第2章 4節
書きたいのに、書きたいのに。
何故、書こうとすれば邪魔が入るんでしょうか、、、?
第2章 4節
入学試験での発砲未遂、恫喝案件から2週間。
エレナは最後の始末書を書き終え、寮の自室でインスタントのコーヒーを淹れ椅子に腰掛けてカップ片手に休憩を取っている。
あの試験は中止となり、殺人未遂及び脅迫の罪により受験生だった少年は憲兵に連行されて行った。
が、これまで平和に暮らして来た他の受験生の精神面への悪影響の懸念や『未だ軍属では無い』とも言える受験生に対する鎮圧時の行動等の件でエレナは始末書、報告書を提出先1部署毎にそれぞれ5枚ずつ10部署分、計50枚を作成する事で義務を果たしたのだが。
「引かれたよね、、、」
少なくとも現在、アリン共和国は比較的平和な、この大陸でも珍しい国だ。
兵役は存在している上、軍が国の方針に深く食い込む軍事国家なのだが、深層心理分析を定期的に受診する事を義務化する制度により、暴力に拒否感を持ち易い者や心的外傷に発展し易い性質を持つ者には兵役の中でも差し障りの少ない立場が与えられる。
その上で発生する各種適性高水準者の比率の偏りを人口、即ち母数の多さでカバーする事で治安を維持し、社会制度や政治体制、領土を保持する。
それがアリン共和国の人的資源の活用方針であった。
その制度と方針に従い基本的にアリン共和国の士官学校生は入学した時から既に軍属ではあるが、その先の進路は多岐に渡る。
士官として上層部を目指し現状膠着状態にある北方前線に赴く者。
技術工廠の技術者や衛生兵資格を得て軍医を目指す者、
はたまた専門性の高い様々な分野の知識を公費で学んだ上で軍衣を脱ぎ捨て、非軍属の技術者や医師となる者などに。
そして。
そもそも射撃試験はその基盤とも言える各基礎適性を判断する為に必要な試験の一環である為、あの試験場に居た受験生全てが適性判定前であるが故、役割から振るわれる暴力を許容出来るとは限らない。
そんな意識の中で無意識の内に口から零れ落ちた呟きは、言葉を交わしたのは10秒にも満たないあの少女との邂逅がエレナに与えた感情を遠回しながらも如実に表していた。
一方、助けられた側はと言えば。
「あぁぁぁ!もう!全部アイツのせいだ!」
10日間に渡る事情聴取と拘留を受けたものの、彼女自身に問題が無かった事により恙無く士官学校人事部から合格通知を受け取り、安値のモーテルの部屋に入って戸を閉めた瞬間溢れた心からの声であった。
思えば前日の追跡も上手く行かず、散々な結果と言える。
幾ら今が戦時中で、その上名将の跡継ぎの幼年学校主席とは言えども、名家で暮らしていた娘だ。
荷物を鞄に仕舞い込んでお綺麗な逃げ方をするのかと思えば迷わず入り組んだ路地裏を行き。
道を塞ぐコンテナの向こうに飛び込んだかと思えば見渡す限りに居らず、急いで探そうとすれば引っ掛かる位置に警邏を呼び寄せる為かゴミ袋とハンドガンを使って即席のトラップを仕立ててあった。
部下が引っ掛かりかけた時点で気付けて幸運と言えるだろう。
まぁその幸運の代償として自分はこんな所で新入生をやらねばならないのだが。
「絶対、性格悪いよアレ、、、!」
よく考えて欲しい。
目の前で人が組み伏せられ、追い討ちとばかりに骨を折られた光景を。
常識的に考えて、普通に怖い。
演技抜きで、愛想笑いで対応するのが精一杯だった。
この国で合流した味方諜報部隊の帰国までの期限の猶予は少ない。
恐らく一人で生身では不意打ちしても勝てるとは限らない相手に、単身で拉致、若しくは暗殺を成功させる為、バックアップが無くなった時点でこの任務の成功率は急落するだろう。
憂鬱な気分になり、硬めのベッドに飛び込んで目を瞑る。
優しかった両親が死んだのは6年前になるだろうか。
8歳の誕生日、仕事で永く家を空けていた父と母が朝方に帰って来る筈だった。
だが。
代わりに帰って来たのは数点の遺品と、黒い二つの袋だった。
列車事故だと聞いた。
目の前で話していた軍人は小声で敵国の破壊工作の疑いを口にした。
帝国に尽くして来た両親こそが、狙われたのだと。
揺れ続ける不安定な精神に流れ込む一言。
『復讐すれば良い。』
その日から少女は両親に付けられた本来の名前を捨て、血反吐を吐く様な訓練を受け、数多い『メアリー』の1人となった。
復讐の為に。
少しでも多くを知る為に。
そして両親を殺した者をその手で殺す為に。
何時の間にか、寝ていたらしい。
懐かしい、夢を見た。
今の自分の生まれた日の夢。
その目的を果たす為なら。
「帝国の敵は全て、全て、全て、ボクが殺す。」
この涙も、命も、使い潰してくれよう。
と、言う訳でエレナさんの現在と『メアリー』さんの過去っぽい何かでした。
何時も時間を掛ける割に短くてすいません。
閲覧、有難う御座います。




