02:事の発端
改めまして自己紹介。
僕の名前は佐藤幸永、S県I市在住二十歳。地元の農林高校を卒業して、自宅で農業と迷宮探索者やってます。
家族は爺ちゃん、婆ちゃん、僕の3人。父ちゃんと母ちゃんは、僕が小学生のころ亡くなりました。病死です、どちらも癌でした。あ、同居がもう一人いますけど、それは後ほど。
嫁はいません、彼女もいません、いたこともありません。
身長175センチくらい、体重65キロくらい、普通ですね。顔は・・・普通です。イケメンではありませんが、キモくもないはずです、きっと。だから普通です。
自宅は、はっきり言って辺鄙です。
市街地から自宅まで車で1時間半、1車線の県道からコンクリ舗装の脇道というか山道に逸れて15分、山の中の一軒家です。隣の家まで優に4キロはあるよ。お隣さんは県道沿いだからね。昔はもっと家があったんだけど、みんな出て行っちゃった。かつて18軒あったらしいうちの町内、今は3軒しかないからね。限界超えて終わった集落です。
乗用車で家に来ない方がいいですよ、下とか擦っちゃうんで。家に来るなら4駆か軽トラがベストですね。公共交通機関ですか?車で30分も走れば、バス停ありますよ。1日3便くらいしか来ないですけどね。自宅へのコンクリ道は、大型トラックが通れるように国が直してくれるそうです。迷宮様様です。
上水道は無いです。簡易水道ですね。下水道はないです。合併浄化槽ですね。一応トイレは水洗ですよ?最近直しましたから。迷宮様様です。
電気は通じてますよ、馬鹿にしないでいただきたい!最近、太陽光発電も付けたので万全です。もっとも、気候的な要因で冬場5ヵ月間くらい役に立たないですけどね。
都市ガスってなんですか?ガスといえばボンベのLPガスです。電話も通じてますし、携帯だって繋がるようになりました。アンテナが立ったんです、これも迷宮様様ですね。
いろいろ突っ込みどころの多い自己紹介の中、『迷宮とかw』とお思いでしょうが、れっきとした201X年の日本なんですよ。
事の発端は1999年7月、普段は数が少ないはずのやぎ座流星群が、大変な数で発現したらしいんです。大気圏で燃え尽きずに地上に落ちた数も相当あったらしいです。直撃を受けた民家もあったようで、ノストラダムスのなんちゃらって当時は大騒ぎだったらしいです。
らしい、らしいで申し訳ないですが、当時のことはよく覚えてないんですよ。幼かったためと、その当時あった事件のせいです。だからこれは、後から爺ちゃんから聞いた話なんですよ。
あれだけ大量に降り、中には民家を直撃したにも関わらず、隕石は一個たりとも見つからなかったようなんです。おかしな話ですよね。しばらくテレビの話題を独占してたようです。バラエティ番組とかが懸賞金かけてまで探したらしいんですけどね。当時の大騒ぎってなんか解る気がします。
家の山にも隕石が落ちたようで、当時5歳だった僕は大興奮で、とある日曜日に爺ちゃんと当時まだ生きてた父ちゃんにせがんで探しに行ったようなのです。家の山って実は100町歩くらいあるらしくて、名だたる山林王には遥か遠く及ばないけど、結構な面積なのです。実に30万坪、1キロメートル四方ですね。うん、自分でもピンとこない広さです。
日本の山林はお金のために杉や檜の単一林になってるとこが多いけれど、家の山は曽爺ちゃんが頑なに拒んだため昔ながらのシイ、カシ、クヌギといた広葉樹がけっこう残ってる。『杉じゃあ薪にできねぇし炭だって焼けねぇだろ』ってことだったらしい。それでも炭焼きのために結構減ったらしいけどね。夏休みになるとカブトだクワガタだって取りに行ったもんですよ。曽爺ちゃんGJだ!
家は山は広いけど農地は少ないんだよね。田んぼとか自家消費分しか収穫できないしね、自家保留米って言うんだけど。親戚に配る分くらいはあるよ。
それでも機械って必要なんだよね。トラクタ、田植え機、コンバイン、みんな高いよ。昔は近所の人と共同で機械を購入して管理して、順番に使いまわしてたんだけど、みんな農業やめちゃった。農業やめて出て行ったり、高齢になって施設に入っちゃったりね。寂しいもんだよ。
畑はそれなりの面積持ってるけど傾斜地なんだよね、ほら、山の中だから。いろいろ作ってるけどやっぱり自家消費分だね。
あれ?話が盛大に逸れた?軌道修正しなくちゃ。