買物
「レニーちゃん、お洋服買いに行くの付き合って」
見かけたレニーちゃんの袖を掴んで人気のないところへと引きずり込む。
そして頼んだのはさっきの言葉。
「リッちゃん?」
周囲をきょときょとと見渡し、人目がないことを確認してから囁く。
「佐伯さんの親御さんとお食事会なの。兄さんも一緒だけど、ね。その、あんまりそう言うのに向いた服は持ってないし、制服ってわけにもいかないでしょ?」
「制服はまずいと思うよ?」
だよね。
佐伯さんがロリ変態って周りに言われるのは少しかわいそうだよね。
「だよね、あがっちゃう。困るどうしよう」
レニーちゃんが生温い笑顔で肩を叩く。
「リッちゃん」
「うん」
「イベント会場だと思って、少しぐらいの失敗は愛嬌だと思って行けば大丈夫だと思うよ?」
「ほんと?」
「リッちゃん、新しい人といい関係を作りたいと思ってるんだよね?」
そう。そうなの!
学校ではうまくできないけど、イベント会場とかでは少しマシに動けるの。
息ができるの。
うまく伝えるのは得意じゃないけど、頑張れるんだよね。
「学校嫌い?」
「え?」
急な言葉に驚いて、レニーちゃんを見る。
壁に軽くもたれて小さく手遊び。
ほんのり外しつつこちらを見ているのがわかる視線。
私はゆっくり首を横に振る。
「嫌いじゃないよ? レニーちゃんだって嫌いじゃないよね?」
「リッちゃん」
「親しい友達とかはいないけど、先生たちだってイイ人が多いし、イベントってなれば盛り上がるし、見てるのは好き、かな」
ただ、うまく混じっていくことができないだけ。
それでも、聞こえてくる話に耳を傾けてぼんやり考えることは好きだし、楽しい。
中学の時は和泉がいた。和泉とだけ過してたような気がする。
好きになる余地のないような出会いをして、別れ難い大好きな存在になった。
言い争っても、また傍によって、大切な和泉。
高校には和泉がいない。
レニーちゃんと普通にしゃべれるのはイベント会場であった子だから。
その時、レニーちゃんはすっごくフレンドリーだったから。
次に会った時には対応は違ったけど、覚えていてくれて、『今日のキャラこんせぷとっ♪』(当時中一だったと思われる)とか言ってるレニーちゃんはかわいくてそういうものなんだと思った。
「レニーちゃんはレニーちゃんだよね」
「なにそれっ!? 内容次第で買物付き合わないよっ」
そんなことを言っていても、ちゃんと、ショッピングモールでの買物に付き合ってくれた。
好みの服を選ぶと、普通に首を傾げられる。
「もう少し、華やかでもいいんじゃない?」
私の好みは深みのある濃い目の色合い。柄物は苦手で無地が好き。アシンメトリーやゆるいラインが好み。露出は少なめ。
ジーンズワンピースロングとかは好きかなぁ。でもお食事会用じゃないよね。
結局黒のワンピース。黒のパンプス。ちょっとかわいい系のヘアアクセ。
レニーちゃんの視線が痛い。
「きっとコレ冠婚葬祭に使えるよね!」
「食事会用に相応しいか、そこが問題だと思う」
「だってー。このセットのボレロが可愛かったんだよぅ」
レニーちゃんは静かに頷きつつ、ふらっとショップを回る。気がつくと荷物にひらっとした感じのリボンバレッタや、シュークリップが足されていた。
そ、そこまでダメだししなくてもいいじゃない?
「バッグは?」
「え? い、いるかな?」
「あった方がいいと思うけど、コス用の小物だけど、そうは見えない奴だから良かったら使う?」
「う、うん。貸して。流石に予算ない」
じっと見られる。
怪訝な視線に疑問が浮かぶ。
どうしたんだろう?
「食事会、今日なの。とか言わないよね?」
レニーちゃん、私をなんだと思ってるの!?
「大丈夫。明日だよ!」
ポン、っと肩を叩かれた。
「なに?」
「準備に時間、なさ過ぎ」
え?
「髪とか、メイクとか、どうするの? それともそこまで決め込まずに行って子供っぽさアピール? そりゃ、決め込みすぎもダメだとは思うけど、ある程度、ねぇ?」
えー。
「時間、ない?」
深く頷かれる。
「できれば美容室で髪はカットしとくべきだと思う」
「なんだか、めんどくさいね」
「リッちゃん。人事のように言わないの!」