28:冬休みの終わりに
単純な中にも一癖ある上層の魔物と戦いながら迎えた冬休み最終日、僕らはB10階に到達して探索を終えました。これでニアンさんとは一旦お別れ、僕は学校が始まり週末探索者に戻るのです。
ニアンさんにはお世話になったお礼に、大吟醸と天ぷらかまぼこを贈呈しました。なんか気に入ったみたいなので、これで長旅の無聊を慰めてくださいな。長旅つっても、どれくらい掛かるか知らないですけどね。
「いやぁ、気ぃ遣わせたみてぇで悪ぃなぁ坊主。ありがたく頂いとくよ。あたしももうしばらく居てやれればよかったんだけどよ、家をあんまり長ぇこと留守にできなくてな。娘も心配だしよ。」
「へぇ、ニアンさんって娘さんがいたんですね?」
そんな人を引っ張ってきてホントによかったの?とミラさんを見ると、不自然に視線を逸らされた。おや~?
「下の娘でもお前さんと同じくらいだしよ。いまさら母親なんて鬱陶しいだけだとは思うんだけど、それでも心配なのが母親ってもんさ。」
なんだと!僕と同い年くらいの娘がいるだと!しかも話しぶりだと僕より年上っぽい、いわゆる『お姉さん』がいるってことじゃないのか!?お義母さん、ぜひ紹介を!じゃなくて!いろいろおつつけ僕。噛んだじゃねぇか!えっと、おつつけ、おちちけ、落ち着け、そう落ち着けだ!よし、一件落着!でも、おちちけってwなんか乳輪から1本生えてそうなあれだよなwww
だからちょっと待ってほしい。僕が言いたいのはそんなくだらないことじゃあないんだよ。娘さんを紹介してもらうのは、この際(不本意だけど)こっちに置いといて。僕の母ちゃんが生きてたら何歳だ?母ちゃんは地元の短大卒で、僕を産んだのが24つってたような気がする。ということは、今年でえっと・・・年が明けたから、えっと42?計算合ってる?ニアンさんが幾つで初産だったのか知らないけど、10代前半とかでない限り確実にアラフォーだ。下手すりゃアラフィフだ。そんなニアンさんの古くからの親友であるミラさんの年齢も、上方修正しなきゃいけないんじゃないのか?まさかのアラフィフ疑惑とか!
え~っとぉ・・・あ、さっき初産って言ったじゃん?何て読む?答えは人間だと『ういざん』ね、動物だと『しょさん』(ドヤ!)。え?違うの?獣医さんにそう聞いたのに。明確な区別はないって?ふ~ん、だそうですよミラさん。ダメですか?誤魔化しきれてないですか?謝りますから大蛇のスタ○ド出すの止めてもらっていいですかね?しかもゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!って効果音付きで。今日も後でボコられるのかなぁ。
「ま、とりあえずは仲良くやんなよwじゃあなwww」
こんな最悪の状況を残して、ニアンさんは帰って行きました。ニアンさんCome Back!ホントマジで!
では、今後の活動方針などを。
平日は学校ですので探索は無しで、家に帰ってからの薪割り特訓は今後も続けると。その間、ミラさんたちは他の迷宮のお手伝いに出張でございますよっと。
週末になったら探索行を再開、マップを埋めることからスタートですね。埋めなきゃいけないマップは結構あって、まずはB2階からB10階。さらにA口とC口の1階からボス部屋まで、こんだけを埋めなきゃいけない。時間掛かりそうですね。その間も魔物を倒しまくって、経験を積み重ねないといけないわけですよ。
次にスキルと魔法の習熟ですよね。喫緊の課題として浮上した、被ダメージ時の回復をどうするかですけど、これはちょっと考えてることがあるんですよ。ゲームみたいに魔法薬みたいなものでもあると便利だったんですけど、そんな都合のいいものは無いようで自力でなんとかしなくてはいけないようなのです。そこで思いついたのが、唱えやすいが回復量の小さい、いわゆる下級の回復呪文でなんとかしようということです。
僕の使おうとしてた『全き身体に戻れ』っていうのは、回復量も大きいけれど詠唱も長い上級の呪文だったようなんです。上級が使えるなら下級なんていらないよねと思ってたんだけど、アクションの短さはこの際魅力だなということです。ネトゲーっていうの?最近のゲームではそんな一面もあるらしいね、やったことないからよく知らないけどさ。
実際には、そんな場面にもう一度遭遇しなくちゃわからないことなんだけど、できたらそんな目には遭いたくないなぁと思うわけですよ。だから普段から何もなくても戦闘中に試していかないといけないのかなぁ。そのくらいの無駄使いはできるくらいの魔力は持ってるはずなんだよね。何事も試してみなくちゃ判らないってことだよ。
ニアンさんが次に合流するのがいつになるかは現時点では判らない。春休みが近くなったら、ミラさんが連絡してみるってさ。ニアンさんにはその間、昔の伝手で盾職さんとヒーラーさんを当たってもらえるようになっている。でも難しいだろうってさ。ニアンさんのかつての仲間たちはみんな引退してて、いまさら引っ張り出すのは難しいらしい。かといって、現役を勧誘するのもそれはそれで問題があって、その多くは機密とお金だ。
僕と行動を共にするならば、僕の能力を知ったうえで、余計な欲や野心を持たないとこが求められるらしい。それと守秘義務ね。欲はともかく、野心はねぇ、下手打つと僕が不幸一直線なわけで勘弁してほしい。でも欲と野心の無い現役探索者なんているの?って感じだ。
しかも連邦を遠く離れて地球くんだりまで来てもらうわけで、少々の高給では割りに合わないと思うよ。地球では隠れ住むようにおとなしくしてなきゃいけないようだし、せっかくのお金も使い途無いしね。しかも迷宮の上層や中層あたりを探索するので、上級者にとっては物足りないだろうしね。ホントにボランティア活動ですよね。
地球人の中から育ってくれるのがベストだって思うんだけど、なにぶん始まったばかりだからね。今日明日出てくるわけもなく、時間が掛かるのは間違いない。だって現時点で迷宮に潜ってるのは、僕以外では自衛官しかいないんだもん。迷宮が一般に開放されなきゃ話が進まないわけで、どうなるのかね?今年中にそこまで漕ぎ着けられるのかなぁ?首相嫌いのリアナさんに期待だよ、お酒のお供もしますし愚痴くらい聞きますよ。頑張ってくださいね。
あー、そういえばさ、春休みのあたりって結構農作業が忙しいんだよね。平地だったらもっと早くから始まるんだろうけど、家は中山間地だからさ。いい収穫を得るためには、いい準備をしなくちゃいけないわけさ。その起点がこのころなんだよね。家の規模の農業なんて土いじりの延長みたいなモンかもしれないけどさ、それでもおマンマのタネなわけですよ。やるからには真剣にだよ。
このあたりは今から考えても仕方ないのかな。僕一人の都合でどうこうできる話じゃないし。むしろ農作業こそ僕一人の都合でどうとでもできるわけか。忙しくなるよね。ツレと遊びにも行けないんじゃないか?しゃあないけどさ。
こうして僕の高2の冬休みは終わりました。明日から学校かぁ。彼女欲しいなぁ。
今回で第一章の終了です。お読みいただいてありがとうございました。
ストックが切れましたので、書き溜めのためにしばらく更新は停止します。
ストックができ次第に投稿を再開しますので、その時には変わらぬご愛顧をよろしくお願いします。