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卒業式

 三月一日は卒業式。


 高校生活が終わる。


 これからの行動はパートや、バイトでいいから仕事を探すこと。

 特に選ばなければ見つけられると思うし、あまり人と関わらない作業ができればいいと思う。

 ただ悩むのは佐伯さんとの結婚の後で見つけた方が書類が面倒でなくていいかなとも思う。

 思う。思う。そんなことを考えているうちに卒業式が終わる。

 内容なんか覚えてない。

 くるりと周囲を見渡せば、つまらなそうにしている人や、別れを惜しんだり、写真を撮ったり、どこかに繰り出そうかと喋る集団や最後の校舎で告白をしようというこそこそした動きをみせる思いつめた人たち。

 私は、つまらなさそうに周囲を眺めてる人に入る。

 できるだけカメラを構えている人たちの邪魔にならないように帰路につく。

 レニーちゃんもいたけれど、元々学校行事にあまり参加していなかったのもあってはしゃいでいるのを邪魔する気もない。

 つまらなそうにしていれば水を差してしまうだろうから。


 少し、離れた位置で振り返って思う。


 私はうまく『家族』を築けるのだろうか?


 卒業にはしゃぐ子供を見守る保護者の姿。時に生徒よりハンカチを濡らしている。


 私はあそこに混ざれない。家族? 兄は仕事だ。


「成瀬さん」

 声をかけてきたのは加藤さん、だった。

 五歩ぐらい後ろに影の薄い男の子を連れている。ストーカー?

「卒業、おめでとう。一緒に写真、撮らない?」

 ゆるくあまれたみつあみお下げがゆらりと揺れている。


「写真、苦手だから」


 せっかく声をかけてくれたのに無碍にしているのはわかっているけれど、好きじゃ、ない。

 ひとつ、思い当たってちょっと笑う。

「ごめんなさい。せっかく声をかけてくれたのに」

「ううん。いいの。そういえばアルバムも写真少なかったけど、避けてた?」

 問われて、頷く。

 できるだけ写りたくない。自分の記録なんか残したいとは思わない。

「そう。逸美と同じタイプね。でも、写真は形を写すだけなんだから魂は獲られないわよ?」

 後ろの男の子が身じろぐ。

 なんだかかなり古い迷信を聞いた気がする。そんなことを信じてるんだ。

「卒業後はどうするのかしら? 詮索は、嫌い?」

 やわらかく控えめに聞いてくる。クラスメイトの義理なのか、客商売の家に生まれた気遣いなのか。

「時々顔は合わせるかも。お店のお手伝いをする予定はあまりないけど、文雄さんしだいになるし」

 こてりと加藤さんが首を傾げる。表情はどこか記憶を掠めるがはっきりしないといった感じ。

「佐伯文雄さん」

 そっとフルネームを囁いてみる。

「真金の二代目デブ」

 ぽつりと答えを言ったのは黙って後ろに立っていた逸見君だった。事実だけど容赦ないな。

「身体管理が苦手なだけで、そんな差別用語は良くないわ。逸美、逸美だって根暗ヒキオタニートなんて陰口叩かれてたらイヤでしょう?」

 加藤さんも容赦なかった。そして逸見君の感想を否定はしない。

 加藤さんは逸見君を黙らせるとこっちに体を向ける。やわらかな笑顔をにこりと浮かべる。少し、コワイ。

「それで、どういう展開なのかしら? ココではなんだし、公園にでも行きましょうか?」

 するりと腕をとられる。

「え?」

 こちらを見て、にっこり笑う加藤さん。

「卒業してからでも、お話ができる機会ができて嬉しいわ。お友達、新しく増やすのってあまり得意じゃないから」


「え?」


 背後で逸見君が小さく声を上げる。

「逸美は千秋君と菊花達に先に帰ったって伝えといて頂戴ね」

「え? ……主賓……」

「じゃあ、後で行くわ」

 さらりとそう告げてにっこり笑いかけられる。

 コワイ。怖いから!

「で、も」

 足掻く逸見君。

「愛子に興味に負けたって言っておいてくれればいいわ」

 しょぼんとする逸見君。いや、そこで負けないで!





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