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「これはジーナ様、お越しいただいて誠に申し訳ありませんが奥様とリラーシャ様は外出中でして。」
グラーゼ家の執事がそう言うとジーナは、
「いいえ、今日は執事様と、メイド長さまのお時間を頂きたいのですが。」
「私どもですか?」
「はい。衣装をお任せいただきましたが、貴族の皆さまの装いのマナーは恥ずかしながら勉強不足でして、リラーシャ様にお見せする前に見ていただこうと思いまして。」
執事はふむ、とジーナを見やり、
「では、しばらくお待ちを。メイド長を呼んでまいります。」
近くを通ったメイドにジーナを部屋へ案内するように言うと、自らメイド長を呼びにいった。
「マリラ、時間をもらえるかい?」
「何でしょうか?」調理場で何事かを話していたメイド長のマリラは、訝しげに尋ねた。
「リラーシャさまの仕立て屋が来ていてな。話したいそうだ。」
執事がいうと、マリラは幾分か目を細めると
「私どもは関係ないのでは?」
「私もそう思っていたが、いささか態度を改めねばならないようだ。」執事は少し顔を綻ばせて
「どうも貴族の方ではないことを忘れていたようだ。」
ジーナは二人がやって来ると、改めて挨拶した。ソファに腰掛けると、
「お忙しいところ申し訳ありません。是非ともご意見を聞きたくて。」
丁寧な物言いにマリラもやや見方を変えた。
「お話しと言うのは?」
水を向けてみると、ジーナは持ってきたドレス画を取り出して、テーブルに広げた。
「取り敢えずこの間リラーシャ様からのご希望を聞いて書いてみたのですが、一番差し迫っているのはお庭でのパーティでしたよね?」二人の顔を見ると、頷いている。
「初夏なので涼しげで、軽やかなものをとおもったのですが、……ええと、これとこれかな…リラーシャ様のおぐしの色と合わせてみたんですが、パーティで何かマナー違反になるような所はごさいますでしょうか?」
真剣な顔で聞くジーナに、執事もマリラも少し驚いているようだった。
「私の作ったものを大変気に入ってくださっているので、リラーシャ様が喜んでくださればとは思うのですが、マナー違反の仕立てたドレスでリラーシャ様に恥をかかせてはと…」
ジーナは思わずまくし立てていたことにハッと気づいて、最後は尻すぼみになった。
更に驚いた様子の二人だったが、マリラの方から
「こちらとしても助かります。実のところ少々不安でしたから。」
はっきりと言われてジーナは顔色が悪くなる。
「あ、今は違いますよ。安心してお任せできます。リラーシャ様の社交界デビューですもの、是非とも参加させてくださいな。」
社交界デビューなんて聞いていないジーナは真っ青になった。