09:宇宙エルフさん、登場
「わたしの名前はミラファグリンダン・ヴェルトライエン・アル・ロディンスクリンデン。エルフよ。」
「はい?」
いやいやいやいや!何?何なの!?ミラ・・・何だって?長ェよ!つか、エルフ?エルフって、えぇー!?どう見てもあんたフェアリーじゃん!ピクシーかもしんないけど。宇宙服を着た小妖精さんなんて見たことも・・・いや、アニメでならあるな。なんだ、普通だったのか。よかったよかった、どんな異常事態が起きたのかと思っちゃった。
たぶん、僕はこの時とても間抜けなツラをしてたんだろう。目の前に浮かぶ自称エルフの小型宇宙服さんは、コテンとヘルメットを傾げた。器用な宇宙服だな、おい!
「翻訳機の調子が悪いのかしら?あ、あーあー。わたしは、ミラファ、グリンダン・ヴェル、トライ、エン・アル・ロディン、スク、リンデン。エルフよ。言ってること解る?」
いや、そんな区切ってはっきり言われても、僕の記憶力ではムリゲーです。
「ミラ・・・えっと、何?エルフってどういう事?」
「何よ通じているじゃない!理解できなかっただけなのね?失礼なヤツね!これから長い付き合いになると思うけどあなたがそんなでは先が思いやられるわ。ミラファグリンダン・ヴェルトライエン・アル・ロディンスクリンデンよ。わたしの名前はそんなに長くないのだからこのくらい一発で覚えなさいよ。あとエルフって何って言ったわね?エルフはエルフよ。エルフというのはあなたたちの言葉で言うところの人間とか人類とかヒューマンとかに該当するわたしたちの言葉なの。あなたたちが自分を人間と称するようにわたしたちは自分をエルフと称する。何かおかしいかしら?ああ!あなたたちの空想の産物であるファンタジーの妖精族と同じ名前で存在がかけ離れているから戸惑っているのかしら?そんな不幸な偶然の一致で思考停止に陥られてもこちらが困るわね。」
「す・・・すみません」
すげえマシンガントーク、句読点少ねェ!それにかなり上からだ。なんか反射的に謝っちゃったよ。
それにしてもエルフかぁ、偶然の一致にしてもこれは酷い!エルフって響きにはもっとこう・・・ほら、あれだよ、あれ・・・キィーーッ!急に取り乱したことをお詫び申し上げます。
宇宙エルフさんでいいよね、もう。差別は駄目だけど、区別は必要だと思うんだよ。うん。僕が何に憤りを感じているのか、全国3000万人はいるといわれているエルフ愛好家の諸兄には解ってもらえると思うんだ。僕は別にエルフ愛好家じゃないけどさ。ケモ耳、ケモ尻尾こそ至高だよね。
小型宇宙・・・宇宙エルフのミラなんとかさんは腕組みをしてうんうんと頷いたようだ。だからホント器用な宇宙服だよ。よく動くな。
「よろしい、あなたの謝罪を受け入れるわ。そうね、わたしのことはミラと呼んでもらって結構よ。でもきちんとフルネームは覚えて頂戴、すぐにとは言わないから。」
いきなり短くなったなラッキー!これなら覚えられる。それに常識的でいい人っぽいぞ。人?人かなぁ?うん、人だよな。
「僕「ところで特異点、あなたの名前はユキナガ・サトー、いえ、サトー・ユキナガで間違いないかしら?」
「うん。特異て「ではユキと呼ばせてもらうわね。」
「う、うん、いいけ「ユキことサトー・ユキナガ、17歳。S県立I農林高等学校2年生、専攻は作物栽培。両親とは死別して、祖父母との3人家族。」
ダメだこの人、他人の話を聞かない人だ。つか僕の個人情報ダダ漏れじゃん。ストーカーさんかな、やだ怖い!
「彼女いない歴イコール年齢、機械フェチ、やや進行した中二病。」
「やかましわ!」
失礼だなまったく!ほっといてくださいな。けっこう自覚症状ありますから。
ずっと気になってたけど、宇宙エルフさんの翅がパタパタパタパタ動いてるんだよね。その度に燐光がキラキラ綺麗なんだけど、いったいどうなってるんだろうね。宇宙服を貫通してるのかな?それじゃあ宇宙服の意味ないじゃんね?気密って何って話になっちゃう。
そんなことより!
「ところでうち・・・ミラさん、僕に何の用ですか?僕が特異点ってどういう事です?」
宇宙エルフさんは得たりと頷いた。マヂで器用な以下略。
「そうね。その話はここでは何だからあなたの家に行きましょうか。お邪魔させてもらうわ。」
「え?なんで「早くこの防護服を脱いで楽になりたいのよね。身体的には楽だけど、圧迫感があって好きじゃないのよ。」
「防護服?」
「ええ、高濃度魔素防護服。この星のように魔素が濃すぎる場所ではわたしたちは長時間活動できないのよ。魔素酔いしてしまうからよ。この星の濃度だとわたしたちでは命に係わるわね。あなたたちはよくも平気でいられるものだと感心するわ。わたしたちがこの星で長期間活動するためには魔素濃度を調節した拠点が必要になるの。どうせあなたと一緒することになるのだからあなたの家を拠点化するのが合理的よね。詳しい話はそれからよ。さあ、行きましょうか。」
ミラさんは一気にまくしたてると、家の方に勝手に飛んで行ってしまいました、僕の返答も待たずに。どうやら宇宙エルフさんは上から目線で、他人の話を聞かず、マイペースで押しが強い自己中ぎみな人のようです。常識的な良い人と評したのは一部撤回しなければなりません。
「わたしの工作艇を回収してくれないかしら?」
家へと向かう道すがら、宇宙エルフさん、かようにのたまい候。ずっと自力で飛んできたわけじゃないんですね、そりゃあ飛行機的な何かがありますよね。宇宙人的にはUFOですか、うまい、ふとい、おおきい。なんかヤラシイな、おい!
