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落ちこぼれ魔女のタイムリミット  作者: 由糸子
5.莉子とタイムリミット
36/48

5-1

「クリスマスまでに彼氏を作る方法!」

「一瞬で魅力的な女になれる!? 男ウケを狙うならこのテクで!」

「男心をわしづかみ! 噂の悩殺シグナルとは?」


 スマホの画面に並ぶタイトルをスクロールさせて、いくつか気になるものをタップして読んでみるものの、どれもこれもしっくりこない。だからと言って、ネットの恋愛コラムの中に


「橘さん好みの、魅力的な女になる方法!」


なんてものがあるはずもない。


(橘さんが言う「魅力的な女性」って、どんなのなんだろ……)


 洗面台の鏡を目の前にして、莉子はふぅ、と息を吐き出す。そのとき、後ろからのびた手にスマホを奪われてしまった。


「ちょっと! 朝の忙しいときになにやってんのよ! さっさと退きな!」


 まだパジャマ姿の母が莉子を押し退け、急いで顔を洗い始めている。すでに8時を回っているのに、これから準備をして会社に間に合うのか……という問いはさておき、莉子は


「ねぇ、ママ」


と母に声を掛けた。


「男の人ってさぁ……どういうタイプの女の人が好きなんだろう?」

「あぁ? そんなの、男によって違うでしょ? 面食いなら美人がタイプだろうし、巨乳好きなら巨乳女がタイプだし、デブ専ならデブ。そんなもんだよ」

「うん。それはわかってるんだけどさ……今回は漠然とし過ぎててわかんないっていうか……」

「……今回って……もしかしてあんた、<宿主>が見つかったの!?」

「い、いや、あの……」


 すぐに否定したかったのにできなかったせいで、すっかり母は盛り上がってしまっている。


「マジ? マジで!? やったじゃーん! これでお前も破魔女じゃなくなるね!」

「で、でも! まだ本当の<宿主>になったわけじゃないから……」

「……はぁ? あんた、まだヤッてないの?」


 相変わらずの露骨な言い方にうんざりしながらも、莉子はこくんと頷いた。


「魔女として誘惑するんじゃなく、自分にとって本当に魅力的な女性になってくれたら、<宿主>になるって言ってくれたんだけど……」

「なんなのよ、その男! めんどくさいっていうか、まどろっこしいっていうか!」


 うん、本当にその通り――心の中で母に同意しながら、莉子は心の中の重い気持ちを吐き出した。


「でも、そういうことを言われたってことは、私に魅力がない証拠なんだと思う。そうじゃなきゃ、さっさと<宿主>になってくれたのかもしれないし……」

「……それじゃない? お前のそういうところが、魅力をダウンさせてるんだよ」


 真麻は化粧水をタッピングしながら、鏡の中の莉子に言う。


「魅力なんてものは、そう簡単に身につくもんじゃないよ。大体、もう12月だろ? お前が破魔女になってしまうタイムリミットまで、1ヶ月を切ってるじゃないか。そんな短い期間で、<宿主>の好みの女になろうとしてるなら、笑えるね!」

「確かにそうだけど、今の私にはなんの魅力もないし……」

「……あーっ! もう、イライラするねぇ!」


 真麻がパチンと指を鳴らすと、その瞬間にメイクが仕上がった。そしてもう一度指を鳴らせば、パジャマ姿がビジネススーツへと早変わりし、あっという間にキャリアウーマンができ上がっていた。

長いまつ毛を羽ばたかせながら振り返った真麻は、莉子に近づいて指差した。


「いい? お前はこの大魔女の真麻さまの娘なんだよ! そんなお前に、魅力がないわけがないじゃないか! とにかく今は、お前が持ってる魅力で勝負しなきゃないんだよ!」

「じゃあママから見て、私にはどんな魅力があるの?」

「うーん……たとえば……早起きが得意だとか? あと、お前は本を読むのが早いじゃない? あれも魅力になるんじゃないの?」

「……ママ。それ、本気で言ってる? それが男の人にとって、魅力的な女なの?」


莉子が疑いの目を向けると、真麻はバツが悪そうに咳払いして、


「と、とにかく! お前は十分かわいいし、大丈夫だよ!」


と叫んだ。


 ……珍しい。莉子は思わず目を丸くした。

 真麻が莉子を「かわいい」と素直に褒めるなんて、めったにない。


 もしかしたら、タイムリミットの迫った莉子を励まそうとしているのかもしれないけど、莉子はなんだかうれしかった。


「……ありがとう、ママ。がんばってみる」


 笑って言う莉子に、真麻はちょっとだけ驚いた表情をした。そして莉子の顔をまじまじと見て、頷いている。


「……うん。まぁ、なんとかするしかないね。それに、<宿主>が見つかっていながら破魔女になるのは、あんまりいいことじゃないからさ」

「え? それってたとえば、みすほさんみたいな感じ?」

「ああ。<宿主>がいながらも破魔女になると、どうしても<宿主>への気持ちを残しちまうだろ? それがネックみたいになって、処分しにくい巨大な破魔女になることが多いんだ。……まさに、今のみずほだね」

「そっか……」


 みずほはきっと、圭吾への思いを残したまま、破魔女になってしまったのだ。そして今もなお、圭吾を探し、さまよっている。


(だから、みずほさんを圭吾さんに会わせてあげたいって気持ちもあるんだけどなぁ……)


 病院で寝たきりだという圭吾に、破魔女のみずほが会いにいくことは不可能だ。でも、それが可能であれば、みずほを処分できそうな気もするのだが……。


「そういえば、ここ最近、みずほが姿を現さないんだよね」


 真麻が香水を振り掛けながら、首を傾げる。


「まぁ、どこかに隠れてはいるんだろうけど……。それに、警察も最近は魔女への警戒を弱めてるみたいだし、なにかあったのかねぇ」


 もしかしたら、おばば様の願いどおり、橘がみすほを退治するのを止めてくれているのかもしれない――莉子はそう思い、ぎゅっと両手を握った。

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