25:転移に酔う(物理)お金に酔う(物欲)
表層のボス、カマキリ野郎を倒した僕たちは上層へと足を踏み入れ、すぐに転移の小部屋を発見しました。だって階段のすぐ隣だったんだもん。これで1階へ戻れるし、1階からここに飛んで来れる。ここから中層や下層へは行けないし、逆も然り。
見つけたからには使ってみたい。使ってみましたともさ。
台座の天板に埋め込まれた水晶球に手を置いて、表層っ!っと念じると立ち眩みにも似た感覚とともに風景が・・・風景はそんなに変わらなかったけど、マップで確認したら1階の転移部屋でした。おおー!すっげー!き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛!吐く!
「お?どうした坊主w転移酔いか?www」
止めてニアンさん!叩かないで!揺らさないで!マジ吐いちゃうから!!
「ギャーッ!止めるっす!こんなとこで吐くなっす!貰いゲ○しちゃうっすよーっ!」
バカーっ!その言葉を口にするんじゃねー!想像しちゃうだろ!耐えろ、僕!息をゆっくり吸って、ゆっくり吐く。吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。背中を擦ってくれるのはありがたいんですけどね、ニアンさん、笑いを噛み殺しながら擦るのは止めてもらっていいですかね?たまに妙に力が入るんですけど?
ニーナさんは?知らない!部屋の隅っこで蹲ってるとか全然知らないんだからね!そのニーナさんの背中をミラさんが擦ってるとか、ホントに知らないんだから勘違いしないでよね!ニーナさん、その巻き込まれ体質はなんとかしたほうがいいと思いますよ?マジで!
お見苦しい光景で申し訳ありませんでした。しばらく横になって休憩中です。転移部屋って魔物が出なくてよかったね。
転移酔いらしいです。転移酔いってのは、文字どおり転移で体調を崩す現象です。軽度だと眩暈・ふらつくなど、中度で嘔吐感・耳鳴りなど、非常に稀だが重度になると痙攣とか起こるらしいですよ。ふむふむ、僕は中度なんですね。
「大抵そのうちに慣れて平気になりますよ。」
「でもよ、いつまで経っても慣れねぇヤツもいるんだぜ?あたしが知る限り、そういうのは程度の軽いヤツだけどな。」
「・・・へー、そーなんだー・・・」
「そりゃそうさ、程度の重いヤツは死んじまうか迷宮を離れるかして残ってねぇからよw」
ですよねー。そんなオチだろうと思ってましたよ。
「なんだよ、つまんねぇなぁ。いつものようにムキになってツッコんでくるかと思ったのによ。」
「ニアン、あまりからかうものではないわよ。最初は身体がびっくりするのか酔いやすいのよ。」
「でも、自分みたいに慣れたと思っても、突然ぶり返すこともあるっす。油断は禁物っすよ。」
ニーナさんに言われても説得力がないような気がするんですけどね。本日のお前が言うなってヤツですよ。
この休憩中に『空間跳躍』が使えるようになってるのに気付いたんだ。一度転移したのがトリガーだったのかな。それがいとも簡単にバレちゃうから、僕っておバカだよねぇ。黙ってれば被害が拡大せずに済んだのに。雉も鳴かずば撃たれまいに。けんもほろろも雉の鳴き声なんだぜ、関係ないけどさ。
脳裏に浮かんだ取説によると、①マップで始点と終点を決める。②ワープと念じる。以上。わー、かんたんだー(棒)
跳躍先に魔物がいたらどうするんですかねぇ、と思ったらマップが切り替わった。マップのあちこちに赤い点が点滅表示された。なんだこれ?マップを2階に切り替える、赤点はない。赤点がないのはいいことだよね、補習受けなくていいしね、フフフ。なんて脳内一人ボケにちょっとウケてたら表示された。ちょっぴり切なかった。赤点表示は、やはりマップのあちこちに散らばってる。3階に切り替える。赤点は・・・しばらく待ってみる・・・・・・表示された。
これは魔物か?表示のタイムラグってサーチ中ってことなのかな?確認のためには、実際当たってみるのが一番だよね。現在地のマップに戻して確認すると、ここから一番近い赤点は、この部屋を出てすぐ左だ。入口からそっと通路を覗いてみると、いた、2メートル先ナメクジだ。次なる検証は、この状態で魔物を倒すとどうなるか。剣鉈槍で突こうとして思い止まる。エンチャント切れてるよね。指先火炎放射に切り替えて魔物を倒したら、赤点が消えた。おおー!
こんな不自然なことしてたら、そりゃあバレるよねぇ。何をしてるのか尋ねられて正直に答えたよ、跳躍のことは除いて魔物表示のことだけね。「おお、便利になったなぁ」とか、「またチートっすか」とか、誤魔化されてくれる人ばかりならよかったんだけどね。そうは問屋が卸さないのがミラさんですよ。問い詰められてあっさりゲロっちゃいましたよ。ぅぶっ!これはNGワードだった!
「検証のため出口まで跳躍してみましょう。」
そうなっちゃいますよねー。ホントにやるんですか?やるんですか、そうですか。
跳躍しましたとも。一緒に飛ぶには接触してないといけないようですよ。最初は僕独りで跳ぼうと思ってたんですけどね。もしもの時に全滅しちゃうじゃないですか、*いしのなかにいる*とかさ。ここまで来たら一蓮托生ですって、みんなで跳ぶことになったんだけどね。緊張したわ!
