昔からの仲間・2
「と、とりあえず、買う…よな?」
気まずい雰囲気を打ち破るように、ドグが言った。
「ん、まぁ。いくら?」
「あー…今回は出血大サービス、無料でいいよ」
え、まじかよ、なんか企んでね?
「なんも企んでないよ」
「お、お前…いつの間に読心スキルを…!?」
「あほか、お前と何年いると思ってる?だいたいはわかるんだよ」
「うわぁ…俺は、お前みたいな男じゃなくて女にそう言われたい」
「失礼だなー、なら20キャルもらうからな」
「うわやめて。お願い。2キャルならまだなんとか可能だけど」
「冗談は心の中だけにしておけ―、俺ならまだしも、キリとかに聞かれたらお前死ぬぞ」
「そうだな…あいつら、元気かなー」
全然会いに行ってないし、会いに来てくれないんだよなー。
まぁ、色々とお互いあるから無理なんだけどなー。
けど、久々にあいつらと会いたいよなー。
最後に会ったのは5年前とかだったかな…。
「ローク、キリさんって、誰なの?」
「え、ああ、俺の昔の仲間」
「仲間…」
「ヒスイさん、俺たちは昔こいつ…ロークを中心とした仲間でしてね。あと6人、仲間がいるんです。各大陸に散らばっていまして」
「え、では、どうやって皆様は出会ったのですか?」
「ああ、昔は全員このホーミル大陸にいたんですよ。ただ、5年前に各大陸に散らばったんですよ。こいつの命令でね」
「命令?」
「んー…まぁ、ちょっと色々な。調べてほしいことがあったから、各地に行ってもらったんだ」
あんまり、このことをヒスイには知られたくない。
ヒスイは、天界の天使だから…もしかしたら、あいつとの『約束』を破ってしまうかもしれない。
それだけはダメだ。
絶対にダメだ。
もし、もし、ヒスイに言って、それがあいつにばれてしまったら?
あいつとの『約束』を破る結果になってしまったら?
俺はあいつに何と言えばいい?
俺を信じてくれたあいつは、裏切られたと失望する?絶望する?
そうしたら…この計画は破綻するのではないのか?
そうしたら、あいつは、あいつは。
…………。
あいつが…この計画のためにあの『約束』を作った。
俺が、その『約束』を破ってしまったらあいつの存在はどうなる?
あいつは、無駄になんてしちゃいけない。
俺なんかのために…この計画と『約束』を作ってくれたあいつは、無駄なんかじゃない。
俺が、この計画のために費やしてきた時間を…あいつが、願ってくれたことを…無駄にしちゃいけないんだ…。
「そう…」
「で、キリってのはセンメル・ケア大陸にいるやつなんです。けっこう美女なんですよ~、最近会ってないからわかんないけど」
「あ、あの…失礼かもしれませんが、他の方は…?」
「他のやつですか?えーっと…あの、なぜそんなに聞きたいんですか?」
「えっ、あの、ですね、ちょっとロークの仲間たちに興味がわきまして。ロークを中心としているのだから面白いんだろうなぁ…と思うと、気になってしまいまして。あの、迷惑でしたら構いませんわ…」
「あ、いや、俺は良いんですけどね。ローク、お前も別にいいだろ?」
「ん、あ?うん…?」
「ほらまた聞いてない。考え事はそこそこに」
「うるさいな、わかってるよ…。別に話しても問題ないんじゃないか?」
「ふふっ…なんだか、ドグさんが親みたい」
「あー、それ昔よく言われましたわ。ほんっと、あいつらはなんでもいじってきて……………話を元に戻しましょう。えっと、ユグリア大陸にはネスがいたかな。隠密行動とかが得意な男なんですよ。キャペイン大陸は…ポルカがいたな。発明とかが大好きな女でして。よく爆発…実験に巻き込まれました。たぶん今でも実験騒動起こしてるんじゃないかな。ナカノミア大陸にはリムがいます。あいつ、無口で影が薄いからネスと一緒に隠密行動してましたね。たしか、今はスパイやってるんだっけ?」
「スパイみたいなのだけど、実質は隠密行動だって。そもそも、あいつを雇うにも無口で何もしゃべらないから理解ができない。で、結局あいつ一人が有益な情報手に入れてくるしな。あいつはすごい」
「え、じゃあ、なぜロークたちはわかったの?」
「あいつなー、テレパシーのスキルを持ってるんだよ。だから、俺たちに伝えたいことはテレパシーで全部伝わる。それでも必要最小限の事しか伝えてくれないけどな」
まぁ、それに助けられたりしたことも多いわけだが…。
