表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5.後日談

「期間限定プリン!超おいしい!」


 穏やかな午後のカフェにて。陸と香菜は向かい合って、テラス席に座っていた。


「はあー、本当とろける!おいしいね!」

「喜んでもらえて良かったよ」

 濃厚なプリンを美味しそうに食べる香菜を見て、笑った。相変わらずの食べっぷりと言うか、彼女らしいというか。見ていると、口元が緩む。


 今日は『ごほうびの日』だ。香菜が定期テストを頑張った、ごほうび。


 甘いものが食べたい、と陸にリクエストしたところ、最近話題のこのカフェを予約してくれたのだ。貴重な仕事休みの時間を縫ってくれた彼に、感謝する。それと同時に、この時間がとても幸せに感じた。


「ありがとうね、陸さん。予約までしてくれて……」

 香菜は、スプーンで器用にすくいながら、じっと目を見つめた。そして、にこりと微笑む。その笑顔は高校生にしては幼く、あどけないものであった。それが何だか可愛くて、陸は少しドキッとした。

「俺がしたくてしてるから、気にしなくていいよ」

 ただそれだけ言って、自分も口に入れる。心地の良い甘ったるさを、じんわりと舌に感じた。


「あ、陸さんと私のって、ちょっと味が違うんだよね?」

 ふいに、彼女が言った。確か、豆乳ベースとカスタードベースの二種類。

「香菜ちゃんのが豆乳だっけ……って……え?」

 自分の目の前に、ずいっと差し出されたスプーン。突然の出来事に、陸は戸惑う。当の彼女の方は、何食わぬ顔でにこにこしているが。


「ほら、あーん。私のもおいしいよ?」

 まるで恥ずかしがっている自分の方が間違っているとでも言うように、香菜はきょとんとしている。確かに周りにはカップルが多くて、目立つような事ではないが……。

「ね、おいしいでしょ?」

 ようやく事を終えた時すら、香菜は甘い表情で微笑んだ。


(香菜ちゃんって無意識にこれやってるからなあ……)


 陸は、まだ赤い頬を隠すように、ぱくぱくと急いだペースで口に運ぶ。やはり年下。やはり女子高生。ハラハラさせられるというか、無防備すぎるというか。

 香菜はよく自分の事を、大人っぽいとか、余裕があるとか、そんな風に言う。が、全然違う。自分は大人でもないし、余裕があるわけでもない。

(むしろ振り回されてるよ)



 --あの夜、香菜は大胆な下着で自分を誘った。

 いつになく恥ずかしそうに、だけどいつになく色っぽく。彼女を前にして、理性は容易く打ち砕かれた。香菜はあの後「恥ずかしいから忘れてほしい」と顔を真っ赤にして言っていた。が、忘れられるはずがない。


「陸さん、どうかした?顔が何か赤い?」

「えっ!?気のせいだよ、ちょっと暑いっていうか……」

 強引に押し切り、陸は一人溜息を吐いた。



*・・・・・・・・・・



 その後、二人は、駅前でウィンドウショッピングを楽しんだ。日は暮れ始め、レンガ調の道が、夕焼けのオレンジで染まった。

 セレクトショップを見たり、オルゴールの曲が流れる輸入雑貨屋を見たり、香菜は終始にこにこ笑顔を見せている。


「わあ、このマグカップかわいいね」

 そう言って、彼女は一軒の店の前で立ち止まった。淡い水色にピンクの花が描かれたそれに、じいっと見入る。どうやら店の方は定休日らしく、ガラスの窓を通し、外から眺めるだけだ。

「残念だね。今日は休みか……」

「うん。私、この店すごく気になるなー」

 そう言って、一歩を踏み出した途端。彼女はバランスを崩し、よろめいた。咄嗟に、陸は手を伸ばすと、正面から抱きしめるようにして支える。


「わっ、ごめん陸さん」

 そう言って、香菜は顔を上げた。くしゃっと恥ずかしそうに向けた、その笑顔。細い体から感じる、体温。揺れた髪から漂う、シャンプーの匂い。


「陸……さん?」


 --気付けば、抱きしめていた。

 可愛い、守りたい、好き、だけじゃ済ませられない思いが、次から次へと溢れる。戸惑った彼女の小さな声も。全部取り零したくなくて、ぎゅっと力を強めた。


「陸さん……あの……」

「ん?」


 彼女に顔を向けた瞬間。ふわっと、唇に柔らかいものが触れた。それは、たった一瞬の出来事だった。


「か……香菜ちゃん!?」

 人通りが無いとは言え、このタイミングでキスされるとは思わなかった。陸は、自分と同じように、顔を真っ赤にした彼女に問い詰める。



「ごめんね……我慢、できなくって」



 縋るような、上目遣いで見つめた彼女。その後、すぐに恥ずかしそうに背中を向け、歩き出した。陸はしばらく、取り残されたように唖然としていた。心臓が、はしゃぎ過ぎた子供の物のようにうるさい。


「もう、陸さんっ!早く行くよー」

 彼女はくるりと振り向き、悪戯に笑ってみせた。



(だから、無意識にそういうことしちゃうところが……)


 陸は、軽く咳払いをすると、彼女の後を追う。そして、その手に触れると、思うままに握りしめた。小さくて柔らかくて、温かい。


「陸さん、あの店、また今度見に行こうねっ」

「そうだね」


 二人は互いに目を合わせて笑い合うと、また歩き始めた。

これでこの話はおしまいです。最初から最後まで恋愛一色でした(笑)


これは「らーmen」という小説の番外編になります。

二人が付き合い始めるまでのエピソードも序盤にあるので、良かったら本編も見てください(^^)番外編と変わらず主役は香菜と陸ですが、他にも恋敵などがいます(笑)リサもいまーす。

http://ncode.syosetu.com/n1961by/


「少しでいいからドキッとして?」を最後まで読んでくださって、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