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君の隣に私の魔法  作者: 七瀬結羽
出会いはどこにでも
10/17

失踪した弟


 私には弟がいる。可愛い弟だ。

 私が7歳の時に生まれた。お父様達が熱望していた男児が生まれたので、その日は大変な騒ぎになった。

 お父様達は優しいから言わなかったけれど、私が寝ていると思った時に、話していたことを知っている。次に生まれてくる子が、また女児だったらどうしようと。

 お父様達は私が嫌いなわけじゃない。ただ、家の存続のためには男児が必要だと言っていた。

 私が結婚するのは決まっていることだけれど、その相手はどうやら血が繋がっていないといけないらしい。そした、その相手はできる限り純血(私の家では同じ家同士のこと。親族であっても、それは混血になってしまうらしい。一般人に比べれば純血だから、純血の子がいなかったら親族の人と結婚する)でないといけないらしく、理想は姉弟、兄妹らしい。

 つまり、弟が生まれた時点で私は弟と結婚することが決まった。別に嫌なわけじゃない。

 弟は可愛いし。お母様たちもそうやって結婚してきたみたいだから、私だけが駄々をこねるわけにはいかない。

 


 弟は男の子のように強い部分を持っていたが、同時に、女の子のような弱さも持っていた。

 お父様に怒鳴られると、泣き出す。しかも、それが泣きながら我慢するのではなくぽろぽろと泣き出して、その場から逃げ出してしまうのだ。

 ……まるで誰かを見ているようね。

 


 弟は私にとても懐いていてくれる。私が学校へ行った後の習い事から帰ってくると、先に帰っていた弟が私が帰ってくるのを待ちわびていたように駆け寄ってくる。ただ、お父様がお仕事から帰ってくると私の後ろに隠れて私にしか聞こえないくらいの小さな声で「お帰りなさい…」と言っている。私に言っても意味がないのに。可愛いからいいけど。

 昔はそのことについて怒っていたお父様も、最近は怒らなくなった。逆に、弟を見ると物凄く笑顔になっている。

 何かを待ちわびているかのように。弟が育つことを待っているかのような笑顔。

 

 そんなお父様の異様な雰囲気を感じながらも私は普段通り過ごした。



 その時の私の判断がどれほど愚かだったのか。なぜ、お父様を異様に思いながらも誰かに話すことをしなかったのか。

 後悔しきれないほどの後悔が今でも私を苦しめる。

 あの時、私が正しい判断をしていれば弟は…。



 弟が7歳の誕生日、私が14歳の時。私が弟に対しての本当の気持ちに気づき始めた頃。運命は、突如やってきた。


 「おーい?どこにいるのー?」

 「どうしたんだ。少し騒々しいぞ」

 「あ、申し訳ありません、お父様。弟の姿が見つからないのです。今日は、一緒に勉強をする予定だったのですが…」

 「…あいつはもうこの世に存在しない」

 「え?」

 「お前の結婚相手はすぐに見つかるから安心しておけ。ああ、この家を継ぐのはお前だからな、15歳になったら色々と教えよう」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいお父様!!い、いない?どういうことですか?何故ですか?」

 「お前が知る由はない。これからは、この家をどう存続させることのみに専念しろ。いいな」

 「お父様…!!」

 「…ああ」


 お父様が思い出したように振り返った。


 「母親の面倒を見てやってくれ。あいつはそろそろだめかもしれないからな…」

 「お父様!!!話を逸らさないでください!!」

 「……今後、私には必要なこと以外話しかけるな。私は家のことで忙しいんだ」

 「お父様!!!!!!…………じいや」


 きっと、その場にいるであろう、盗み聞きしていたであろう、じいやに声をかける。


 「はい、お嬢様。何でしょうか?」

 「話は聞いていたかしら?」

 「はい。盗み聞きという形になってしまいましたが」

 「本当に……あの子はいなくなってしまったの?」

 「私は今朝、4時におきまして…その後、すぐにご主人様に呼び出されました。そして、息子はいなくなったと告げられました」

 「そう……本当に……」


 じいやはすごいな。こんな状況でも涙一つ流さない。きっと、そうするように言われているんだろうな。

 私も……泣いてばかりじゃいられない。


 「お嬢様、大丈夫ですか?」

 「…ええ」

 「部屋でお休みになられますか?」

 「だいじょうぶ、よ…私は…絶対に、負けないし、倒れない」

 「……無理はなさらないでくださいませ」

 「……お前は、お父様に雇われているんでしょう?」

 「ええ、そうですね」

 「そして、主は私なのよね?」

 「はい、私を雇ってくださったのはご主人様ですがお仕えしているのはお嬢様です」

 「主の命令と雇い主の命令。どちらが、大切かしら?」

 「そうですね…一般的なお屋敷ではどうなのかは私は存じませんが、この家に来た時にご主人様にお会いし、こう言われました。『お前が仕えるのは私の娘だ。娘の命令は何でも聞け。私の命令と娘の命令が反対のものだった場合…娘の命令を聞け。何があっても娘を守り、娘に仕えろ』と言われましたね」

 「…ふふ、少し声を似せたね?………この屋敷で働いてる者全員に聞きたいことがあるから少し協力してくれないかしら?」

 「お嬢様の命ならば、逆らうことなどございませぬ」

 「ありがとう」



 必ず、見つけ出す。どこにいたって見つけ出す。もう、あなたは私の弟ってだけの存在じゃない。

 愛する人。

 待っててね。時間がかかっても……絶対に、あなたとまた再会する。


 それまでは、少しの間だけこの幸せな記憶に蓋を……。

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