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手加減する気はなかった。
「散々言ってくれたわりに、この程度か。」
どこまでも穏やかな態度で、凄まじく辛辣なことを言われたティムは、一瞬反応できなかった。
「なんで…ここに…。」
「俺は辞めるとは言ってない。お前もここで働かせてくれと上に頼んだだけだ。」
「今まで居なかったじゃないか!」
「有能な弟君だって聞いてたから~。ヤンに溜まってた休暇で休んでもらった。」
ルークが横から口を挟む。
「でも、あんまり仕事進まなかったかな?」
周りにいた人間も一切ティムに近寄らなかった。
「人のこと見下すのも大概にしとけ。恥かくだけだからな、お、前、が。」
ヤンは言い捨てると、ティムにはもう目もくれなかった。丁度グラーゼの使いがヤンを呼びに来て、そのままヤンは出ていったので後の様子はわからない。
同情的なグラーゼに礼を言って、小言もくらって、ぐちゃぐちゃの仕事を整理して報告して帰ってきたら、ティムは居なくなっていた。
「帰ったのか?」
ルークに聞くと、
「尻尾まいて逃げた、が正しいかな。」
ヤンがいなくなったあと、ティムは俺の方が出来るのに、兄に嵌められただのなんだのと罵っていたらしい。が、ルークや周りの部下に冷静に言い返されたらしい。
「ヤンは商人とケンカしないし~、いつも礼儀正しいし~部下を馬鹿にしないし~、どっかの貴族の家に押し掛けたりしないし~反物持って帰ったりしないし~。」
「…そのまま言ったのか?」
「さっぱり理解してないんだもん。ついでに、お前の兄ちゃんは昔からずば抜けて頭良くて、実は庶民としてはかなり異例の早さで出世してる庶民の期待の星で、お兄ちゃんの足引っ張ってんのお前だ、まで言った。」
ルークはニヤニヤしながらヤンを見ていた。
「どうでしょうか?我らが上司どの。」
クスクスと笑う声が聞こえるが、どれも好意的だ。
元々ヤンは一人で結果を出す人間ではなく、なるべく関わる人数を増やす。その方が育成にもなるからだ。
悪い点は時間がかかるところで、急の仕事には遅れをとるが、その代わりに着実な成果をあげる。今回の養蚕のような長期の仕事にはうってつけの人材でもある。緻密な計画性がヤンの長所であり、部下に好かれるところでもある。無計画な上司ほど失敗を部下のせいにするし、評価もくれないからだ。お山の大将ティムはまさに無能な上司の見本のような行動で早々に周りに切り捨てられたのだ。ヤン自身の評価も高いが、部下にもちゃんと頑張った分が還元される。ルークは立場上部下だが、仕事以外なら(仕事中もだが)気安い。他の皆もだ。それを許す、というよりは気にしないのがヤンだ。
例え、とびっきりの美人を口説いていても、何となく上手くいきそうなのが腹立たしいとしても。




