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姫様の側近殿  作者: 七夕
側近殿、舞踏会に参加する
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「罪人は牢に入れておけ。特に身体に異常が無いのであれば、目覚め次第今回の件について尋問を始めろ。それと、まだ舞踏会は続いている。連行する際は周りの目に注意するように」

「……はっ」


 エルザが意識を失ったのを悟ったのか、背を向けたまま王子が指示を出す。我に返った騎士たちは慌てて再度エルザを拘束すると、指示通りに動き出した。静まり返っていた室内が騎士たちの声と鎧の鳴る音で騒がしくなる。


 その様子を見送ると王子は再び動き出し、アーサーとフレントールの元へ歩み寄って来た。彼らの腕の中には姫とアイリスの姿があり、それを見ると眉を顰めた。暫く彼女たちをじっと見つめ、間を開けてから静かに口を開く。


「ステラの容態は」

「脇腹に一打喰らったようです。他は異常ないかと……」

「おにい、さま……?」


 丁度その時、姫が口を開いた。

 金色の睫毛に縁取られた、宝石のような瞳が合い見える。それを見て、王子が驚いたように微かに目を見開いた。姫が目を覚ましたのだ。


「ステラ。気がついたか」

「う……わた、し、は?」

「怖かっただろう、もう大丈夫だ。助かったんだよ。安心していい」


 姫の顔を覗き込み、柔らかい声でそう告げた王子の言葉に姫が安堵の息を漏らしたが、次の瞬間はっと息を呑みこんだ。

 自分を庇い戦ってくれていた、側近の彼女の姿が見当たらない。


「お兄様、アイリスは――」


 辺りを見渡そうと視線を巡らす。だが、視界を大きな手に遮られてしまった。得られる情報は、耳に届く兄の声のみ。


「彼女なら無事だ」

「でも……!」

「アイリスは、無事だ」


 それ以上の説明は無いとばかりの一言。

 大きいわけではないが、強張ったような声で語る王子に姫はぐっと言葉を呑んだ。視界は白い手袋をはめた兄の手に遮られている。その向こうに広がる光景がどういったものか、見る事は出来ないが恐らく彼女がいるのだろう。

 しかし、決してそこに彼女の笑顔があるわけではないのだと姫は静かに悟った。きっと目にした瞬間こちらが卒倒しそうなほどの――。思い浮かぶ悲惨な光景に揺らいでくる目元を、唇を噛み締めることで懸命に耐える。


「お兄様。私、会場へ戻ります。アーサー、降ろして下さい」

「ステラ。君は怪我を負っているだろう。無理はしなくていいんだ」

「いいえ」


 姫は首を振ると、アーサーにその身を降ろしてもらい、アイリスに背を向け自らの足でその場に立った。痛みに眉を顰めるがそれも一時的で、次の瞬間には口元に笑みを携える。意地でも、そのようにしたのだ。

 姫は見通していた。

 自分が居なくなってから時間が経っている今、会場の参加者がどのような心情になるのか。そこに生まれる可能性は何か。エルザの言葉を受け気付いたというのも大きいが、考えるきっかけを得た姫は今自分が取るべき行動を良く理解していた。


「私は、王女としてあの場に戻らねばならないのです。そうですね、お兄様」


 にこりと微笑んで見せたステラの額に、一筋だけ汗が滲んでいるのを王子は見逃さなかった。


 どうみてもやせ我慢だ。

 薬で眠らされ連れ去られ、エルザの言葉を受け、側近はとうとう倒れ、身体に怪我を負った。そんな状況で彼女は王女として振る舞おうと必死になっている。

 王子はまだ、姫にそこまでの対応を求めていなかった。聡いのはよく知っていたが、それでも大人になるには年齢も若すぎる。だが、可愛らしい妹は周囲の状況を察し、涙を飲み込む事を選んだのだ。

