大陸間の移動
「ここが私の家。入って、入って」
そう言われて、入ったのはロクロさんの家。
ホーミル大陸を治めているクライク家なだけあって、でかい。
「お姉様、お母様達は…?」
「ん~、ロクロのところに行く前に少しだけ話していてね。お母様達は、私が跡を継ぐことを了承してくださったの」
「えっ、お母様達が、ですか!?」
「うん。ロクロも旅に出ると思うって言ったら、それも了承してくださって。今、あの2人は旅行に行っているわ」
ああ、ロクロさんが嫌っている(と、言うのは俺の思い込みも含まれてるけど…)両親の事か。
ただ、今、思い出したがロクロさんはミクロさんの事も少し苦手じゃなかったか?
まぁ……仲が良いなら、別にいいが。
「さて、と……じゃあ、クライク家の主として一応仕事しないとね。ええっと、ローク達はこの大陸からどこを目指したいのかしら?」
「……ヒスイ、聖なる祭りはどこでやってるんだっけ?」
「聖なる祭りは……センメル・ケア大陸ですね。そうだ、ミクロさん。聖なる祭りってご存じですか?」
俺はあの資料を見てないから分からんが、ミクロさんは知っててもおかしくない人って事か?
「あー……ごめんなさい、私が正式に跡取りに…主になったのは先刻の事だから。全然、情報とかも引き継げてないの。たぶんそれって、主になった後に初めて伝えられるものだと思うから…」
「そ、そうでしたか…」
ヒスイがちょっと寂しそうな顔になる。まぁ、手がかりがあの資料だけじゃちょっとなぁ……。
「えっと、そのお祭りに行きたいのかしら?」
ヒスイは何かを考えていて、返事をしようとしないので代わりに俺が答える。
「はい。だから、パスポートが欲しくって……センメル・ケア大陸に行くために」
「え、ちょ、ちょっと待って!!もしかして、知らないの?」
?何をだ?
「お姉様、たしか、一般人にパスポートが渡されることはないから、規則にほんの少しの嘘が書いてあるってお父様が言っていた気がします…」
「えっそうなの?こんな事もこの先あるかもしれないし、文章変えた方が良いなぁ…」
「ミクロさん?」
なんだか、ものすごーーーーーく嫌な予感する。うん、気のせいじゃないね、これは。だって、だって、ミクロさんが苦笑してる。ロクロさんが気まずそうにしてる。うん、予想着いたけど、現実逃避したい。
「え…っと。一般人には普通、パスポートが渡されないから知らないと思うけれど…」
「はい…」
「大陸全てを行けるパスポートを持って良いのは貴族だけで…」
「はい……」
「一般人に渡せるパスポートは、一つしか行けないの」
「はい………え?」
今、なんて?
「この大陸からは、ユグリア大陸行きのパスポートしか渡せないの」
「大陸から出れない訳じゃ…ないんですか?」
「当たり前でしょ!さすがに、そこまでこの世界は酷くないよ」
「な、なんだ……てっきり出れないものかと思った……」
そしたら、不法出国しか手段がなくなるからな。よい子は真似しないでね。
「にしても、センメル・ケア大陸かぁ……」
「どれ位遠いんでしょうか……」
聞いても無駄な気がするけどな。
「そうね……私たち貴族の持ってるパスポートを使って、1日中飛び続けられるとして………大体、1ヶ月かしら」
「……俺たち一般人は?」
「手続きがスムーズにいったとしても……1ヶ月半かな」
遠っ。1日中飛び続けるとか無理だし、それ以上かかるって事だろ?
この世界って、本当にでかかったんだな……。
「……俺たちは、センメル・ケア大陸に辿り着けるとして…どういう順番で大陸を回っていけば良いんですか?」
「ここのホーミル大陸を出発点とするなら、まず、ユグリア大陸。次に、キャペイン大陸。ナカノミア大陸、レミング大陸、スクモール大陸、センメル・ケア大陸って順番。ナカノミア大陸とレミング大陸が一番離れてるのよねー」
「じゃあ、センメル・ケア大陸は、一番最後って事ですか…?」
お、ヒスイが復活した。何考えてたんだろ。天界の事か?
「まぁ、そうなっちゃうね。けど、私はある程度の大陸とは仲が良いから…頼めば、その大陸に着いた次の日には出発できると思うよ」
「本当っ、ミクロさん!!」
ヒスイが目をキラキラさせている…。
なんだろう、ヒスイって落ち着いてるんだけど、こういう時だけ子供っぽくなると言うか…。
あれ、そういえば、ヒスイって人間の年齢にすると、何歳なの?
「えぇ。ユグリア大陸行きのパスポートは、あなた達分用意してあるから、今すぐ出かけられるけれど」
「ヒスイ、どうする?」
「武器とか食料とか、色々調達したいですね……」
「じゃあ、明日の昼頃に出発するか?」
「えぇ。ロクロさんも、それで宜しいでしょうか?」
「私はいつでも出発できるので大丈夫です」
「じゃあ、決まりだね。明日の昼頃に港に集合。パスポートは、3つで良いのかな?」
「あ、シグハさん……」
「いや、あの人は来ない」
「どうしてですか、ローク。そんなに決めつけて……」
「怒ってるのか…?……ここに来る前に聞いたんだよ。即答で、NOだった」
「なら……仕方ないですけど……」
「じゃあ、3つで決まりだね。仲良い大陸の人達には連絡しておくから。また明日ね」
「では皆さん、また明日」
ロクロさんとミクロさんがいなくなったので、俺達も帰ることにした。
「やっと……見つけた……」
「?どうした、ヒスイ?」
「あ、いえ。……ローク」
「ん?」
「明日からは、よろしくお願いしますね」
…………笑顔が可愛い。
い、いや、そうじゃなく!!
「ああ、こっちこそよろしくな」
俺も笑顔で返した。
「うーん、やっぱり似てるよねぇ」
「お姉様、どうしたのですか?」
「ん、ちょっと写真を見ていてね。ロクロも見てよ」
「………あ、似てますね。と言うか……本人?」
「けど、名前が違うんだよね。嘘をついてるようには見えなかったんだけど…」
「そもそも、なぜこの大陸にいるんでしょう?」
「分からないことだらけね。本人のお姉さんに連絡しようかな…」
「何かあるのかもしれませんし、他家が介入してはいけないのでは?」
「それもそうかぁ…。じゃあ、向こうから連絡来たら答えるって事で」




