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君の隣に私の魔法  作者: 七瀬結羽
出会いはどこにでも
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物語はここから

11時25分。相も変わらず俺はふらふら旅をしていた。

なぜなら、この大陸で難関とされているフィールドは全て行ったし、やることがないから。てか、そもそもこの大陸が簡単すぎるんだよな。

まぁ、この大陸は基本的に戦うことをしない人々が集まっている平和な大陸だ。そこの人々が難関と言えば難関なのだろうが俺からすれば特に難しいわけでもない。至って普通のフィールドだ。

俺がふらふらしている、でかさだけが取り柄のこの大陸はホーミル大陸。他に6つ、大陸があるのだが、きっと他の大陸はここまで平和じゃない。他の大陸の話は全く聞かないから噂話だが、どっかの大陸が戦争をしようとしてるらしい。

恐ろしいな。そんなことしてなんの得になるんだ?ああ、けど元々この世界は何十もの大陸があって戦争をして負けた方は植民地にされて、なんてのを繰り返して今の7つの大陸にまで減ったんだっけか。

つまりこのホーミル大陸も昔は戦争しまくってたわけか。今じゃ、その辺の泥棒の話でも怖い怖い言ってるような平和な大陸なのに。


ああ、なんか現実味のねぇ話でも落ちてこねぇかな。

そうだな…例えば、空から女の子が降ってきてその子に世界を救ってくれとお願いされたり。

いや、夢に見る分には全く良いが現実ではやめてほしいな。ああいうのは、見ているだけでお腹いっぱいですごちそうさま。



さて、宿へと戻ろうか。やること特にないしな。

戻ったら剣の手入れ、昼食の準備、昼寝、情報収集か。

歩くのも面倒だ。飛ぶか。

飛ぶっていう行為は俺が生まれたころはめちゃくちゃ珍しく、気持ち悪い人間(なんでだよ。ひでえな)にしか使えないものと思われていた。

ま、最近はそんなことはない。

その行為で配達が楽になったりしたものだ。

ただ、特別な人間にしか現れない行為であることは変わらない。

まぁ、特別といっても戦うことのできる人間。というよりは右腕に星マークがあるやつ。そいつらは戦える人間。俺もな。

一般人はそんな俺らの飛んだりする行為を『スキル』と呼んだ。

まぁ、スキル『飛翔』は星マークさえあれば習得できる。他のスキルは色々…レベル上げ?っていうのか?それをしないと手に入らない。

俺はこんな暇な大陸で8年間も魔物(モンスターみたいなやつら。たまに人型がいる)を剣で斬っていけば当然レベルはバカみたいに上がる。

おかげさまでLv247だよ。

Lvってのはどこが限界なんだろうな。

この大陸じゃ、俺が一番強いけれど他の大陸はこんなに平和じゃない。

本当に強いやつは俺なんかよりも強いだろう。


そんな場所(セカイ)に行ってみたい。

こんな平和な場所(セカイ)じゃなく。


その願いが叶えられないことくらい知っている。

他の大陸には『パスポート』が必要だ。

そして、その『パスポート』は容易には手に入らない。

生まれつきパスポートを持っているのは貴族だけ。

一般市民は、その大陸の貴族に気に入られたらパスポートを手に入れられる。


けど、そんなのは不可能だ。

貴族は一般市民の前に姿を現さない。

それで、どうやって気に入られろと?

俺たちはこの場所(世界)から逃げ出せない。

ただ、時を無駄に過ごすだけ……。


「………っ!?」


まただ。最近、なぜか空を飛んでいると左目が痛くなる。

そのたびに見たことのない風景が浮かぶ。

この世の物とは思えないほど、美しさだけを揃えた風景が……。


「…考えてもわかんねぇよな」


そうだ。考えても分からない。

今は、家に帰る。それだけ。

それだけなんだ。




「……到着っと」


俺が住んでいるのは普通のアパート。いや、普通より少し大きいか?

ただ、入居条件が異常なだけだ。


家の鍵を開ける。

その家の中にいたのはーー。




大変残念なことに、美少女とは程遠い、男が女装したような姿の、おばさ


「それ以上言ったら家賃10倍にすっぞクソガキ」

「止めてください。つか、読まないでくださいよ。あと、言葉遣いが素に戻ってますよ」

「あら。ごめんなさいね、怖い思いさせたかしら?」


怖いのはそっちの女声の方の顔だよ……。


「んーー??何か言ったかな??」

「何も言ってませんコワカッタデス」


どうして、女のはずなのに気持ち悪く感じてしまうんだろう?


