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現代魔術は異世界をクロールするか?(旧版)  作者: Richard Roe
第一章 五歳児、鑑定魔術作るってよ
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回想メモ 鑑定魔術の次は

 さあ、鑑定魔術の開発もいいところまで進んだし、もっと行きましょうかね!


 鑑定魔術をパッシブ型魔術式として、俺のアストラル体に勝手に書き込む。これで、俺の体にあるマナを利用して自動的に鑑定魔術が常時展開するはずだ。

 え、さらっと凄いことするなって? でも魔術の自動常時展開とか常識じゃないの?


「……この世界じゃ、魔術の常時展開は魔術学院に通うようなエリートしか出来ないってか。へえ。……俺何か、この世界でなら色々やりたい放題な気がしてきたぞ」


 げんなりするような話だ、何か楽勝過ぎて拍子抜けと言うべきか。でもそれは無双をしたい俺にとってはある意味朗報である。


 アストラル体の参照。これは、俗にそう呼ばれる技術だ。

 一応解説しておくと、術者のアストラル体(精神体)に魔術式がある場合、その魔術については魔法陣を書いたり詠唱したりしなくても魔術が発動出来るのだ。ショートカットの登録みたいなものだ。必要なときにいちいち組み立てなおすんじゃなくて、ショートカットに登録した部分は一括で処理しておく。たったそれだけで随分楽になるはずだ。


 これを利用すれば、魔術を自動で展開しっぱなしにすることも、ワンアクションで発動することも、その両方が可能となる。


 もちろん、魔術式を全部アストラル体に書き込むのは容量に負担が掛かるので、ある程度削って書き込むのが普通だ。例えば俺の場合だと『一秒に二回以上瞬きしたら鑑定魔術のオン/オフ切り替え』『指を指して魔力を込めたらガンド魔術』という類に、途中の魔術工程をここに放り込んでいる。『工程』という概念は古い魔術概念だが、こうやってエミュレーション環境が整っていない場合は直感的で分かりやすいのでそこそこ重宝している。


 こういったショートカット(紐付け)を、服の中に魔法陣として仕込むとか刺青として体に彫るとかいうアウトソーシング指向もいれば、アストラル体に記述するインソーシング指向の人もいて、ここは好みの分かれるところだろう。俺は両方をバランスよく運用するのが正しいと思っている。たまに魔術師とかで体中に刺青をずらっと彫っている人がいるが、あれにはそういう側面もあるのだ。決して格好いいからという理由なんかじゃないのだ。


 さて、当然だが子供である俺には、そんなにアストラル体/『魂の器』の余裕がない。マナ操作などを通じてマナ容量を拡張してはいるものの、何でもかんでも突っ込める訳ではないのだ。

 特に俺の場合は、今アストラル体の殆どが魔術アプリケーションによって占拠されている状態だ。使うことができない魔術アプリケーションに、である。実に残念だ。

 かといって体に刺青を彫ったりすることができる身分でもないので(所詮は五歳児だ)、おとなしくマナ容量をじわじわ拡張するしかないだろう。


「……取り敢えず、一から頑張っていくか」


 魔術のショートカットの研究は、どうやらこの世界ではあまり進んでいないらしい。つまり誰かがアップロードしてくれたユーザーインターフェースをインストールして、ということも出来ないらしい。魔術初心者用に環境を整えてくれてあるスキンなども存在しない訳で。


 ショートカットパスを一から構築か。文字に起こしてみると非常に面倒そうな作業に思われる。


「でもまあ、他の魔術師には到底実現できていない技術らしいし、これさえあれば無双できそうな気がするんだよなあ」


 魔術での戦いにおいては常に速さが肝である。相手の先手さえ取ってしまえば何でもできる。ショートカットパスをたくさん保有することに成功すれば、俺はこの世界で最速の魔術師になれるだろう。一つ一つにショートカットパスを施すのは面倒な作業だが、その分の効果はあるに違いない。


「取り敢えず、補助強化系、治癒魔法系、防御系の魔術を中心にショートカットパスを作成すればいいか」


 独り言を呟きながら軽く決意する。先ほど挙げた魔術ならば目に見えるものではないので、他人に見られようとも厄介なことにはならないだろう。


「さて、となればまずは補助強化系、治癒魔法系、防御系の魔術の習得からだな! それが終わればショートカットパスの作成! やるべきことがたくさんあるな!」


 幸い時間はたっぷりある。何せ五歳なのだ。焦らずにこつこつやっていけばいい。確実にでも少しずつ進んでいけば、いつかは報われる日が来るのだから。











「時間たっぷりありすぎだろ……」


 結論。

 必要最低限は全部マスターしてしまった。一ヶ月程度だった。学習できてしまった俺の方がドン引きしてしまうほどの驚きの学習速度であった。


 試しに肉体強化付与と継続治癒魔術と護法術とを同時発動させてみたが、特に問題なく動作していた。きちんとアストラル体に登録している魔術式通りの挙動だったし、魔術式を弄って常時展開するように設定してもバグなどは生じなかった。


「そりゃそうか、前世で既に似たような魔術を体得してたもんな……この世界風にアレンジしたものに馴染めばいいだけだし。うーん」


 頭ではもう理論を殆ど完璧に理解しているし、感覚でもどうやって動かせばいいのかを知っている。後はちょっとした感覚のずれを補正するだけの話。まあ一瞬ですよね。

 かくして俺は補助強化系、治癒魔法系、防御系の魔術の基本部分を習得し終わってしまったのだった。

 もちろんここから先はひたすら完成度を高めていくという終わりなき作業が待っているのだが、取り敢えず発動可能かどうかという第一段階は突破してしまった。


「でも攻撃魔法を練習しようとしても、そんな姿を見られたら流石にばれるしな……。何かこっそり練習できる場所はないだろうか」


 しばらく考えて「そう言えば下水道には雑魚の魔物が発生しているんだっけ」と閃いた。

 丁度いい、あんな暗くて臭くて湿気た場所なんかきっと誰も降りてこないだろうし、ちょっと暴れても誰も気にしないだろう。人目を避けて魔術を習得するには絶好の場所に違いない。魔物も出てくるし、こいつらを狩ってマナを吸収すればマナ容量をさらに拡張することも可能となる。


「……。いやいや、五歳児ですよ。まずは防御系の魔法を更に改良してから……いやでも、もうその作業も最低限は終わってるし……うーん」


 しばらく一人で悩んでみるが、何か考えれば考えるほど「別に下水道入って魔物を一匹二匹狩ってもいいんじゃない?」という方向に傾いていく。防御魔術の実戦テストを兼ねて。いざとなれば幾らでも逃げる手段は存在する。早めにマナ容量を拡張すれば更に安全な毎日を過ごせる。攻撃魔法を練習しておけば、いざという時にむしろ自分を守れる。アストラル体参照が出来る俺よりも速く攻撃できる魔物は存在しない。時間を決めて安全マージンを確保すればリスクは殆どない。etc.


 様々な理由が俺を説得し、俺はとうとう決意した。

 人目を盗んでこっそり下水道に入ろうと。

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