愛人
レニーちゃんとぶらりと中央公園のそばを歩く。
「ありがと。暗くなっちゃったら帰るの危ないかなぁ?」
「リッちゃん、僕は大丈夫だから、ちゃんと送られてね?」
男の子アピールをするレニーちゃん。かわいいなぁと思ってしまう。
レニーちゃんは東うろなのマンションに住んでいて、私の家は南うろなの方にあるアパート。途中まで送ってもらうという妥協案。
「しかたないなぁ。あのね、まだ和泉にね。結婚するって言えてないんだ」
和泉とは小学校時代からの親友。高校は違うけれど、ちゃんと今でも仲がいい。
「ん〜と、確か、リッちゃんの本妻さんだよね。他所の学校で愛人さんと恋人と秘書をゲットして青春を謳歌中の」
よく覚えててくれてるなと思う。最後のイベントの時にそんな話をしたっけと思う。彼女は私と違って友達を作るのが上手だ。すごいなと思える。
「レニーちゃんは愛人とかじゃなくて妹だから!」
言い訳をしながら抱きつくと、苦笑される。
「せめて弟に変更して」
「無理」
もうっと不貞腐れつつもレニーちゃんは話を聞いてくれる。
秘書を名乗る和泉の交友関係の女子に密告メールをもらったのはちょっと新鮮だった。
『貴女の伴侶は浮気をしてます』
そんな内容のメール。
違う学校に行っても、和泉とはそれなりに時間をみつけて遊んでいた。
確かに中学の頃からはぐんっと減ってしまったけれど。
そんな彼女にまだ大事な話をする踏ん切りがつかないのだ。
レニーちゃんも好きだけど、やっぱり一番は和泉だからかもしれない。
「あんまり遅くならない方がいいと思うよ?」
「うん。わかってるんだけどね」
言いにくいんだよね。
ひゅっと空気を切る風の音が耳に痛い。
「クリスマス会までに告げて気まずくなるのもなぁって思っちゃうんだ」
「クリスマス、未来の旦那とは?」
「え? 別行動だよ?」
毎年、和泉と過すから。
そこを変えるつもりはなくて。
よくわからないと言う表情のレニーちゃん。
「佐伯さん。覚えてる?」
「そりゃね。あの時はイベント主催のメイン事務やってたサークルのリーダー格のオジさんだよね」
少し考えてから、この人物であってたはずとばかりに言う。
それで合ってると頷いておく。
「その人がね、お嫁に来ないかって」
「……」
沈黙するレニーちゃんはどこか不満そうに見える。
「リッちゃん、佐伯さんってシーナさんにゾッコンじゃなかった?」
そう、一年前はそうだった。
シーナねぇさんはおっとりした優しい人。それでも何か、一線のある人だった。
佐伯さんの想いに気がついていたのかもしれないけれど、綺麗にかわしていた。
「夏ちょっと前にね、完全に振られちゃったんだよねー。かわいそーだから慰めてたら、そんな話になったんだよね。まぁいいひとだし、好きだし、いっかなーって」
進路考えるの嫌だったのもあるし、お互いに愛し合ってるわけじゃないことを知っている。好意の上にある進路提案の一つだった。
「佐伯さんも年齢が気になるらしいしー」
「いくつ、だっけ?」
「三十五歳だよ」
◇
そんな話をしたあとレニーちゃんと別れてから、ばったりと和泉と会った。ああ、言ってしまおう。
「あのね、和泉」
「うん?」
「春にね、結婚するの」
枝に残る葉がザザァっと大きな音を立てて風の流れを知らせる。
マフラーの下で動く口。
「あたしはりとが好き。友達じゃないんだよ」
ふわりと彼女の重みを感じる。
少し強引に合わせられる唇。
カチリと歯がかち合って二人して小さく笑う。
「私も和泉が一番好き」
「だから!」
「全部の意味の好きの中で和泉が一番好きだよ」
◇
「って、告白されたの」
「リッちゃん、結婚取りやめるの?」
「やめないよ?」
それはそれコレはこれだよね?
「ぁあ、どうしよう。幸せすぎてこわいの」