「え、じゃあ、そういう風にして他の方たちにも伝えれば良いのでは?」
「ところが、あいつは極端な人見知りで、最低1年は一緒にいないと絶対に話してくれません。まぁ、そんなやつなんですよ…。レミング大陸にはミシェがいるかな?あいつは調べることが大好きなんで、世界最大の図書館に行きたいってことでレミング大陸に行きましたねー。なんとなくわかるけど、たぶん今、図書館の主として君臨してるんじゃないかと。スクモール大陸にはラミがいます。もし、あいつと会うことがあった時のために言っておきますが、あいつに『綺麗』は禁句です」
「え、え、なぜですか??」
「あいつはだな。…まず、名前が女子っぽい」
「うん…」
「次に、言動が女子っぽい」
「うん…」
「そして最後。見た目が女子。しかも眉目秀麗。それでいて、男」
「えっ」
「だから、あいつに『綺麗』だのなんだの言ってみろ?あいつ、戦闘能力馬鹿みたいに高いから秒で殺されるぞ」
「そ、そんなにすごい方なんですか?その…色々と…」
「なんつーか…すごい、で片づけられるもんじゃないんだよな」
「ああ。あれは…直接見た方がたぶん、理解できるんじゃないかと」
「す、すごく気になりますね…もしお会いできるのならお会いしたい…」
「頑張ってください。ただそれだけです。頑張ってください。……最後に、センメル・ケア大陸。ここは、さっきも言ったようにキリが住んでいます。あいつは…なんか、完璧なんですよ」
「完璧、ですか…」
「なんか人間じゃないと思うくらいに完璧だよなぁ。何回も不意を突こうとしたけど、だめだった。俺、あいつに勝ったのどれくらいだっけ?」
「ロークの奇襲も含むなら…」
「それも含んでくれ」
「8756戦23勝8733敗だな」
「あれ、20回も勝ててたっけ?」
「そのうち8回はあいつがちょっと弱ってるとき。お前は、それを知らずに奇襲をかけた」
「それは…あんま含みたくねぇな…」
「ろ、ロークがそんなに戦っても勝てないの!?」
「あれは別次元の強さなんだよ」
「たぶん、本気出したのってガチな方で追い込まれた時の数回だよね」
「10回にも満たないよなぁ。なんかなぁ…今ほどじゃないにしたって、昔からけっこう強い方だと思ってたんだけどなぁ…」
「ロークは強かったよ。普通に、強かった。同じレベルの大人100人に対して傷一つ追わなかったから。けど、キリはもう、そういうレベルじゃなかった」
「俺が全力でぶつかりに行くだろ?卑怯な手も使うだろ?けどな、あいつって絶対に読んでる本から目を離さないんだよ」
「ロークを見てないってこと…?」
「なのに、あいつは普通に避ける。戦う前に仕込んでおいた爆発物だってなぜか避けられる。で、あいつは本から目を離さない。あの頃はただ勝ちたくて戦ってたけど…今考えると恐ろしいな」
「なんだか、一人だけ雰囲気違かったよね。なんていうのかな…子供じゃなかった、みたいな」
「…まるで…いいえ、ありえない…」
「ん?ヒスイ、どうかしたか?」
「あ、いえ、ううん」
ん?なーんか怪しい…?
ま、会って数日のやつを理解できるわけないが。
出会って数日じゃない奴のことも理解できてないけどな。
「あー、久々にキリと戦いたくなってきた」
「勝てないからやめとけ」
「けど、あいつがもしかしたら鈍ってるかもしれないだろ」
「それでいてようやくダメージ与えられる程度かな。それに、そもそもお前ほどのやつでもセンメル・ケア大陸には行けないだろ?」
「まーなぁ………」
さすがにセンメル・ケア大陸は無理なんだよな。
何回か試してみたことあるけど、あれは命を捨てる覚悟で行っても無理。空を飛ぶのはルール違反になるし。
パスポートももらえないし、あそこは未知の領域だな。
「お前、どこまでなら行けるんだよ」
「キャペインが限度。さすがにその先は無理。あれは、警備の目を避けるのと波を越えるのと海獣を避けるのと…とにかく、やることが多すぎるんだよ。それに、奇跡が起きてセンメル・ケア大陸まで行けたとしてもあそこはどこから潜ろうにも警備が厳重すぎる。不法侵入でもすれば即死亡だ」
キリはどうやって行ったんだっけ。
ああ、あいつにはあのスキルがあったから…難なく通れたんだった。
連絡取ろうにも取れない場所だからなー…頼んでたことをやってくれてるかわかんねぇや。
「……女子が多すぎるのよ」
「え、何?ヒスイ」
なんか顔赤いような気がする。怒ってる?
