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第2章 6節

遅れましたァ!

第2章 6節


士官学校入学から半年。

前世ですら特に縁の無かった想いを自覚すると同時に失意の底に沈み込んだエレナであったが、元来のあまり引き摺らない気質も有って現在、表面上は平静を保っている。


想い人は目下戦争中の敵国の人間しか持ち得ない御守りを持っていた。

即ち、敵。

恐らくは工作員か、間諜、それに類する何かである事は間違いないだろう。

本来ならば教官や養父、近場の軍施設の憲兵等に報告するべきだ。


アリン共和国の犯罪法及び刑法に依ると、工作員は発覚すれば即刻処刑される。


義父の遺言に養父への恩、養母への感謝を思えば、流石にアリンを裏切る訳にも行かない。

しかし、自覚した初恋の相手を処刑の為の首縄に吊るす事にも著しい抵抗感を覚えるのは事実だった。

ならば。

自分は何も見なかった(・・・・・・・)事にすればある程度は丸く収まるのでは無いか。


2度目の人生、前世の37年と、今世の15年、併せて50年を超えて自我を保っていても、

斯様な経験は流石に無かったのだ。




エレナには明日をも知れぬ病弱な身だった前世の記憶が有る。

医師に止められた上で弾道物理学の発展研究を続け、実用に向けた空間跳躍理論を漸く論文に纏めた直後、意識が遠退き戻らなかった記憶も。

先の見えない闇の中、女神を自称する者と出逢った記憶も有る。

非常に胡散臭い印象を受けたが慈悲と云われたならばそうなのだろうと考えた記憶。

だがどれだけ必死に思い出そうとしても、前世の自分の名前と、自称女神との会話の本題の内容が思い出せなかったのだ。




大陸歴1948年12月3日午前6時、アリン共和国東部港湾地域にグラエシア帝国軍が侵攻。

戦力の主軸として実戦投入された28機の翼竜型戦術級ARMSにより、アリン共和国は港湾地域の過半を失い、一般市民及び軍民を併せて死傷者2万人と言う甚大な被害を受けた。


そもそも戦術級ARMS自体、一機に中隊単位の火力や継戦能力を搭載し、中隊単位で運用すると言う、机上の空論の中でのみ存在を許されていた狂気の産物であった為もある。

ARMSの一般的な武装の大半を占める対装甲弾頭と炸薬弾頭を、体勢が不安定な筈の空中で無力化する新装甲、従来の光学兵器とは比べ物にすらならない出力の非実弾兵器を装備したARMSが飛行能力を持ち、継戦能力にも特にと言える程の欠点が見当たらないと言う防衛、迎撃側にとっての悪夢。


最前線でも無い地域の駐留部隊である事もあり、追撃を受けて壊滅するのも時間の問題かと思われた。


同日午前9時、前日からアリンフォート士官学校から複合地形行軍訓練中の2個訓練中隊が先んじて撤退した司令部との連絡ミスにより敵勢力圏内に取り残され、現地残存兵力の3個中隊と共に翌1948年12月4日、撤退戦を開始。

総勢183名中、51名を失い、16名が意識不明の重体になりながらも撤退に成功する。


撤退終了までに士官候補生達が積み上げた戦果は敵ARMS17機及び、翼竜型戦術級ARMS1機。

その内、翼竜型戦術級ARMSの単騎撃破(・・・・)を成功させたのは、自らと士官学校の同期達、そして想い人の生死を懸けて出撃したエレナであった。

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