15:迷宮突入!の、その前に
そういえば家の山の迷宮だけど、しばらくは報告せずに国には内緒にしておきましょうだってさ。ホールから地下への階段が3つあったんだけど、あれは少なくとも3つの迷宮が融合してるからなんだって。飢餓状態でない迷宮が、しかも飛来第1世代の迷宮が融合するのは珍しいんだってさ。近くに落ちた複数の子迷宮がそれぞれ枯死もせず、競争に負けて取り込まれもせずに偶々融合した姿なんだと。実際にはもっと多くの取り込まれた迷宮があるかもしれなくて、そういう迷宮って魔石の質が格段に良いらしい。『どうせこの星には迷宮を目視以外で発見する術はないのですから、しばらくは黙っていても判りませんわ』と、宇宙エルフさんはかつて見たこともないほど爽やかーな笑顔で、スゲー黒いことをおっしゃいましたよ。
そんなこんなで年末を控えたとある土曜日、迷宮探索初日がやってまいりました。全ての装備品を身に着けて、姿見で見るとビックリだ!予想以上に痛々しい!開封時のワクワク感どこ行った?凄まじいまでのコスプレ感だね、チクショウめ!まぁ、すぐに慣れたけどね。人間の順応力ってすごいよね。
「本日の課題は近接戦闘に慣れることです。」
「あの・・・」
「残念ながら現在、わたしたちには近接戦闘をレクチャーできる人材がおりません。あなたにはしばらく自力で慣れてもらう必要があります。」
「あの~。」
「以前の戦闘を見た限りでは表層の魔物であればあなたならば問題ないと考えております。」
「あの、主任?」
「まずは一戦して問題点を洗い出しましょう。同時にスキルの確認も行います。以上!何か質問は?」
「はいはいはい!質問っす!質問あるっす!」
突入直前、ホールで打ち合わせ中の僕と宇宙エルフA、Cさんだったんだけど・・・
「なんで自分がここにいるっすか?なんで自分も迷宮に入ることになってるんすか?迷宮探索は自分の職務にないっすよ!」
そうなんだ!なんでCさんもここにいるのかなー、って僕も思ってたんだよ、うん。Cさん本人も疑問だったんだ、まいったねこりゃ。
「良い質問ですね。被験者が予想以上にお調子者でおバカなため、わたし一人では心許ないと判断しあなたにもフォローをお願いしたいからです。」
予想以上に酷い答えだ!主に僕に!Cさんも絶句してるよ。あうあうあうって感じだね。でも僕、そこまで酷くないよね?ね?それに僕、被験者呼ばわりだったのか。
「あの・・・Cさん・・・」
「ニーナっす。Cってなんすか?今朝呼び出された時から嫌な予感はしてたっすよ。下働きは辛いっす。」
「Cさん、この度は何と言えばいいのか・・・」
「ニーナっす。自分、軍隊時代に迷宮に潜った経験あるんで、ある程度はできるっす。まあ、何とかするっす。自分に任せるっすよ。」
「ありがとう、ごめんね。そうだ!今日の上がりを分けようよ。それがいいよ。うん、Cさんそうしよう。」
「ニーナっす・・・気持ちはありがたいっすけど、自分ら、服務規程で迷宮探索で報酬を得ることはできないっす。だから迷宮入るのは嫌なんすよ。たぶん、危険手当は付くと思うんで、それで十分っす。」
なんかホント、スンマセン!
