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級友

「成瀬さん」

 廊下で声をかけてきたのはクラスの女子だった。

 提出物も問題は無いハズだし、なんだろうと思う。

 彼女はにこりと笑う。


 思い出した。


「なにか?」

 確か加藤さん。

「髪型、変えたのかしらと思って。少し雰囲気が変わった気がしたものだから」

 口元に手を添えて微笑する加藤さん(仮)。

 えっと、それだけ?

 どうしていいのか、困惑する。

 えっと、雑談を振ってくれた?

 やだ。どう返せばいいの?


「それが?」


 あ。

 言葉が足りてない。絶対的に足りてない。

 笑って声をかけてくれたのに、表情曇らせちゃった?

 やだ。どうしよう。



「あ。紬先輩」

「あら。宗くん」

 少しだけ思案するようにちらりちらりと加藤さん(仮)は私やレニーちゃんを見比べる。


 そしてにこりと笑う。


「付き合ってるのかしら?」

 レニーちゃんが不思議そうな表情で笑った。

「どうして、そう思うんですか?」


 宗くん?


 誰?


 レニーちゃんの本名?


「時々一緒にいるの見かけたからかしら?」


 からりと何かがおかしい。

 そう。きっとダメだ。


「そうですか。紬先輩、少し、待ってくださいね」

「ええ。どうしたの?」


 レニーちゃんに迷惑になる?

 こまらせちゃう?

 学校で声かけたりしちゃダメだった?


「リッちゃん。ほら、髪はね、時々はちゃんとプロの人に手を入れてもらった方がいいんだよ」

 少し得意気な表情のレニーちゃん。きょとりと首を傾げる加藤さん(仮)。

「似合ってると思うわ」

 やんわりと笑顔をみせられる。

「あ。ありがとう」


 シンッと沈黙。


 会話が続かない。


 だって何を話していいかわからない。


「リッちゃん」

 ちょっと苦笑混じりのレニーちゃんの声。


「リッちゃん」

 さっきより近くで聞こえる。……なんで?


「ぇい」


 背筋を下から撫でられた。


「ッふにゅg……………きゅ」


 妙な声が上がりそうになって、慌てて口元抑えてしゃがみこんでしまう。




「ふぅ」




 レニーちゃんの『良い仕事した』とばかりに満足げな吐息。

「まぁ、こういうおつきあいですか?」

 くるりと方向を変える足の動き。

「楽しそうね。ところで、成瀬さんは大丈夫なのかしら? 怒ってない?」

 怒る?

 何が?

 仕返しはいつかするけど。

「リッちゃんは思いのほか、怒りませんよ?」

 なんでそんな解説なの?

「そうですね。一応、形ばかり怒るとしたらですねぇ」

「うん」


 嫌な予感がする。


 じりっと立ち上がってレニーちゃんを睨む。

 にこにことレニーちゃんが遠ざかった分を近づいて来る。


 妙な緊迫感。


 じっと胸元で拳を握って見守る加藤さん(仮)。


 ポンっとレニーちゃんに背中を叩かれる。

 それはとても軽い。軽いんだけど、問題があって。

「レニーちゃんのばかぁ。後で覚えてろー」


 もう一度、しゃがみこんで声は必死に抑えてにっこり笑顔のレニーちゃんを睨む。殴りたい。

「紬先輩、すみませんが手伝ってあげてくれませんか? リッちゃん、最初っから片っぽ外れてたからね? ちゃんとつけておかないと重力に負けるよ。あと、しゃがみ方ではパンツ見えるよ?」


 イベント時に言ったことのあるセリフが返される。


 服の上からのブラホックはずし。

 やり方のポイントを教えたのは私だけど。

 レニーちゃんのほうが上手で悔しい。


「成瀬さん、直しに行こうか?」

 加藤さん(仮)がくすくす笑う。

 レニーちゃんは軽く手を振って「教室に戻ります」と去って行った。逃げやがった!


「一人で、大丈夫です」

「そうかもしれないけれど、時間の短縮ね」

「でも」

「あのね、お話してみたいのもあったのよ? 前、落としちゃってたペン。見つけて、置いててくれたよね?」

 前?

 ペン?

「中学の時かな」

 ぽんぽんとトイレへと促される。

「逸美がね、見てたらしいんだ」

 ふっと過るのはなんの特徴もないなシンプルなボールペン。でも色とりどりの紐でストラップが作ってあった。

「あれね、商店街の年下の子達が合格祈願で作ってくれたお守りだったから。でも、あの時、誰が拾ってくれたのか知らなくて。すごく嬉しかったの。遅くなったけど、ありがとう」

 たまたま校庭の隅で拾ったボールペン。

 クラスメートが使っていた物な気がして、拾ってその机に置いておいた。

 ただそれだけ。

 それでも、それだけでこのきれいな笑顔を向けてもらえたのは嬉しい。

「なんだか、成瀬さんって声かけにくい雰囲気だからなかなかお礼がいえなくて。言いそびれちゃうとなかなか言い出せなくて」

 加藤さん(仮)

 

「宗君といる時は少し空気がやわらかいから、お礼、言えるかなって思ったの」


 え?



「成瀬さんって、興味ありません。近づかないでください。って空気が強いから」


 え?


 そ、そんなつもり、ない。


「もっと早く、声かけてみたらよかったのかもね。はい。出来上がり」

「……ありがとう」

「教室、戻りましょうか? 宗君にもあとでお礼言っておかないと。おかげで成瀬さんにちゃんと伝えられたものね」

 う。

 仕返しはしちゃダメか?

 レニーちゃんは、

「ワガママで、けっこうダメっ子だけど、いい子だから」

 お菓子あげるよって言ったらついてっちゃうようなダメな子だけど、そこもかわいいと思うし。


 レニーちゃんと『宗くん』はキャラコンセプトが違うのかも知れない。

「ダメっ子なんだぁ」

 楽しそうな加藤さん(仮)。

「好き嫌いもけっこう多いの」

「そうなんだ。でも、そう言うところもいいなって思ってるんだよね?」

 加藤さん(仮)が悪戯っぽく笑う。

「かわいいいもーとみたいな感じかなぁ」

「!? いもーと?」

「あ、紬ー。おかえりー」

 教室のそばで加藤さん(仮)がお友達に呼ばれる。



 加藤さん(仮)が何か言いかけていたけれど、私はまっすぐ自分の席に戻る。


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