「君、隠す気全くないね?」

「人間が心の中で何も考えないようにするのは無理があります。シグハさんが読まなければ良いだけですよ」

「あたしのスキル『読心術』はオフに出来ないって知ってるでしょ?」

「知ってますよ。けど、目を逸らすぐらいしても良いじゃないですか。で、何の用ですか?」


この人はシグハさん。シグハ=トゥーウォ。

俺が住んでるアパート『心身アパート』の大家さん(実は違うらしい?)だ。

俺の部屋にいる場合、大抵は頼みごとがあったりなのだが。


「それが出来たら苦労しないわよ。用って言ってもそれほどじゃないの。昨日、新しい入居希望者が来たんだけれど3日しかいる予定が無いって言うの。どう思う?」

「?……まぁ、良いんじゃないですか?宿みたいな感じで貸してあげるのもたまには良いでしょ」

「あの子強かったから。ずぅっと住んでて欲しいけれど事情があるんでしょうね」

「まぁ、無理にはダメですよ。どこに入る予定なんです?」

「君の3日限りのお隣さん」


まさかの隣かよ。


「だから、色々教えてあげて?3日限りとは言え、使い方が分からなかったりしたら困るでしょ」

「えぇ……。……あの、その人、女、なんですよね?」

「そうよ。すぅっごく可愛くて強いから」

「…………俺が女が苦手だっての、わかって言ってます?」


しばらくの沈黙後――――。


「……いい加減女嫌い止めなさいって事よ」

「何嘘ついてんだあんた!!!明らか嘘だろ今の!!!」

「う、うるさい!!いいからやりなさい、大家としての命令です!!」

「あんたの命令なんざ聞くか!!!あんたが自分でやれば良いじゃねぇか!!!可愛いんだろ?俺がやる意味無・意・味!!」

「いいからやれっつってんだろうがクソガキ!!!!心身共に折るぞ!!」

「あぁ!?やれるもんならやってみろよ!!!折られんのはあんたの方だからな!!」

「うるさい」


へ?誰?


「近所迷惑だ。ここにはお前たちしか住んでないわけじゃない。俺を含め、残り三人のことを考えろ。それとシグハ。女になりたいならキレた時の言葉遣いも女らしくしろ。いつまでたっても男に勘違いされるぞ」

「ぜぇっ…はぁっ………ふぅ。ごめんなさいね、ロクロちゃん。すこし大人げなかったわ…この子はまだ15歳なんだしね」


うっ、ロクロさん…。ロクロ=ハーロード。

このアパートで2階の203号室に住んでいる。

俺がこのアパートで唯一苦手な人。雰囲気が独特というか…何考えてるのかわかんないし、何より微妙に俺より身長が高いからなんか怖い…。

シグハさんは俺より完璧に背が高いから別にいいんだが、微妙に高いとなんか嫌だ…。


「おい」

「えっ、あ、はい!?」

「うるさい。声をかけた程度でそんなに驚くな」

「す、すみません、考え事をしていたので…何か用でしょうか?」

「入居希望者のやつ。お前が面倒見ろよ」

「えっ、いや、でも」

「3階に住んでるのはお前しかいないんだから3階の造りがわかるのはお前だけだ」

「けどっ、シグハさんが…」

「シグハはああ見えて忙しい。二度も同じことを言わせるな。入居希望者はお前が面倒見ろ」

「……で、でも」

「男は黙って頷いとけ」

「わ、わかりました…」


うう…なんでこうなるんだよ…ロクロさんが出てくると、拒否権というものは存在しないのか?

つーか今更だけどなんでいつもこの人はフード被ってんだ?顔全然見えねぇし。


「おい、シグ………その顔はやめておけ。女らしさが全くない」

「あらそう?」

「普通にしていろ。それが一番女らしく見える。…入居希望者のやつ、こいつが面倒を見る」

「ホント!?よかった、あの子強いけどか弱そうだから誰かが見てあげないとねぇ♪」


もうやだ。3日間とはいえめんどくせーな。


「じゃ、お邪魔したわね。今日の夜に来るから、明日から面倒見てあげて。じゃあね~」


そう言ってシグハさんは出て行った。

やれやれ、あの人が来ると厄介事しか起こらない気がする。確か前は、女物の服を買いたいけど店員が女として見てくれないから代わりに買ってこいって話だったか。

あの時、店員に「彼女さんへのプレゼントですか~?彼女さんおっきいんですね~」とか言われて心が悲鳴を上げた。


「…………」

「…………」


……なんでロクロさんは出て行かないんだ?