マップを見ながら始点は現在地、終点は上り階段前に設定。跳躍後上り階段の方を向くように回っておく。必要かどうか解らないけど、一応念のためだね。もう一度マップを確認、始点終点は合ってるな。ミラさんは僕の左肩、ニーナさんは右肩、ニアンさんは僕の背後にいて僕の頭に手を置いてる。なぜそこなんだよ!それはともかく、深呼吸して・・・。
「行くよ、ワープ!」
声出ちゃったw
またも立ち眩みのような感覚を味わって、目の前に上り階段が現れた。誰も床にも壁にも天井にもめり込んでないみたいだ。よっしゃ成功!では失礼して、あー気持ち悪ぃー!キッツイわー。涙出てきちった。はい、そこの宇宙エルフ2人、大騒ぎしない!はい、後ろの大猫女、大笑いすんな!チクショウ!!
吐きたいなら、その辺に吐いときゃ迷宮がキレイにしてくれたのによ、と言われて愕然とする。そういえばそうだった!もっと早く言ってよ。でも吐きたくありませんから。
結局、この日の探索はこれで終了して、ニアンさんが不機嫌に。次、頑張りますから。
明日は大晦日、これから4日間は迷宮探索も完全休業です。そして今日の上がりは、なんと!71万8千円!!おおーっ!ドンドンドン、パフーパフーパフー!一気に桁が上がったぞ。
カマキリ野郎の魔石を鑑定してびっくりだったよ。
【魔石Lv5 品質:A4】
これまでずっとLv1のちんまい魔石で、Lv2すら出なかったのに4階級特進です。この大きさはあれだよ、球形だから判りにくいけど、DVDとかCDと同じくらいだ。つまり12センチくらい。意外とでかくてびっくりだ。こいつが一個70万円也。
ちなみに過去に発見された最大の魔石はLv59、直径150センチくらいなんだってさ。これが飛びぬけて凄くて、2番目の記録はその半分以下だそうだよ。直径が2倍なら体積はその3乗、8倍だ。すげぇなおい!値段は付けられないんだってさ。連邦首都の博物館に展示してあるらしいよ。見に行きたいなぁ。
早速ですが、今日の上がりを4等分にと思ったら、エルフ組のお二人は就業規則により受け取りを拒否されました。
「いや、少しくらいはいいんじゃないの?実際命がけで戦ってるわけだし。」
「ユキさんは学生さんですので実感がわかないかもしれませんが、『少しくらいなら』というのは破滅の第一歩です。考えられないような大金を横領、着服する事件がたまに起きますが、その人たちも最初から大金を着服しているわけではないのです。『少しだけ』『少しくらいすぐ返すから大丈夫』から始まって、だんだんエスカレートしていった結果が大金の着服なのです。お金は大事なものではありますが、人を狂わせるものであるということは肝に銘じておいた方が良いとおもいますわ。」
「まあなぁ、端金のために殺した殺されたなんてよくあることだしな。」
「それは今回の件とはニュアンスが違うと思うのだけれど。」
「金は人を狂わせるって意味では同じだろ?」
「なんにせよ、将来、破滅したくなかったら、安易な誘惑には乗っちゃいけないってことっすよ。」
お金という安易な誘惑に簡単に釣られて、探索者になった僕がここにいるんですけど。破滅しちゃうんでしょうか。破滅とか嫌だようおうおう。
僕の将来はさておき、受け取り拒否組さんへの対応として、一応は申請が受理されたから手当てが付くんだって。危険手当と、なんとかって特別手当なんだって。損しないならいいのかなぁ?
じゃあニアンさんと折半ですねと言ったら、あたしもいらねぇと。えぇ~っ!?結構な大金ですよ?
ニアンさんはすでに一生分のお金を稼いだので、今では悠悠自適でやってるそうな。今回の遠征も道楽半分なんだってさ。あとの半分は親友のミラさんに頼まれたから。ちゃんと講師料っぽいものは連邦から出るらしいよ。その講師料っぽいお金も、魔石の転売益で賄えるという試算のもとに設定してあるんだって。
しかも日本円で貰っても、あまり嬉しくないってさ。そりゃまあ、そうかも。みんなの生活の基盤は地球じゃないしねぇ。
上がりを一人占めって、あんまし気分の良いもんじゃないんだけど、貰えるというのなら貰っておこうかな。爺ちゃんにでも預けておけばいいか。でも70万かぁ、使い道がありすぎて困るなぁ。運搬車でも買おうかな、トラクターとか買い換えるために貯めておこうかな。コンバイン、田植え機、チッパーシュレッダー(樹木粉砕機)、トラクターに付けるアーム式モアー(草刈機)はどうだろう?ミニショベルもいいなぁ。爺ちゃんの軽トラは新車だからいいとして、婆ちゃんの車に卒業した時の僕の車。その前に免許か。いっそ大型バイクもいいよね。これも免許か。いやー、困っちゃうなー。
「ダメだコイツ。ぜってー破滅すんぜ。」
「ユキさん・・・」
「機械道楽はほどほどにっすよ?」
うるさいなぁ、夢見るくらいいいじゃんね?