表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家の裏山に迷宮できました。  作者: ちゃぼ
第1章:僕、17歳、高校2年生の晩秋編
24/28

24:初めてのボス戦

 ここは5回の最奥、巨大な両開きの扉の前に今、僕たちはいる。何の飾りもない扉から、やけに重圧を感じる。この奥にいる魔物が放つ重圧なのか?そう、ここはボス部屋の前、僕たちは初めてのボス戦に挑もうとしているのだ。


「そんなしゃっちょこばるなよ坊主、この一戦はあたしらも全力で援護してやるからさ。ここはまだ表層だぜ?そこまで強い魔物は現れねぇし、お前さんも強くなってんだ、いつもどおり戦えば遅れなんて取りゃしねぇよ。」


 このところの集中した探索行で、僕のレベルは15になっていた。レベルだけなら駆け出しを卒業して、中層への進出が見えてくるレベルらしい。レベルだけで実力を計ることはできないらしいけどね。いまだに戦闘時の姿が追いきれないニアンさんでも、そんなずば抜けた高レベルではないんだってさ。ホントに強い高レベル探索者って、どんな戦闘力してんだろうね?それにしても、いつもどおりとか普段どおりとか、ニアン軍曹は相変わらず難しい注文をなさいますよ。そんな簡単に平常心が保てるなら、誰も苦労はしないんだっつーの。そんなニアンさんも扉を睨んで、しかしこれは・・・とか呟いている。


「お前さんが迷宮に挑む以上、いつか通る(みち)だ。開けな。」


 ここがボス部屋であるからには、クリアすれば次は上層だ。僕が目指すのは迷宮の最深部。こんなところで躓いてちゃ話にならない。ミラさんの顔を一瞥する。ミラさんは黙って頷いた。僕は静かに息を吐き、深く息を吸って目の前の扉を押し開けた。佐藤幸永、推して参る!




 そこは結構広い空間だった。例えるなら学校の体育館くらいかな。その広い空間の奥には、一体のカマキリが佇んでいた。


「え?カマキリ?」


 カマキリなら5階でこれまで散々戦ってきたんですけど?でも雰囲気が違う。感じる重圧が違う。なにより・・・見た目が違う。全体的にゴツゴツした体、ぶっとい前脚、三角よりも細くて鋭角的な頭と触覚、くるんと巻いた短く太い腹。人間でいう肩の部分と中後4脚の節にある装甲板。本来は花に擬態するため、カラフルであるはずの装甲板を含めた全体は、こいつは地味な褐色だ。みんなのアイドル、ニセハナマオウカマキリ!の幼虫か、こいつ?


「キラー・マンティスかよ。中層クラスの魔物だ。同じカマキリと思って油断すんなよ。」

「・・・いえ、違うわ。あれは・・・」


 ミラさんの声が震えている。僕も鑑定してみる・・・なんだこれ!?コイツはヤバイ!?


【マンティス・デスサイズ Lv27】


「マンティス・デスサイズ!首狩りカマキリ!」

「なんだと!」


 カマキリが滑るように飛ぶように向かってくる。デカい!ジャイアントマンティスよか遥かにデカい!しかも迅い!狙いは僕か?ちっという舌打ちと共に横殴りの衝撃を受けて、僕は綺麗に吹き飛ばされた。直後に僕がいたはずの空間を、カマキリの鎌が薙いでいく。全く動けなかったぞ。僕はニアンさんに蹴り飛ばされて命拾いしたのだと、ようやく理解した。命拾いはしたけど、脇腹が痛ぇ!


「ミラ!なんでこんなのが表層にいる!?下層クラスの魔物だぞ!」

「知らないわよ!迷宮に訊いて!でもレベルはそんなに高くない!このメンバーなら倒しきれないことはないはずよ!」


 再び僕に向かって来ようとするカマキリを、ニーナさんの魔法が迎え撃つ。炎の槍だ。その炎の槍を、カマキリは鎌で斬り飛ばしやがった。さらに僕の首を狩りにくるけど、前に転がるように回避して中脚に剣鉈槍を叩きつける。装甲板に弾かれた。硬ーなクソッ!