「何でもありません。それより、早く買わないとだめなんじゃない?他にも買うもの、あるんじゃなかったかしら?」
「あ、やべっ、そうだった。おーい、ドグ、結局どうすればいい?」
「無料でもってけもってけ。その代わり、なんでヒスイさんがその武器選んだのか…わかったら、教えてくれ。すごく興味ある」
「おけー。んじゃな、ドグ。ありがとな。なんかあったら鳩飛ばしてくれ」
「そっちこそ、わかったら鳩飛ばせよ。じゃあ、ヒスイさん、その武器と頑張ってくださいね」
「あ、は、はい、ありがとうございました…」
「いやー、いい買い物だったな」
「うーん…」
「どうしたんだよ、ヒスイ。さっきから、ずっとなんかを考えてみるみたいだけど」
「いえ…あのね、なんでこの武器に…何かを感じたんだろうって」
「さてね。旅を続けていきゃあ何とかなるなる。……あ、服…」
「ここ、服屋さんなの?」
「…俺は大丈夫だけど…ふーむ」
「え。え。な、何?」
まぁ、大丈夫だとは思うけどなぁ…念のためにあれくらいは買っておくか。
「よし、ここで買ったら戻るか」
「何買うの?」
「ペンダント」
「ペンダント?」
「いらっしゃい!……おお、ロークか」
「こんにちは、おっさん。早速なんだけど、あのペンダントある?」
「ん?お前さんがかなり前から目を付けてるやつかい?」
「そう。ちょっと、こいつにプレゼントしてやりたくて」
「……かなり可愛い子だな。どこで見つけた?」
「たまたまその辺で会って、色々あって旅することになったんでね。いいから、あるなら早くくれよ」
「ふぅん?まぁいいぜ、ちょっと待ちな。あー…たしかこの棚にあるは………おお、あった」
「あんがと、おっさん。いくらだっけ?」
「本来なら1キャルなんだがなぁ…ロークだし、そっちの子が可愛いからな。10テナに負けてやるよ」
「よっしゃ!おっさん、ありがとな。じゃ」
「おう」
よかった、買えて。もしなかったらちょっと困ったんだよな。
特別困るってわけじゃないけど、あった方が色々と楽になるし。
「ローク、それどうするの?」
「ヒスイにあげるよ。ほら」
「わっわっ。……さっきの、冗談じゃなかったのね」
「冗談なわけないだろ。…ふぁ~…」
「………これ、つけると何かあるの?」
「透明になる」
「え“っ」
「嘘嘘。なんていえばいいかな。たぶん、ヒスイみたいな天使は俺たちとは違う何かがあるんだよ。で、それは対象の者を人間らしくするんだ。だから、天使のそういう違う何かを感じさせない、みたいな?」
「ん~?どいういうこと?」
「詳しく説明はできないんだよなぁ…すごく簡単に言ってしまえば、天使を人間にする、みたいな感じなんだけど…悪い、俺もそんなに詳しくないから…」
「ううん、いいの。けど、これって必要なの?」
「さっきも言ったけど、センメル・ケア大陸は警備が恐ろしいほどに厳しい。もし天使っていうことばれたら上陸できない……」
「ええっ!?」
「かもしれない」
「ぜ、絶対じゃないのね」
「どうだろうなぁ。そもそも、天使が来るって時点でどういう対応されるかわからんし。まぁ、保険みたいなもんだ。それに、つけてても可愛くないってことはないデザインだろ?」
「…まぁそうだけど。わかった。私は何もわからないし、ロークに従うわ」
「そうしてくれると助かる。あと買うものあったかな~…」
ないよな~。家に、たくさん回復系の物はあるし…武器買うのが目的だったからなぁ。
それに、服装も大丈夫っぽいし。天使の装いなのかわからないけど、こいつの能力はかなり高い。元々と、この服装で。俺の知る限りでこいつの能力をこれ以上引き出せる装備も思いつかないし。
まぁ大丈夫かな~。
「………」
「ヒスイ、つけられたか?」
「…あ、あの、ね。申し訳ないんだけど、ちょっと一人じゃつけられないから…手伝ってくれない?」
「いーぞ。えっと…うわ、つけにくいなこれ。まぁ、つけられたらその分外れにくいんだろうが…」
「ちょ、ちょっと、髪巻き込まないでね?」
「だーいじょうぶだって。…………よしっ、つけられた」
「あ、ありがと…」
「…可愛いじゃん」
「えっ…」
ん?顔が赤い?熱でもあんのか?
「ヒスイ、顔赤いけど。熱でもあるのか?」
「………」
なんかすごく残念そうな顔で見られてる。え、何?
「ロークってさ…」
「うん?」
「馬鹿だね」
「な、なんだと」
「ばーか」
俺を馬鹿にするなんて…しかも、笑顔だ。
ヒスイって本当に天使なのか?
疑いたくなる。
それくらいに……なんだろう、とりあえずなんかがあるんだ。
まぁ、こいつが笑顔だからいいか…。
Program:yozakura
World:kiminotonariniwatashinomahou
Period:3years
Purpose:Perfect yozakura
「また遊んでんのかよ?」
「遊んでるなんて失礼な」
「どうせ、変えたんだろ?」
「期間を、よ」
「お前は、ずいぶんこれに入れ込んでるんだな」
「だって…今度こそ、終わりに連れて行ってくれるはずだもの」
「……準備はできてるのか?」
「いつでも繋げられる。なかなかね、大変なのよ。保存しておくのは」
「知ってるよ。俺も何回かやったしな…」
「まぁけど、これも不発に終わるんだろうな」
「お前…成功しそうだのなんだの言ってたくせに」
「けどね、大きな成功にはならなくても、成功させるための何かを成長させてくれると思う。だから、信じて待とうよ?」
「はぁ…こっちは、ずっと付き合わされてるんだ。それくらい、構わない」
「ありがと。………もうちょっと、頑張ってね。みんな」