再会
この町は賑やかだと思う。
出会いがある町だという。
ただ出会いを求めてるわけでもない人間もいる。
成瀬りと。
兄の利人とうろなに住んでいる。
こないだまで通ってたのはうろな高校。三月で卒業した。
秋十一月も末にうちの学校にイベントでの友達がいたのを知った。
そして、女の子だと思っていた彼女は彼だった。
でも、イイよね?
私は彼女に話したいことがたくさんあったから。
『えっ? リッちゃん?』
電話から聞こえてきた声に嬉しくなる。
「やほー。『シアン』ちゃーん」
ちょっと沈黙。
『ぇええ!? どーいう、あ、ダメだぅ。メールするから。じゃ!』
隙間とはいえ、ショーの最中に通話はしたがらないのは理解している。
メールにSNSのアドレスを載せて送信。
イベントが終わった次の日に会う約束を取り付けた。
イベント会場では本名はもとより、フリーメール以外のアドレスは一切明かさない。そんなミステリアスな子だった。というか、もう。女の子だと信じてた。
その影響であっちは私の大まかな生理周期まで知っている。
それなのに、同じ学校の後輩で男の子だった。
イベント会場でのガールズトーク(いつも笑って聞いてるのがメイン)、そっと差し出されるカイロやウェットティッシュ、メイク落としに制汗スプレー。お嫁さんに欲しかった。
電話番号ゲットまでは大変だったな。
十二月一日 日曜日
朝のファミレスで待合せ。手を振ると笑って近づいてくる。
「リッちゃん。久しぶりだね」
ノンメイク衣装なしふつーの男の子な普段着。そんな彼はあくまで彼だった。
前に会った時から随分と背も伸びてる気がする。
ちっさくて元気で生意気なプレイが売りだったのにガッカリだ。
露骨にしょげた私にレニーちゃんは苦笑する。
「ストロベリーワッフルとドリンクバー頼んであるから」
そう告げるとにこりと笑ってくれる。レニーちゃんはけっこうイチゴとクリームが好きだ。
「リッちゃんはなに頼んだの? 朝和膳かホットケーキセット?」
「朝和膳ー」
「じゃ、紅茶のホットでいい?」
「任せたー」
いつもの会話。手荷物を置いた後ドリンクをとりに行ってくれる。コレもいつもどおり。手際良く置かれるドリンク。間をおかずに注文していたメニューもやってくる。
置いてもらったお皿を交換。
すごく気楽い。
でも、女の子じゃなくて、男の子なんだなーと思う。
二人で向かい合って座って、改めた空気がこそばゆくて困る。かすかな緊張で会話をうまくつなげにくい。
「お砂糖二本とガムシロップ一つね。少しだけオレンジジュース混ぜてあるから熱すぎないと思うよ?」
そういう私には出来ない気配りが嫁に欲しいと言いたくなる瞬間だと思う。
「会えて嬉しいよ」
ちょっと唐突だろう言葉。
それに返るのはどっちつかずの微妙な表情。
今の状態だと、レニーちゃんはレニーちゃんと言いがたく、私もリッちゃんとは言い難い。
同じ学校の先輩と後輩だ。
それでも、やっぱり、
「だって私にとってレニーちゃんは親友だから。会えなくて、サイトも更新してないみたいだったし、寂しかったよ」
寂しかったんだ。
「ぁ。……ごめんね。リッちゃん」
しょぼんとさせてしまって慌てる。
「イベント会場と自分の時間をきっちり分けてるんだよね。それはわかるんだ。私だって内緒だもん」
必要がなければ学校で声を出さずに一週間でも普通に過せるよ!
おしゃべりになるのはイベント会場でぐらいだよ!
それにそれに、やっぱりね、レニーちゃんはやっぱりレニーちゃんだと思う。
よし!
「気にすんのやめた」
「へ?」
「レニーちゃんはレニーちゃんだもん。男の子だなんて思うのが無理だわ。違和感しかないわ。ワガママな猫ちゃんだよね。恋のターゲットはカラスを名乗るニワトリ?」
それとも捕食しちゃうのかな?
「あれのコンセプトはギリシャ神話アポロンの御使いが純白のカラスだったことからあのカラーリングなの。ちゃんと嘴がニワトリじゃないでしょう?」
苦笑と共に語られる裏設定。ギリシャ神話からの設定持ち出しだったんだ。
「そこまで見てない。お味噌汁飲む?」
嘴なんか良く見てなかったなぁ。すすっとお味噌汁のお椀を押しやる。
「見てやってよ。いらないんならもらう」
「ふーん。ギリシャ神話ねぇ。ここまで大掛かりだったから知ったけど、基本、町内イベントなんか興味ないもんなー」
「夏に水着コンテストの司会もやったよ?」
「えー。それは見たかったかもォ。イチゴ後で頂戴」
「いちご、ね。だから、学校ではその時点で知ってる奴もいたかなー?」
取りやすいところにイチゴとクリームを寄せてくれる。
気を抜くとご飯の上に乗せられるので要注意。
「ふぅん」
「そこでも、カラス君とはコンビッたかなぁ」
「そこで目をつけた。と」
「まぁ、彼は面白いよね。もちろん、恋愛とかじゃないけど」
流石にそうだとは思う。ネタとしては面白いんだけどね。
レニーちゃんはイチゴからクリームをできるだけ外してから口に放りこむ。
「そういえば、先輩なわけだし、リッちゃん呼びはどうか、だよねぇ」
ぇ?
「ちょっと待って」
「うん?」
「リッちゃんって呼んでくれなきゃイヤ。レニーちゃんはレニーちゃんって呼ばれるのいや?」
「え。イベント会場以外でレニーちゃん呼びはちょっと……」
え?
いや、なの?
他の呼び方で、うまく仲良く振舞えるかな?
本名で呼んで欲しいとか言われちゃう?
そんなことになったら緊張してぎこちなくなっちゃいそう。
「せめて、ノワールか、シアン、まぁ、シアンコスはもうする気ないけどね」
「本名じゃなくていいんだ」
「今更くない?」
なんだろう。嬉しい。
「女の子の友達できたと思ったのにダメかなって思っちゃってて。変わらずこのままでいいなら嬉しい」
「リッちゃん、僕はちゃんと男だからね?」
苦笑と共に言い聞かされる口調はキャラとしてのレニーちゃんより、少し気弱めで押しが少なめ。
「うん。そうだね、キャラコスだったもんね」
「そう」
重々しく頷いて見せるレニーちゃん。やっぱりレニーちゃんはレニーちゃん。これで通そうと思う。
「イチゴパフェ、頼む?」
決めると気が楽になったから聞いてみる。
イチゴ好きだよね。おねーさんが奢ってあげるよ。
「んー。いいや。何か、ドリンクおかわりとってくるね」
でも、ノリはやっぱり女の子の友達かなぁ?
この日は、他愛無いことをそれとなく喋って、『また』を約束した。
レジ前での伝票の奪い合いは辛うじて勝利してよかったかなと思う。
やっぱり、レニーちゃんはレニーちゃんで、良かったなぁと思う。
きっと、レニーちゃんになら、相談できると思う。
引かれなきゃ、いいな。と思う。
『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』より
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