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お見舞い

「レニーちゃん、聞いてくれる?」

 こてりと首を傾げつつ、抹茶パフェにスプーンを差し込むレニーちゃん。

「うん。続けて?」

 もうじき春休みも終わってしまう。そんな日のモールのカフェ。ナポレオンパイと抹茶パフェとしばし悩んで抹茶パフェをドリンク代わりにナポレオンパイを並べているレニーちゃん。

 私の前にはカフェモカと抹茶わらびもち。

 何を今更と言い出しそうな口調でレニーちゃんが促す。

「実はさー、兄さんが入院したんだよねー」

「は?」

 レニーちゃんの動きが不自然に止まる。あ。驚いたー?

「んーっと単独事故みたいなもんなんだけどさ」

「大丈夫なの?」

 少し窺うような眼差し。人が痛いの嫌いだよね。レニーちゃん。

「うん。ちょっと両足火傷っただけだから。ホント、バカだよねー」

 心配はもちろんしたんだけど、本人の落ち着きっぷりに大事(おおごと)な気はしなかった。呆然としてただけかもしれないけど。

「役所で入籍の書類出して、ちょっと家に顔出したらそれってねぇ。驚くよねー」

「それって、どんな状況だったのさ」

 呆れた口調。

 うん。わかる心配して損した気分になるよね。

「バケツに足突っ込んで冷やしてる状況」

 あれはちょっと、ほんとに驚いた。玄関を開けたら携帯操作して電話連絡中の兄さんが家にいて、軽く手を上げて挨拶されたから。

 足元のバケツに二度驚いた。

「お風呂のお湯加熱しすぎて慌てて止めたらお湯に落ちたんだって」

 ああ、呆れたんだよね。

 ひたすら冷やしているんだろうけど、それであってるのかがわからなくて困って動けない感じ。

「信じられる? もう少し冷やして落ち着いたら病院に行くつもりだ。ってヘーゼンと言ったの。タクシー呼んだ私は間違ってないわよね?」

 それなのに落ち着いてる兄さんが理解できないけれど、慌ててはいけないと思って落ち着けるようになった。

「歩けないくらいの火傷って、救急車じゃないの? リッちゃん」

「うん。ちょっと思ったし提案したんだけどさ、救急車は命の危機にあるような人が使う時に自力で動ける自分が使っていて間に合わなかったとか嫌だしって文句つけられたから、譲歩の結果がタクシーだったんだ」

 ホント馬鹿だよねー。

「病院では怒られたっぽい」

「そう、だろうね」

「もしかしたら足にケロイドが残るかもって、言われてた」

 まぁ、実はそれより頼まれごともあって忙しくなっちゃったんだよねー。

「心配?」

「ま、それなりに。白衣の天使に迷惑かけてたらって思うとねぇ」

「そっちの心配!?」

 疑問符を感じたから頷いておく。

 あ、でもね、

「梅原先生の、ううん、今は清水先生か、の赤ちゃんたち見たよー。ちっちゃくてねー可愛かったー。梅原先生もちっちゃくてかわいらしいけど、ちびちゃんたちってどっちに似るのかなって思うとドキドキだよね。入院中の兄さんとこよりそっち覗きに行ってる時間のほうが長かったかもだよぅ」

 赤ちゃんってちっちゃくてほんとに可愛かったよー。

「センセに、どうしてるんだって聞かれたから、『四月一日から人妻です』って答えたら驚いてたよ?」

「驚くと思う」

「そう? でも家族って感じがいいなぁって思ったなー」

 ちゃんと家族、できるといいんだけどなぁ。

「リッちゃんはリッちゃんで無理しちゃダメだよ?」

「んー。わかってるー。実はさ、兄さんの火傷事件がらみでちょっといくつか面白い体験したからそれを聞いてほしいなって思ったの」

 聞いてるよねって感じで見つめられる。

 いや、そうなんだけどね。

「あのね、入籍関連のネタが一番の話題かなって三月中は思ってたの」

 うんうん、と付き合いよく頷いてくれるレニーちゃん。

「でも、昼過ぎにはね、火傷事件が一番大きいネタになってね、入院になった時点でね、会う約束があるから行けなくなった旨を伝えてほしいって頼まれてね、相手のいる場所が拘置所ってすごいネタだと思うの」

「リッちゃん、場所変えよう。話、ちゃんと聞くから、プライバシーのある場所に行こう。ね」

「流石に兄さんのトラブル体質には驚嘆するしかないと思うの」

「リッちゃん」

 レニーちゃんの眼差しが真剣さを帯びて私を見つめる。

「リッちゃんもイベント体質だと思う」

 え?

 なんで?

「私の人生なんて特に劇的な展開なコトとかないよ?」

「ないん、だ」

 うん。私の人生なんてありきたりだと思う。

 離婚した両親が子供に興味を持たないなんてよくある話しだし、新しい家族が大事なのは普通だと思う。私の結婚が恋愛に寄ったものでなくてもお見合いだとか条件を確認して結婚する人間なんか珍しくもない。

「うん、私的に普通」

「そっか」

「うん。場所移したら話聞いてくれる?」

 レニーちゃんはこくりと頷くとケーキにフォークを差し込む。

 食べるのを邪魔する気はない。

「レニーちゃん」

「何があったか、聞くの楽しみにしてるから」


 わらびもちが美味しい。抹茶のほろ苦さと甘みが嬉しい。



 食べ終わってから場所を移すことにした。


 四月六日。今日は雨。話はまだ終わらない。

『うろな2代目業務日誌』から

清水先生夫妻出産話ちらりとお借りしました。

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