14:準備期間
職業として迷宮に挑むことを決めた翌日、ではさっそく迷宮潜って魔物倒してバリバリ稼ぐぞーなんてわけにはいかないわけで。いや、普通に学校ですから。
宇宙エルフさん曰く、焦ることはないので、学業はきちんと修めましょう。まずは準備を整え、休日や長期休暇を利用して徐々に慣らしていけばよろしい。本格的に始めるのは高校を卒業してからで結構、だそうです。学校を辞めろって言われたらどうしようかと思ったよ、学校好きだからね。僕、在学中に頑張って可愛い彼女つくるんだ。(遠い目)
まずは座学からスタートです。勉強苦手なんだよな。ほら、僕って授業中の集中力が続かない人でしょ?眠くなっちゃうんだよね。実習なら眠くならないんだけどな。
それはさておき、迷宮のこと、魔物のことなど教えてもらって、土日に迷宮に潜って実践する。そこで疑問や問題点を洗い出して、対策を練ってさらに実地で確認するって具合にカリキュラムが組まれたよ。『おバカでもわかる迷宮攻略マニュアル・コンプリート版』とかないのかな。宇宙エルフさん、高校のセンセよりキビシいっす。
並行して装備品も整える。よっしゃ、ここから僕のターン!装備品の話とか燃えるよね!あとは機械とか!機械とか・・・機械とか?
せっかくなんで連邦の先進技術を盛り込んだチート装備、宇宙エルフさんの高濃度魔素防護服のようなパワードスーツでも供与してもらえるのかと思ったら、そうはいかないらしい。あくまでも地球の今の技術力で作られたものに限るそうだよ。健全な技術力の発展を促すため、技術供与は必要最低限に云々と宇宙エルフさんは言ってたけど、与える技術は可能な限り少なくしたいんだろうね。そりゃ連邦にとってはそこがアドバンテージなわけで、簡単に手放すわけにはいかないよね。
コ○バットマガジン見せながら、地球の軍隊の装備はこうで、レプリカなら簡単に手に入るという話をしたら、じゃあそれで行きましょうと簡単に決まってしまった。金属鎧など重いわ煩いわで論外、布や革の服に魔力を付与すれば余程ましな装備になるらしい。確かに、重い鎧を着て一日中動き回るのは勘弁してほしいです。ガチャガチャ煩いのも勘弁してほしいです。エンチャント、さすがにカッケー響きの言葉は性能もいいんですね、うっとりします。
いっそのこと、学校の実習服つまり作業着でよかったような気もするけどね。普段の作業にも使えるし、安いし、そこらのホームセンターで買えるし。でも、まずは格好から入るのは基本だと思います。主に僕のモチベーションが違ってくるからね。ところで女子の実習服姿っていいよね。実習ズボンは薄いから、お尻のあたりとかピッチリしてさ。たまにラインとか解ったりしてさ。何のラインかって?そこは察して。
通販で続々と送られてくる装備品にニヤニヤが止まらないよ。クロ○コさんありがとう、こんな辺鄙なところまでご苦労様です。開封するときのワクワク感、そんな気持ちわかるでしょう?
さて、武器だけど、銃は論外だ。弾1発1発に魔力を込めなきゃ効かなくて非効率な上に、そもそも手に入らない。弓も同様に効率が悪いので却下となった。弓とか普通に使えないよね。ボウガンって手があったな、う~ん、でもやっぱり却下で。ボルトの回収とか面倒くさいや。スリングショットは買ってもいいかも?やっぱ止めとくか。遠距離攻撃が全滅しちゃいましたよ。そもそも武器の類って日本国内で入手出来るのは限られるよね。これで刀剣類もアウトになって、自作か実用品の流用しかなくなったわけだ。鉈とか斧とかだね。
いっそのこと直接攻撃を諦めて魔法で全て片付けようかとも思ったが、それはやはり無謀らしい。というか僕の所有スキルではほぼ無理なんだってさ、あはははは!・・・sigh・・・。頼みにしてた指先火炎放射、あれ実はブレス攻撃なんだって。そういえばスキルにあったや、『ブレス(炎)』ってね。それで、ブレス攻撃も表層や上層でなら無双できそうだけど、先に進むと心許ないから頼りきるのは危険なんだと。表層や上層っていうのは迷宮内の階層分けのことね。入口に近い方から表層・上層・中層・下層・深層なんだってさ、ふ~ん。
結局、鉈にしましたよ。しかも攻撃にバリエーションを付けるために剣鉈にね。爺ちゃんの知り合いの鍛冶屋さんに特別に打ってもらったワンオフ品だよ。刃渡り30センチ、鋒両刃造、刃厚8ミリ、オール青紙鋼造り。カッケーよ!心金?入ってないよ。なんでわざわざ日本刀と同じ造りにしなきゃいけないのさ。日本刀信者の人ですか?信者さんはお引き取りやがりくださいw日本刀が最強とかww有り得ないからwww
ホームセンターで買ってきた長柄の鎌鉈の柄だけを流用して取り付けて完成!突いてよし!払ってよし!叩き切ってよし!殴ってよし!僕によし!ん~よし!!せっかくなので名前を付けてみよう。エスカミリオン!お前は今日から僕の相棒『魔槍エスカミリオン』だ!フハハハハハハハハ!
