟くのであった。

「まあ、いいわ。リーダーがそんなんならワタシ今日はもう落ちるわね」

「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」

ジュリエットがメアリーの言い方が気に食わなかったのか、珍しく自分から突っかかっていった。

 しかし、全く取り合ってももらえずメアリーは帰ってしまった。

「ほんと、なんなんでしょうか。自分だってさんざん、寝落ちとかで迷惑かけてるのに」

ジュリエットがため息をを吐くように言った言葉に「今回は僕が悪いからさ」と言いった。「でも、あんな言い方することない」

無口なロミオもフォローを嬉しく思った。

「そうだ。新入りのくせに!」

「でも、今回は悪いのは僕だから。アラジンもメアリーをあんまり悪く言わないで」

「アリスは優しすぎるんだよ」

「アラジン、リーダー命令」

「わ、わかったよ」

抑揚にかける声で、止められアラジンは何も返せなかった。

「今日、集中できてなかったのも事実だから今日は解散にしよう」

語尾にいくにつれて落ち込んでいくその言葉に誰も何も言えずその日は解散となった。

ボイスチャットが切れる寸前に聞こえた舌打ちは誰のものだったのだろうか。


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