 それにしても、なんてことしやがる、このカマキリ野郎!カマキリの前脚は横に薙いだり袈裟懸けしたり、そんな動きするようにできてないんだっつーの!しかもその鎌の内側は鋭利な刃物で、まさに死神の鎌。その鋭さとスピードなら僕の首如き簡単に落とせるんだろうよ。首どころか胴体でも真っ二つにされるだろう、当たればな。でも当てさせてやんねぇ!こんなところで死んでたまるか!


「ミラ、坊主が狙われてる!ありったけの魔法で援護しろ!」

「やってるわよ!」


 ニアンさんがカマキリ野郎と斬り結びながら指示を出す。ミラさんからひっきりなしに魔法が飛んでくる。詳しくは解らないけど、防御を上げたり、回避を上げたり、いわゆるバフってやつだろう。カマキリ野郎は片方の鎌でニアンさんと切り結びながら、もう一方で僕を執拗に狙ってくる。余裕あんじゃねぇか、この野郎!蟷螂の斧ってのは、はかない抵抗の例えだろうが。

 僕を狙ってくるなら好都合だ、僕が注意を引き付けている間にみんなが余裕を持って攻撃できる。カマキリ野郎の斬撃をひたすら躱す、受け流す。さっきからニーナさんの魔法が当たってはいるけど、当たる場所が悪いのか、いまいち効果が薄いようだ。できたらこいつの脚を止めたい。脚を止めるには逃げ回るだけじゃダメだ、受けないと。受けたらブレスを叩き込んでやる!今は撃てない、誰かを巻き込む!


「坊主、焦んな!一気に片付けようなんて思うんじゃねぇ!」


 僕の様子が変わったのに気付いたのか、ニアンさんから警告が飛んできた。解ってますよ!焦ってなんかいませんよ!焦ってなん・・・か?カマキリ野郎が後退した。そしてニアンさんから遠ざかるように大きく回り込む。ブレスのチャンスだ!寄せて・・・いや!射線上にニーナさんがいる!カマキリ野郎は動きを直線に変えて、僕めがけて一気に突っ込んできた。ここは、受ける!


「させるか!」


 ニアンさんが僕の前に超速で割り込んできて、横殴りの左の鎌を大剣で止めた。続く斬り下ろしの右の鎌は、これは僕が受け止める!さっき寄せた魔力をありったけ刃に込めてやる。できるだろう?できるはずだ!仕事しやがれ『魔力操作』!振り下ろされる鎌に、担ぐように構えた剣鉈槍の刃を思いっきり叩きつける。衝撃で膝が笑いそうになった。重い!でも踏ん張れる。この時僕は吼えた、らしい。

 爺ちゃんの知り合いに鍛えてもらい、ニーナさんたちに強化してもらった剣鉈槍は斬撃を受け止めた。刃はそこで止まらずに鎌へと食い込み、ついには鎌を断ち斬った!カマキリ野郎の鎌はその半ばから断たれて宙へ舞い、急に負荷が掛からなくなった僕はバランスを崩して踏鞴(たたら)を踏んだ。振り返った僕が見たものは、ニーナさんの炎の槍とミラさんの風の刃に両目を潰され、ニアンさんの大剣で胸を真っ二つにされたカマキリ野郎の最期だった。

 断たれた上体が地に落ちて、体を支えていた四脚が力を失って倒れ伏し、全てが魔素に分解されて消えるまで僕らは油断なく魔物を見つめていた。魔石を残してすべて消え去ったとき、僕は大きく息をついた。ああ、勝ったんだなってね。




「坊主、よくやったじゃねぇか。しかしな・・・」


 ニアンさんのゲンコツが頭頂に振ってきた。イタイっす!首がめり込むっす!


