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ジーナの疑問はあっという間に解決した。グラーゼ家の大口の注文の最初の納品が初夏のパーティのため、ジーナは他の依頼をすべて断ったからだった。
結婚式に着るドレスを注文しに来た商家の娘が、ジーナが依頼を受けないと知って真っ青になった。
「私のは夏の終わりの結婚式だから、その後なら間に合うでしょ?」
「ごめんなさい。しばらくは専属扱いなの。数着作るものだから。」
悔し泣きでもされそうな表情で
「貴族なんですか?そんなに仕立てるってことは。」
相手の名前は聞かれなかったが、やはり財力にものを言わせた仕事は、相手が分かりやすい。
「私から勿論お名前は出せませんが、身分のある方です。どこで私の事をお知りになられたのか分からないんですが。」
「ならロレーネ様ですね。」
「え?」
「商人の娘でもロレーネ様は貴族の方とお付き合いがあるし、こないだのドレスは、とっても素敵だったし。」ドレス、は、と言う目の前の相手は機嫌悪そうだが、なるほど、ロレーネかと思った。確かに裕福な家の娘で、父親も甘いためかなりのお金をドレスにつぎ込む。ジーナの服をお茶会にでも着ていって、リラーシャの目に留まったのだろう。
まだ諦めきれない娘に散々粘られたが、何とか帰ってもらい一息つくと、ジーナはグラーゼ家に持っていくドレス画を書き始めた。まだまだ可愛いと褒められる見た目のリラーシャだ、淡い茶色の髪には濃い色より淡色が良いだろう。色っぽさや背伸びしたドレスよりデビューなのだから初々しさを全面に出して。あの周りをパッと明るくするようなリラーシャの雰囲気をどうしたら活かしきれるか悩みながら、数日をかけて何枚か書き上げた。あまり日もないことだし早めに取りかかろうと、ジーナはグラーゼ家にドレス画を持って訪ねた。