扉を開けて
「もういやああああああああ!!!!!!!!!男に生まれたかった!!!!今すぐ変わりたい!!!!」
あれ、ロクロさんってこんな人だっけ?俺の中のロクロさんのイメージが少しずつ崩れているような………い、いや、気のせ…
「ロクロちゃーん、部屋を破壊しないでくれる?」
「なんで入って来てんのよ、バカァ!!!!!!」
シグハさんが扉を開けた瞬間、ロクロさんは氷魔術を繰り出し、シグハさんごと扉を凍結させた。
……って、ええええええええ!?
ダメだ、なんかもう、色々信じられない。全部夢かな。うん。
何より、ロクロさんが女とか嘘だろ?
「あ、あの、ロクロさん、落ち着いてください!!」
「………ヒスイ、さん?」
お?落ち着いた?
「あの、ロクロさーん……」
「…………ローク」
「はっ、はい!!何でしょう!!ごめんなさい!!」
「……反対側向いて」
「え、あ、は、はい、向きました!!」
どうしよう。少しだけ部屋の中見えちゃって、ロクロさん見えたんだけど……美女だ。
黒髪で、白のワンピース……本当に女だったんだ……。
「ヒスイさん、どうやって入ったんですか?扉はあんな状態ですけれど……」
「あんな状態になる前に入ったんです。危機一髪でした~」
え、ヒスイすげぇな。
天使って、俺たちみたくレベルあんのかな?あるとしたらレベルどれくらいなんだろ……。
「…………」
「あの、ロクロさん。私、聞きたいことがあるんです」
「…何でしょう?」
「何故、男装されているのですか?それが気になって。良ければ教えていただきたいのですが…」
んー……こういうのって、俺はいない方が良いんだよな。男だから。
聞きたいけど、ロクロさんが嫌がるだろうし。
こっそり退散……。
「いいよ、ローク。そこにいて」
「えっ、でも……」
「良いの。聞いてて。話したら、何かが変わるかもしれない……」
じゃあ……聞こうかな?ただ、質問とかはしないようにする。
俺は、聞くだけだ。
「…何から話せば良いのかなぁ。私が男装してる理由って……考えてみるとしょぼいものかもね」
そう言って、ロクロさんは静かに語り出した。
………と思ったら。
「おーい、ロクロー!お姉ちゃんが遊びに来たよー………って、あれれ、お客様?」
「お姉様…?」
「「お姉様!!?」」
俺とヒスイの声が見事にハモった。
いや、それはどうでもいい!!!え、お姉様!?
「ん?なんでロクロは男装してないの?この人たちに言った訳じゃないでしょう?うーん……」
「あ、あの、あなたは…」
え、この人ロクロさんのお姉さん!?姉妹揃って美人だなー。
「私?私は、ミクロ!!ロクロのお姉ちゃんなの!君は?」
「お姉様、一応話し方は変えてください…」
「え?そうした方が良い?けど、ロクロが普通に男装ひてない姿を見せてるってことは何か安心するものがあるんでしょう?なら、私は話し方を変えない!で、で、君は?あ、あとそっちにいる女の子もー!」
「お、俺はロークです…ローク=シャール」
「私はヒスイ=ミタリアです」
「ロークにヒスイね!覚えたわ。で…ロクロは、何かしらの事情により女であることがばれてしまって、とりあえずその場から逃げ出したけど、ここで暴走。そして、この扉を氷漬けにしたと…なーにやってるの」
「す、すみません…今、解除します…」
「うーん…それはいいわ。声は十分聞こえるしね」
ロクロさんと違って明るい人だなー。
「ミクロさんは、どうしてここに?」
「何かありそうだなーって思って。……ねぇロクロ。いい加減、決めなよ。あなたは旅に出たいんでしょう?この世界を自分の目で見たいんでしょう?後のことなんて私に任せなさい。お母様たちのことなんて考えないで…そうね、ロークたちと行ったら?ロークも、ヒスイと一緒に旅をするんでしょう?」
「え、なんでそれを…」
「なんとなくわかるのよ。…私は、あなたの行きたい道を尊重するわ。いい加減…自分で扉を開けたら?氷の壁を溶かして…本当の姿で出てきて」
ミクロさんの優しい笑顔がロクロさんに向けられる。
ロクロさんはその笑顔を見て、少しの間、下を向いた。そして…俺は初めて、ロクロさんの笑顔を見た。
「お姉様には敵いませんね………家のこと、頼んでもいいですか?」
「良いわよ。行きなさい。それが、あなたの道よ」
少しして、ロクロさんは扉の氷を溶かした。シグハさんも氷から解放されたが、一人だけ何もわからず「え?え?何何、どういう状態なの??」と言っていた。
ただ…少し思うことがあるとすれば、男装してた理由結局わかってねぇ…ま、いっか。
「ローク…私のこと、仲間にしてくれる?」
「…頼りになります、ロクロさん。これからよろしくお願いしますね」
「じゃあ、改めて自己紹介…ロクロ=ハーロードです。よろしく…」
「ロクロ。仲間にしてほしいなら、本名名乗りなよ」
本名?
「そうですね。……ロクロ=ハピル=クライクです。よろしくね」
「え?クライクって…もしかして…」
「え?え?どうしたのですか、ローク?」
「あの、ホーミル大陸を治める大貴族の……?」
「うん……実はそうなの」
は?は?
少し待て。状況整理だ。
男だと思ってた人が実は男装していた女でした→めちゃくちゃ美人でした→その人の姉現る→なんやかんやで仲間になる→実は大貴族(←今ここ)
「はーーーーーーー!!!?」
俺は今日、何回叫べばいいのだろう。頭の中でそんなどうでもいいことを考えて、現実逃避。
また、頭の中で何かを思い浮かべながら。
「まだ、見つからないの?」
「申し訳ありません、お嬢様…」
「お父様たちがよっぽど遠くに隠したのね。許せないわ……」
「国王ですが、未だに口を割らず…」
「お母様のことを出しても?」
「はい…。死んでも教えられない、と…」
「そう…。なら、占うしかないわね。他の大陸に行きたいところだけど…理由がないと兵は出せないものね」
「大陸内でも、引き続き聞き込みを続けます。では…失礼します」
「お疲れさまでした。………もうすぐ。もうすぐだよ…待ってて、ローク」