「焦んなっつったじゃねぇか。無理やり受けようとしやがって。お前さんの体重(ウェイト)じゃ身体ごと持ってかれんぞ?」

「う、すいません。つい、カッとなって・・・」

「ビビって固まられんのは面倒だけどよ、高揚して突撃されんのも冷や冷やすんぜ?お前さん、まだそこまでの腕はねぇんだからよ。早く相手との実力差を推し量れるようになれよ?さもなきゃ早死にすんぞ?それにしてもよ・・・」

「ええ、そうね。」

「坊主が執拗に狙われてたな。坊主以外は眼中にねぇって感じでよ。」


 うん、それは僕も気付いてた。むしろ好都合と思っちゃったわけなんだけど。僕が迷宮の力を持ってるのと関係あるんだろうな、たぶん。


(タンク)が要るよな。」


 これからも(ランク)の高い魔物ほど、僕を狙ってくるだろう。僕だけを執拗に。カマキリ野郎ことマンティス・デスサイズは比較的モーションが解り易かった。だから躱せたんだけどね、最初の一撃以外は。本来のマンティス・デスサイズは下層に出現する魔物で、その強さはこんなもんじゃないようだ。ですよね!なんか幼虫ぽかったもん。狙われる僕への攻撃を、堅実に受け止める盾役が必要だということなんですけどね。その人にひたすら攻撃を受け止めてもらって、僕はそれを避けてチクチク攻撃するわけですよね。それってどうなんだろうね。


「なんか不満かい、坊主?魔物と真正面からやりたいってかい?盾に隠れて攻撃すんのはカッコ悪ぃってかい?たった一度表層のボスに勝っただけで英雄気取りとは、いいご身分だねぇ。」

「ニアン!ユキさんは決して・・・」

「ああ、わかってるよミラ。だけど今、言っとかなきゃいけねぇことだ。なぁ坊主、探索者ってのはな、無様だろうがカッコ悪かろうが、生き残りゃあ金と明日が手に入る。だけど死んじまったら何も残らないんだぜ?そう、何にもだ。」


 うん、それはミラさんから聞いてる。聞いてるけどさ。


「大方お前さんのこった、誰か一人に負担を負わせんのは納得いかねぇとか、そんなこったろ?人の良いこった、そういうの嫌いじゃねぇよ?だけどな、お前さんは考え違いをしてんぜ。負担ってのはな、チーム全体で分担するもんだ。」

「チーム?」

「おおよ!お前さんが狙われるなら、それを受ける盾を用意する。今度は攻撃を受ける盾を守るために、後衛が支援する。盾と後衛の負担を軽くするために、あたしら攻撃役(アタッカー)が全力で魔物を削る。そうやってチームは廻ってくんだよ。一人で全てをこなす必要はねぇし、自分に足りねぇモンは他で補やいいんだ。」


 ま、普通は逆だがよとニアンさんは苦笑(わら)ってた。普通は攻撃役を最優先に考えて、それを守る盾と後衛らしいんだけどね。僕らの場合は僕がいるから、どうしても僕中心に考えなくちゃいけないんだってさ。何よりも僕を守り、成長させることが最重要課題なんだ。

 それにしても、僕らってチームだったんだねと言ったら、「ユキさんはチームと思ってなかったっすか?ショックっす!謝罪と賠償を要求するっす。」などと泣かせることを言ってくれた。でもニーナさん、そのネタどこで覚えたのさw


「ユキさんの気持ちは解らないでもありません。自分一人レベルが低くて守られ教えを乞う段階でチームの一員などと考えにくいのでしょう。」

「そうかい?一緒に迷宮入って戦えばもうチームだろ?」

「皆が皆あなたのような脳筋なら何の問題もないのでしょうけどね。」

「ほほう?ミラ、お前さんとは一度とことん話し合う必要がありそうだな?」


 いや、別にそんなにヘコんでないんで、無理してはしゃいでくれなくても大丈夫ですよ?お気持ちは嬉しいですけどね。


「じゃあ今日のところはこれで撤収っすよね?」

「なに言ってんだい?あたしがいる間はひたすら奥へだよ。てなわけで、さっそく上層にアタックしてみようかい。」

「き、聞いたことないっす。話が違うっす。」


 嘘はいくないっす。ニーナさんも聞いてたと思うなー。ミラさんとニアンさんが喧喧囂囂やってたじゃん。

 そんなニーナさんは、さっさとニアンさんに取っ捕まり、上層へ続く下り階段の先へとドナドナされて行きました。なんてドナドナが似合うんだろうwじゃあ僕らも追いかけますか。


 こうして僕の初めてのボス戦は終わったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