めっちゃ気まずいし、何より俺は昼飯を食べたい…。


「……おい」

「な、何ですか?というか、自分の部屋に戻らないんですか?」

「……今、家には姉が来ているんだ。あいつがいると俺は部屋に入れない。だから外で暇をつぶしていたんだが…お前らがうるさかった」

「す、すみません…。…あの、それで?」

「6時になればあいつは帰る。それまでこの部屋にいさせろ」

「えっ?いや、まぁ、良いんですけど…」

「……何?」

「……昼飯、食べました?」

「……姉が来たのは10時だ」


食べてないんだな。うう、敬語使うのは苦手だ。

ただ、反射的にそうなってしまうんだけどな。


「俺、今から昼飯作るんで食べます?」

「……いいのか?」

「一人分くらい余裕ですよ。あ、ただ、おにぎりなんですけど良いですか?」

「なんだろうが構わない…他人の家にいきなり押しかけているんだ、そう言ってくれるだけ君は優しいんだな」

「いや、別に優しくなんかないですよ…」


な、なんだろう。今のロクロさんのセリフ、いつもの冷たい態度じゃなかった。なんだろう、男にこう言っていいのかわからないが、可愛かった。

その後、また可愛いセリフがあるかと思ったが、残念ながらロクロさんは一言も発してくれず、俺は剣の手入れをして6時を迎えた。


「今日はすまなかったな。助かった」

「いえ、別に。……あの、お姉さんって怖い方なんですか?」

「……そういうわけではない。あの人は……全ての女が理想とするような女だから、傍にいるだけで自分の惨めさを思い知らされる。だから……苦手だ」

「そ、そうなんですか」


なんだろう、聞かなきゃ良かった。

ただ、男でも傍にいるだけで惨めになるとかどんだけすごい人なんだ?


「じゃあな。入居希望者のやつ、頑張れよ」

「あ、ありがとうございます」


そう言ってロクロさんは出て行った。

こんなにロクロさんと話したの初めてかもしれない。


「…あ、夕飯買いに行かねぇと」




「ふぅ…食材が売り切れる寸前だったな」


危なかった。

しかし、今日の夜に入居希望者のやつが来るのか…まぁ、そんなに関わらないようにすればいい話か。


「……ん?なんだ、あそこ?」


そこには、女が一人、数人の男に囲まれていた。


「……ちっ」


助けたいとかそういうわけじゃないが、ああいうのは見てるとなぜかイライラする。

一人に対して数人という光景が。


「おい、お前ら何してる?」

「あぁ?お前、誰……うげっ!?」

「や、やべぇ、こいつ、この大陸最強の…!!」

「おーい、何してんのって聞いてんだけど」

「に、逃げるぞ!!!!」


……何してんのって聞いてたんだけど?

俺、そんなに恐れられてんのか?


「…あ、あんた大丈夫か?見たところ怪我はないみたいだが…」

「……お前もか」

「は?何が…」


そう言った瞬間、女はいきなり剣を振り上げた。

あと数秒、反応が遅れれば当たっているところだった。


「っぶねぇな!!いきなり何しやがる!!!」

「……あれ?さっきのやつら…いない?」

「は?…さっきのやつらなら逃げてったけど」

「そうだったの…ごめんなさい」


女はそう言っていきなり土下座をした。


「はぁ!?い、いや、別に当たってねぇから良いし!!良いから顔上げて!!」


顔を上げてくれた女は……可愛かった。美女、ではない。可愛いのだ。


「…あ、あなた、もしかして星の旅人!?」

「なんて?」


ホシノタビビト?何それ初耳。


「あ、申し遅れました…私、ヒスイと申します。ヒスイ=ミタリア」

「俺はローク。ローク=シャール。……あの、星の旅人って?」

「……あの、お願いがあるのです。私を…聖なる祭りに連れて行ってくださいませんか?」


この一言は、どこかで聞き覚えがあった。

昔にも言われたような気がする。

しかし、思い出せない。

鍵がかかっているかのように。霧に包まれているように。


俺の、この世に残るようなものでもない普通な旅はここで、ようやくスタートラインに立った。

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