2.作戦会議
「いつも私ばっかりドキドキして、何か負けてる気がする……」
放課後、香菜は教室にいた。親友のリサと一緒だ。他に人はいない。カーテンから、穏やかな風と一緒に、日差しが注いでいる。
「はあ?悩みってソレ?」
リサは、呆れたような表情で、長い髪をクルクルと指で弄んだ。カラーリングをした明るいミルクティー色の髪に、キラキラとしたラインストーンのネイル。さらに、目元を囲んで強調した派手なメイク。リサは容姿も性格も、香菜とは全く違う。それでも二人は友達だ。
「だって、陸さんはいつも余裕だし、大人だし」
「そりゃ年上じゃん?」
「でも……」
香菜が言い掛けたところで、リサが言葉を奪った。
「要するに、誘惑したいってコトね」
「は……ええ!?」
リサは何てことないようにサラリと言ってみせたが、香菜は動揺でわなわなと震えていた。おまけに顔を赤くしている。躊躇いながらも、勢い良く、香菜はリサを指差した。
「誘惑って!」
「だってそうじゃん?ドキドキさせたいんでしょ?余裕を無くしたいんでしょ?」
面白いおもちゃでも見つけたように、リサは口元をニヤッと吊り上げた。それが香菜にはひどく不敵に見える。実際、リサは恋愛経験豊富で、今までも散々アドバイスを貰ってきた。しかし、今回は楽しんでいるようにも見えるというか……。
「なあに?ドキドキしてほしくないの?」
「そりゃ……してほしい、けど」
不服そうに香菜は俯いた。すると、リサはふふんと上機嫌に笑ってみせる。おもちゃは思い通りになったらしい。
「誘惑なんて簡単よ。一番手っ取り早いのは、視覚ね」
そう言うと、リサはポツポツとブラウスのボタンを外し始める。何食わぬ顔で。そして、香菜がぎょっとした表情を浮かべる頃には、手遅れだった。
「ちょっとリサ!?何で脱いでんのー!」
そこに現れたのは、彼女の下着。しかも、普通の物ではない。
燃えるような真っ赤な下着は、目に眩しい。しかも露出度が極めて高く、彼女のその豊かな胸の肝心な部分が、見えそうになっている。そして、さらにはひらひら揺れるレースに、ストーンの装飾まで施されている。連想されるのは、灼熱の国のエッチな下着。『胸を支え、保護する』という本来の下着の用途から激しくはみ出している事は、言うまでもない。
「どーう?いいでしょ、勝負下着。ドキドキしちゃったー?」
リサはくねくねと体を揺らし、そのバストを強調させた。そして口をあんぐりと開けている香菜の目の前に、惜しげも無く、そのEカップを見せびらかす。
「派手すぎるよ!不謹慎すぎるよ、こんなの!」
「たまには刺激が必要なの。こういう下着で攻めたら、真面目で硬派な陸さんもノックアウトでしょ、さすがに」
「刺激強すぎるよ!」
「あの天然隠れむっつり爽やか系男子には、これくらいしなきゃダメよ」
天然隠れむっつり系爽やか男子とは、まさか陸の事だろうか。香菜は親友の破天荒な言動に、目眩を起こした。何で、教室で、親友の勝負下着姿を見せられなくてはいけないのか。
「じゃ、そうと決まれば、行くわよっ」
「行くってドコに?」
リサは強引に香菜の手を取り、ばっちんとウィンクをした。
「決まってるでしょ?下着屋さんよっ」
「ええっ!今から買いに行くの!?」
彼女は香菜にお構いなしで、ずんずん歩き始める。
「陸さん悩殺攻め殺し作戦、実行よー!」