「なにニヤニヤしているのよ、気持ち悪いわね!いまステルス解除するからちゃんと運びなさいよ!ちゃんとよ!慎重に丁寧に細心の注意を払ってね!」
いかん、顔に出ていたようだ。
目の前の空間が揺らいで、銀色に輝く細長い機体が現れた。おお、ホバリングしてるのか、浮いてるぞ。全長3メートル超かな。丸く扁平したノーズの左右に薄緑色のキャノピー。太く短い箱型の胴体から伸びる、薄い4枚の翼と6本のマニュピレーター、着陸脚かな?後方に細長く伸びたテール、バランサーかな?しかし、これは!
「有人極地工作艇ドラゴンフライよ!」
「トンボじゃねぇか!」
どう見ても銀色のトンボです、本当にありがとうございました。ドラゴンフライとかちょっと響きがカッコいいじゃんか!つかドラゴンフライって英語でトンボのことだよね!なんで地球の言葉なのさ。お前、ギンヤンマでいいよもう。宇宙エルフさんの乗り物はギンヤンマ、はい決定!ギンヤンマは別に銀色じゃないけどね!
ギンヤンマは翼を・・・翅だね、昆虫っぽいから、翅を動かしてスィ~っと近づいてきた。自立飛行するのか、スゲェなギンヤンマ。翅もちゃんと前後別々に動いてるよ、つか羽ばたき飛行機なの?ラピ○タかよ。地味にすごい技術じゃね?欲しいな、こいつ。RMAXより欲しい!
RMAXっていうのはヤ○ハ発動機の産業用無人ヘリコプターだよ、ラジコンヘリだね。農薬散布したりするよ。高校の実習田の消毒は、業者さんに頼んでこいつでやってもらってるんだ。消毒があっという間に終わっちゃう、すごいね。GPS付きでホバリングが簡単にできるTypeⅡGで1千万円するんだってさ。水冷2サイクル水平対向エンジンなんだってさ、水平対向エンジン(ボクサー)っていいよね。水平対向といえばス○ルだよね。僕、免許とったらス○ルにするんだ。家の爺ちゃんの軽トラは『農道のポルシェ』ことサ○バーだよ。今年、ダダこねて買わせたWRブルーリミテッドだよ。最近、爺ちゃん白内障であんまり運転しないから、ほぼ未使用新品だよ。僕の卒業祝いで貰うんだ。おっと話が大幅に逸れたぞ。でも、機械っていいよね!
僕の頭上を旋回してたギンヤンマは、スッっと留まりやがった、僕の頭に!僕の頭は竿の先かよ、夕焼け小焼けでもないしね!そりゃ赤とんぼだよorz
「さあ、百面相していないでさっさと行くわよ。」
「うん・・・」
どうやら僕の扱いはこんなもののようです。待遇改善を要求したいです。
「ギンヤンマって意外と軽いんだ。」
「ギンヤンマ!?」(ギンッ!)
「あ、いやいや、あー・・・トンボ?」(さ・・・殺気?怖い)
「有人極地工作艇ドラゴンフライよ!全く物覚えが悪いわね!ドラゴンフライが軽いのは重力制御と慣性制御の恩恵よ。そのおかげでこの細く美しいフォルムを保っていられるの。」
「・・・さようですか・・・」
家にたどり着きました。ホッとしました。
道中、やれ移動は慎重にだの、枝に引っ掛けるなだの、そこ気を付けろだの、宇宙エルフさんがギャーギャー煩くて堪らなかったです。だったら上を飛ばして行けよと、何度怒鳴りそうになったことか!でも言えなかったよ、僕、マジ小心者。
「さて、あなたの部屋にドラゴンフライは入るかしらね。」
「え?中に入れるの?」
「あたりまえじゃない!露駐なんて嫌よ!コーティングが傷むじゃない!」
「道路に停めろなんて言わないけど、それにそれ車じゃないし。」
「それは路駐!道交法違反よ!わたしが言っているのは露天駐機の露駐よ、このおバカ!」
ちょっと間違えただけでボロクソいわれました、ぐすん。日本の法律に詳しいんですね。
結局、押し切られて僕の部屋の隣の空き部屋に入れることになりました。離れの2階です。最初にガツンとやられたのが拙かったんだと思います。
運び込むときに、爺ちゃんと婆ちゃんに見つからなくてホッとしました。
しかし、面倒の予感しかしませんよ。どうしてこうなったorz
ヤ○ハの産業用無人ヘリは2013年に新型機が登場しています。作中のヘリは旧型となってしまいました。