03:僕、やらかしました
えっと、何の話だっけ?あ、そうそう!迷宮の発端だったね。
家の山に隕石が落ちたというので、爺ちゃんと父ちゃんと探しに行ったんだけど、そこは幼児の体力しかないわけで、山道にすぐに疲れるわ、疲れたんですぐに不機嫌になるわ大変だったらしい。見つかんないから帰るのはヤダ!でも疲れたから歩くのヤダ!まったく僕ってヤツァ・・・。
結局、父ちゃんにおんぶされて捜索は続行されたらしい。すまん、父ちゃん。今度お墓に好きだった大吟醸供えておくよ。
そうこうして山を行ったり来たりしてたら倒木を見つけたので、そこで休憩することになった。まだ新しい不自然な倒木で、ここが隕石が落ちた場所なんじゃないかと、爺ちゃんと父ちゃんは調べてみようというので倒木に腰かけた僕から目を離したんだ。
これだけははっきり覚えてるんだけど、疲れてお腹がへって退屈していた僕は、自分が腰かけている倒木の小枝にはさまっているゆで卵を見つけた。見つけてしまった。まあ、ゆで卵状の物体ということで、ゆで卵でなんか有り得ないわけだけど。家の山には家族以外まず入ることはないしね。
大きさは鶏卵大、形は鶏卵より真球に近いがちょっと歪、色はわずかに茶色がかった白、表面はちょいザラザラ、固さはゆで卵よりちょい柔らかい、マシュマロほどではないけれどといった感じ。今のぼくならキノコの一種オニフスベを疑うね、オニフスベにしてはかなり小さいし、時期的にちょっと早いんだけどね。ちなみにオニフスベは食べられる。ただし、食べられるってだけで、美味くも不味くもないらしいよ、僕は食べたことはないけどね。
で、当時5歳の僕は、そのゆで卵状不思議物体を食べちゃった。パクリと、何の躊躇いもなく。なんかスゲー美味かった!なんか鮟肝のような?食ったことないけどさ。なんかフォアグラのような?食ったことないけどさ。そんでもって、ぶっ倒れたorz
あっと思ったその瞬間、僕は何か白いものにかぶりつき、嚥下したとたんにぶっ倒れた。それを目撃した父ちゃんが血相変えて飛んできて、僕の口に指突っ込んで吐かそうとしたけど何も出なかったらしい。白目剥いて意識はないわ、がたがた震えというか痙攣が止まらないわ、すごい高熱でてるわで、パニックになる父ちゃんズ。医者だ救急車だと僕を抱えて慌てて山を下りたけど、まだ小さい子供のことだしこれは駄目かもと思ったらしい。
鬼の形相の父ちゃんに抱えられて転がるような勢いで帰った来た、今にも死にそうな僕の様子を見て母ちゃん大狂乱、婆ちゃん大号泣。留守番に婆ちゃんを残して、僕を抱えて車に飛び乗り、最寄りの町医者まで普段30分のところを20分弱で辿り着き、日曜なのでお休みの杉山医院へ突撃し、『先生!息子(孫)を助けてください!』
これは手に負えないかもということですぐに救急車が呼ばれ、市内で一番大きな総合病院に運び込まれた。救急車は広域消防署の出張所が近くにあるからすぐに来るんだよ、杉山医院のある地区ならね。
総合病院で胃洗浄だ血液検査だ点滴だと治療を受けたが容体は変わらず、検査でも悪いところは見当たらない。父ちゃんたちはまんじりともせず過ごしたらしい。婆ちゃんも家の仏壇にずっと手を合わせ『孫を助けてください』と、ご先祖様にお願いしてたんだって。心配かけてごめんよ。
意識不明のまま高熱は3日3晩続き、4日目の朝、これまでの容体が嘘のように元気になったらしい。
目を覚ますなり、何でこんな処にいるのか、ここはどこか、そんなことよりお腹が空いたからなんか食わせろ。みんなを唖然とさせたらしい。
ソ、ソンナコトガアッタンデスネー、ボク、オボエテナインデスヨー(汗)僕がおバカなのはこの時の高熱が原因じゃなかろうか。
あからさまに原因不明の奇病なわけで、しばらく入院してCTだのMRIだの退屈な日々を過ごしたがやっぱり解らない。あのゆで卵状不思議物体を調べれば何かわかるかもと、爺ちゃん達が山狩りをするも発見できず。
検査の結果何の異常も発見できなかったため、とりあえずは経過観察ということで放免となった。いや、マジで放免だよ、退院なんて生易しいものじゃなくてさ。あの退屈さは忘れない、絶対にだ。
久しぶりに家に帰ると、晩御飯はスゲェご馳走だった。美味かった。
さっき絶対に忘れないと言ったな、あれはウソだ。
小学校に入学するころには、そんな事件があったことをすっかり忘れて山野を駆け回るヤンチャ坊主の完成ですよ。しばらくは定期的に検査に通わないといけなかったのが苦痛だったな。
でも父ちゃんたちの心労は如何ばかりだったのかって今になって思うよ。再発するかもってひやひやしっぱなしだったと思うしね。両親が早死にしたのって、この心労も一因じゃないのかな。祖父母もこのころから急に老け込んだしね。
影響が出始めたのはもうちょっと経ってから、具体的には中学の後半あたりなんだよね。それがゆで卵状不思議物質の影響だとわかったのは、さらに後になってからなんだけど。
結論から言ってしまうと、あのゆで卵状不思議物質は1999年7月に降り注いだ隕石そのもので、その正体は、『迷宮の幼生体』。つまり迷宮は宇宙生物だったんだよ!
『『『な、なんだってー!(AA略)』』』