告白
「レニーちゃん」
見かけて嬉しくて声をかけたレニーちゃんのそばに赤みがかった髪の男子生徒がいた。
慌ててしまう。
不思議そうにそれでも彼が一歩後ろに引く。
「リッちゃん、どうしたの?」
彼の影に隠れる形になったから、そこからひょこりとレニーちゃんが顔を出す。
言葉が紡げなくてわたわたする。
彼のほんのり緑がかった視線が不思議そうにこっちを見ている。
きっと怪しまれてる。イヤだ。絶対、真っ赤になってる。
「んじゃ、そういっちゃん、俺行くわー」
彼がレニーちゃんにそう声をかけて手を振る。
「ええ。ありがとうございます。鎮先輩」
気恥ずかしくなりながら彼がむこうに消えるのを見守る。一拍おいてゆっくりとレニーちゃんが口を開く。
「リッちゃん」
「レニーちゃん、恥ずかしかったよぅ」
ばふりとその胸に飛び込んでしまう。胸元に頭をグリグリとして恥ずかしさを散らす
「どうしたの?」
覗き込まれてちょっと不思議な気分になる。
不思議そうに首を傾げられて、はたりと気がつく。
「う、うん。見かけたから、声かけただけだったの。あー。えっと、ごめん?」
どうしよう。嫌われたらどうしよう。
「そっか。んじゃ、一緒にお昼食べる? リッちゃん三年生だよね、受験とか大変?」
にこっと笑って手に持ったお弁当らしい包みを示す。ちょうど、そこは人目を避けれるポイントで、いい場所だった。
「あ!」
レニーちゃんがまた不思議そうに首を傾げる。
「さっきの人、追い払っちゃった?」
一緒にお昼の予定だったんじゃあ?
どうしよう……。
「ん〜、大丈夫だと思うよ? カラスくんだしね」
え?
あの白い奴?
でも、それなら。
「ごめん。デートの邪魔だった?」
「ないない。僕は他に今婚約者候補と微妙な感じなので不用意な要素は不要ですとも」
「そっかー。婚約者候補って好きになれそうな感じ?」
「食いつくね」
「そりゃもうしっかり。レニーちゃんに他に相手がいるんなら気兼ねもないしねー。レニーちゃんに異性を感じないからさー」
「リッちゃん、結構ひどいこと言ってる自覚ある?」
ちょっぴり不満そうなレニーちゃん。
ちょっと可愛いかもしれないと思う。でも、男の子の格好をしてるだけでやっぱりレニーちゃんだと思うと安心してからかえる。
「褒めてるんだと思うわね」
「はいはい。そーいうことにしときますー。座るんなら腰冷やさないようにね。変に狂って無ければ、そろそろでしょ? カイロとか、準備とか、痛み止めとか大丈夫?」
普段通りの気遣いも、男子の制服で言われた瞬間、何を言われてるのかよくわからないと言いたくなった。
気恥ずかしい混乱の中、前いつだったかを考える。
……。
あ。
「そろそろ予備を持つようにするわ」
「また、忘れてたんだ。ダメだよ?」
笑って注意される。
「だって……」
「困るのリッちゃんでしょ?」
うん。と頷くしかない。
クラスに親しい人はいないし。
困る。
「あのね、レニーちゃん」
「うん?」
「話したいことがね、たくさんあるの」
「うん」
「迷惑を」「かけてくれていいよ?」
言葉が遮られる。
驚いて、レニーちゃんを見るとマイペースにお弁当を食べている。気をつけているらしいけど、時々、単品食い。知ってる。それで白ご飯たまに食べれなくなるんだよね?
「リッちゃんがそういうことを気にするのはキャラとしては違和感あるし」
キャラとして違和感かぁ。どんな印象だと思わなくもない。
「レニーちゃんはぁ?」
そっちだってちょっと違うじゃない?
「学校ではレニーちゃんであろうなんてしてないし。呼ばれるのは、もういいけどさ。リッちゃんだしね」
確かに学校ではレニーちゃんリッちゃんというキャラとは本来無縁なはずなのに私のわがままかなとも思う。
「いいのかな?」
「いいんじゃない?」
イイか。
覚悟を決める。
「あのね。卒業したら、お嫁さんになるんだ」
レニーちゃんがお弁当を落とした。
幸いな事にほぼカラだったからあまり散ることはなかった。
どうやらびっくりさせたようだった。
「誰かに言っちゃダメだよ」
レニーちゃんは無言で頷く。
「それでね、いろいろ聞いて欲しいんだ。こんな相談他にできないし」
もう一度、頷いてくれた。
「こんな話、学校ではしたくないし」
誰が聞いているかなんてわからないし、誰かに何か言われるのは嫌だ。
あと少しで卒業だし、そういう意味では静かに過ごしたい。
「それは、そうだろうねぇ。リッちゃん」
「うん?」
「おめでとう。でいいのかな?」
うーん。
きっとそうなんだとは思うかなぁ。