今日の宇宙エルフさんたちの格好は軽装だよ。ミラさんことAさんは、厚手のタイツとハイレグレオタードみたいな、防護服のアンダーらしき服にロングブーツ。ニーナさんことCさんは、ツナギにワークブーツ。このあいだ設置した結界のおかげで防護服は必要なくなったんだってさ。
Aさんは飛行生物らしいペターン・ストーン・ムチッ!な体型だけど、Cさんはポン・キュッ・ボン!っぽいよ。ツナギなんでよくわかんないけど、僕のDT力をハイパー化して妄想した結果、推定Cカップ!Cさんだけに!つて。なんか背筋が寒くなりましたで、この話題はここまでにいたしましょう。戦雲に呼ばれちゃう。
そういえば翅。宇宙エルフさんの翅って実体じゃないんだってさ。だからどんな服でも問題なく着られるんだって。なんか透過?してるらしいよ、難しくてよく解んなかったけどね。
「GMtA(武器に魔力を与えよ)。」
宇宙エルフAさんは右腕を上げて掌を僕に向けると、一瞬Aさんの全身が光り輝き、その光が掌に集中したと思ったら僕に向かって飛んできた。うお!眩しっ!剣鉈槍が白く淡い光を帯びたように見えるんだけど。
「今のがエンチャントの魔法よ。あなたの魔槍エスカミリオンは一時的に魔力を帯びるようになったわ。与えた魔力が尽きるまでの間、魔物にダメージが通るようになったの。」
止めて!傷口を抉らないで!
「何よ、ノリノリで命名したのはあなたじゃない。まあそれはさておきこれが魔法よ。付与魔法はあなたのスキル構成にもあるからいずれ使えるようになるはずよ。レベルが上がれば使えるようになるかもしれないし別のトリガーが必要かもしれないわ。あなたは特殊すぎて確実なことは解らないのよ。追々試していきましょう。」
これが魔法か、初めて見たよ。感想は、意外と地味?魔法と言えばもっとこう、黄昏よりも○き存在云々とか、カイ○ード・アル○ード云々とか、そんなものを想像してたんだけどな。やらないよ、できたとしてもやりませんよ!そんなことしてるの見られた日には、僕が灰塵と化しちゃう。黒歴史はもうお腹いっぱいです。
僕の場合はすでにスキルがあるんで別だけど、そうでない人も使えるようになることがあるんだって。まずはレベルアップ時にランダムで覚えることがある。これは完全に運任せだね。それと、深層の魔物が落とす魔石に、スキルが含まれてることが稀にある。スキル結晶といって、それがあれば確実に覚えられるけど、超レアらしいよ。どちらにせよスキルは取り難いし、自分が望むスキルが取れるとは限らない。でも、いずれは地球人の中にもスキルを獲得する人が一定数出てきて、魔石回収が軌道に乗るだろうってさ。
「わたしの魔力ではあまり長くは保てないからあなたには早く覚えてほしいわ。あなたの馬鹿みたいな魔力なら使い減りしないでしょう。」
「やっぱりMPみたいなものがあるんだね。」
「憲兵は無関係ね。」
「・・・」
「・・・」
けんぺい?建蔽?憲兵?どっからその話題が湧いたんだ?イミフなんですけど。
「(おそらく憲兵=ミリタリー・ポリス=Military PoliceでMPじゃないかと思うっす。)」
「(・・・もしかして今のってジョーク・・・とか?)」
「(主任は壊滅的にジョークのセンスが無いんすよ。解りにくくて、しかも面白くないっす。たぶん、ユキさんが槍に名付けた件をからかったのも、主任的にはジョークのつもりだったと思うっす。)」
解り難っ!そんなのありなの?Aさんがそんな残念な人だったなんて!Aさんは平然と何かありましたか?風に装ってるつもりなんだろうけど、顔は真っ赤だし、なんかプルプル震えてるしで全く装えてません。よくよく考えてみると、なんでわざわざ地球の言葉でやるんだろうね。翻訳じゃないよね、これ。もしかして既に日本語話してるとか?理解したCさんはスゴイのか、理解できたことを残念に思わないといけないのか、どっちだよ?
仕事が出来て美人だけど残念とか。いや、待てよ、Aさんはホントに仕事が出来る人なのか?実は、小僧相手なんだからこれくらいの人材で十分だよねー、とかって送り込まれたしょぼい人って可能性はないのか?いやいや、Cさんも言ってたじゃないか、Aさんはエリートさんだって。だからきっと大丈夫。Aさんが残念なのは、そうギャップ!ギャップ萌えってヤツなんだよ、うん。
「さて、他に質問は?」
Aさん、声震えてますよ?まぁ別に無いんじゃないかな?
「そう、無いのね。では行きましょうか。」
よし!参りましょう!