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 タイムリミットまで、あと1日。

 だけどこの男は、決して<宿主>になろうとはしないだろう。

 なにせ彼は魔女を恨み、破魔女を殺そうとさえ思っている男だ。


 それなのに、なぜ彼は魔女である自分をかばっているんだろう? 背中に大きな傷を負ってまで、どうして自分を守っているのだろう?


 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。早く助けないと。


「橘さん、大丈夫ですか!? 今、<癒しの種>を出しますから!」

「……いや、要りません。魔女の力の世話になるわけにはいきません」


 莉子を抱き締めて倒れ込んでいた橘は、腕を解いて起き上がった。そして無事を確認するように、彼女の頬に触れた。


「……っ!」


 莉子の体にあの痺れが走る。橘に触れられると、いつもこうだ。ビリッと刺激を感じた瞬間に、別の自分が体を支配してしまう。


 もう一人の莉子は、欲望に忠実だった。橘をひたすら求めるように、目を潤ませて唇を濡らす。見えない触手をいくつも橘へとのばし、彼を引き寄せようとする。

 半開きになった唇からは、熱い吐息がいくつもこぼれた。頬の熱さが彼の手の体温と一緒になって、莉子の欲望を後押しする。


 豹変した莉子を見て、橘は一瞬だけ驚きを見せた。しかし、すぐに表情を皮肉の笑みに切り替え、莉子から手を離した。


「……ほら、また僕を誘惑しようとしてますね?」

「ち、違います!」


 これは誘惑ではない。そう橘に何度説明したことか。しかし彼は、理解する気がないようで、いつも同じセリフを繰り返している。

 だが、今日は少しだけ違っていた。こんな命の危機が迫っている状況であるにもかかわらず、橘は妙にうれしそうなのだ。

 橘はメガネをそっと上げて、細めた目を莉子に合わせた。


「ちゃんと僕の目を見て、反論できるようになりましたね」

「そ、そうですか?」

「出会った頃は、いつも俯いてばかりで、僕を見ようとはしなかったじゃないですか」


 確かにそうだった。橘と出会った頃の莉子は、自信やプライドの欠片もないような、パッとしない地味な魔女だったのだ。

 合コンを繰り返しても、<宿主>を見つけられなかった3ヶ月前のあの日、初めて彼に触れられてしまった。そのとき、確かに感じたのだ。この人が<宿主>だと。

 そして――彼が欲しいと、心から願った。


 でも、そんな莉子の望みは、叶うことなく終わるだろう。それがタイムリミットの明日なのか、それとも、このまま破魔女に殺されて終わるのか……。


「さぁ、どうしましょうかね。とうとうこっちに来ましたけど」


 橘は莉子に手を引っ張って起こしながら、後ろを振り返る。強く激しい地鳴りと、悲しげな叫び声が近づきつつあった。


「大丈夫です。きっと……わかってくれるはずだから……」


 莉子はきっぱりと言い放ち、大きく深呼吸をした。


――さぁ、来て。私が、あなたを眠らせてあげる。


 莉子と橘が一斉に視線を上げたとき、大きな影が二人を覆い尽くした。

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