ハイテンションの一夜が開けて、羞恥と後悔で部屋中転げまわったのは言うまでもない。僕の黒歴史がまた1ページorz
そんなある朝、僕がちょっとムフフだったように思える夢から目覚めると、母屋の屋根にソーラーパネルが乗っているのに気付いた。昨日はなかったよね。
僕んちの周りを大量の機械トンボが飛び回り、屋根の棟にも何機か止まっている。家族3人でその光景を庭からほけーっと眺めているんだけどさ。宇宙エルフさんのギンヤンマと同じようなものだと思うけど、全体的に太く短く塗装はメタリックレッド。工作班の作業用ドラゴンフライなんだってさ。赤トンボだよ。全体的に赤いからナツアカネだね。
「主任、設置完了したっす!いつでも起動できるっす!」
「ご苦労様。では早速起動してちょうだい。」
「了解、システム起動っす」
宇宙エルフさん@防護服のところへ、別の宇宙エルフさん@防護服が報告に来ましたよ。宇宙エルフさんは主任さんだったのか、主任ってどのくらい偉いの?
「何あれ?」
「あれは魔素濃度調節結界の発生装置っす。この地域で不自然にならないように、太陽光発電パネルに偽装してみたっす。もちろん発電もできるっすよ。」
「あれで半径2キロくらいはカバーできるはずよ。わたしも活動しやすくなるわね。」
二人の宇宙エルフさんは、防護服のヘルメットを跳ね上げて、お顔をお晒しあそばされましたよ。ミラさんじゃない方の宇宙エルフさんも女性のようです。ミラさんより丸顔で、かわいい系の宇宙エルフさんです。この前テレビで会見してたBさんとも違うようなので、宇宙エルフCさんだね。ということは宇宙エルフさんは宇宙エルフAさんだな、うん。
「あ!自分ニーナっす。よろしくお願いするっす。」
Cさんはニーナさんだそうです。最初から短い名前で嬉しいっす。口調うつったっす。
「しー・・・ニーナさんもエージェントさんなんですか?」
「いやいや、とんでもないっす!エージェントを名乗れるのは、主任みたいな本庁のエリートさんだけっすよ。自分、外郭団体の人間なんで、まあ下働きみたいなもんっす。」
「下働きとは違うわね。わたしたちは互いの専門分野で力を出し合いながらチームを組んで事に当たっているのよ。この娘の専門は魔素道具の維持管理ね。まだ若いのに腕が立つの。助かっているわ。」
「いやいやいやいや!自分なんてまだまだっすよ。主任こそ長いこと、ずっと第一線で活躍しておられて尊敬するっす。主任のチームに呼んでもらえて光栄っすよ。」
ん?んんんん??『まだ若いのに』?『長いことずっと』?かつて感じた疑惑が再浮上しましたよ。日本で考えると大卒で22歳、そこからキャリアがあるとするとAさんってアラサー?ニュアンス的にアラフォーなんじゃないか?母ちゃん年代じゃん、アラフォーって。宇宙エルフさんって外見で年齢わかんないからな、二人とも同じくらいの年齢にしか見えないし。宇宙エルフさん恐るべし。などと考えておりましたら、突如巨大なプレッシャーが!
「ところで?さっきから何を考えているのかしら?」
ヤバい!これはヤバい!もはや実体化しそうなほど濃密な殺気に押し潰されそうです。余計な事を言ってしまったと、Cさんは真っ青になって震えてるし。宇宙エルフAさんの背後に巨大な蛇の幻影(スタ○ド)が見えるんですけど!僕の背後にはきっと蛙がいますよね。蛇に睨まれた蛙とはこういうことなのか?変な汗が止まりません。
「そ↑」
やべ!声裏返った!
「そ、そろそろ学校行かないといけないなぁと・・・」
「そう。行ってらっしゃい、気を付けてね。」
とっても素敵な爬虫類の笑顔で送り出されましたよ。目が笑ってないし!Cさんが、行かないでと目で訴えてますけど、無理です!僕は我が身が可愛いのです!
宇宙エルフCさんという尊い犠牲を払いながら準備は完了し、いよいよ迷宮に挑むのです。
学校は遅刻したっす。