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トーハンは農業地方だが、特産品がないぶん、多種多様な生産者がいる。ヤンの家も細々した作物と酪農も兼業していた。ヤンも小さい頃は手伝いをしていたが、学業の成績が良かったせいで、かなり早くから家業から離れると思われていたし、ヤン本人もそのつもりで家を出て、弟が継ぐと決まったはずだった。
その予定が怪しくなってきたのは、跡取り予定の弟の結婚だった。可愛い娘らしいが、商人の子で街中で暮らしたいと言い出したらしい。弟は家の農業しかしてきてはいないし、今更仕事を変えるのは大変だろうに、恋人可愛さに継がないと言い出したらしい。父親はカンカンで、好きにしろ、その代わり二度と帰ってくるな、の勢いらしい。母が二人を説得しようとしたらしいが、どちらも全く聞かないようで、とうとうヤンにまで話し合いに参加しろと手紙がきたのだった。