 だからこそ王子は何も言わずに一旦目を閉じ、妹の身体を支えるように寄り添った。


「わかった。戻ろう」

「――はい」


 小さく返事をした姫の頭を一度そっと撫でると、王子はオルトレンとアーサーに目配せした。現場の後処理と、体制の整備をするようにと。その意を汲み取って無言で頷いた二人を確認すると、王子はある場所へと視線を向ける。


 一人の騎士の腕に抱かれた、血塗れの身体。

 それは、姫には見せられないほど酷なものだった。

 

「随分な無茶をする」


 ぽつりと零した王子の表情は、彼女を腕に抱いていたフレントールしか見えぬ角度であった。故に、その時の王子の表情を見たのは彼だけである。


 王子の表情は、あまりにも――悲痛なものだった。





***




 その後、舞踏会は華やかなままに執り行われた。


 国王と王妃、それからフォルモンド王子と会場に戻ったステラ姫が壇上に並ぶと、参加者の表情に笑みが戻る。長い時間姿を見かけなかったがと問われれば、召し替えに時間が掛かったのだと可愛らしく口にする、入場時より華やかなドレスを纏うステラ姫の姿があった。

 国王による閉幕の挨拶が述べられた後には、国の繁栄と民の幸せ、そして諸外国との友好を願う舞踏曲が音楽隊により奏でられる。締め括りには参加者全員でダンスを踊った。

 今年の舞踏会も、多くの出会いや様々な繋がりが生まれ、まさに実りの秋と称するに相応しいものとなった。

 一方その水面下で、ラザフォード王国としては多くの課題が見えた一日であった。


 そして、今回が初めての参加となった姫付き側近のアイリスは、その場に再び姿を見せる事はなかった。


 こうして、今年の舞踏会は幕を閉じた。





***




 今回の事件を機に、ラザフォードでは大規模な改革がなされることとなる。


 ひとつは騎士団内部の再編成。

 大きな戦が無いからという酷い言い訳に聞こえるが、それがなくとも、騎士団の質が酷く低下している事が今回の事件で浮き彫りになった。下階級であればあるほど目に留まる連携体制の不足。緊急時であっても指示が無ければ動けない個々の判断力の低下。おかげで今回のように、たった一人の人間に国の内部が掻き回される有り様である。初期段階で適切な判断・対応が取れていれば、事件もここまで規模が膨らまなかったのではないかという意見も出された。


 そしてなにより、内部から謀反が出たこと。

 志あって入団した筈の人間が起こした今回の事件は、入団基準の不当緩和や各部隊の団員に対する指導が不十分だったのではないかと、そこまで指摘されてしまったのである。団員へ調査を行ってみればこれまた結果は明瞭で、思わず騎士団長は頭を抱えた。一方王子はその意見を振り払うことなくむしろ前面に出した。「やるなら根本から徹底的にやるべきだ」と素晴らしい笑顔で言い切った王子に物申すことは誰にもできなかった。


 結果、ラザフォード王国騎士団の入団試験の抜本的な見直しと、部隊を全面的に再編成することとした。

 今までの地位は不問。騎士団長と副団長は今回の体制の不備に対しての責任を取って降格。部隊長も、隊員も、徐々にではあるが全て再編成された。新体制で臨む騎士団のこれからは実に見物である。

 もっとも、それらを楽観視せず全て構成したのは王子と側近のオルトレンだ。これには将来、誰が王位に着くかを暗に明るみに出したひとつの政策となった。

 これについて意見した爵家もあったが、王子自身は今回の事件より前に自らが執り行う政策の施行について王の許可を得ていたため咎めはなし。制限もなし。全て王子の一任である。

 余談だが、今回の事件をきっかけにして行われた大規模な改革に関しては、王子が裏で仕組んだものだと一部で噂が流れた。真意は定かではないが、もしそれが真実であるならば、フォルモンド王子とはどれほど恐ろしい人物であるかしれない。各家は背筋に寒気が走ったそうだ。選ばれた各団員も皆気を引き締め無いわけにもいかず、民を守るため日々を死ぬ気で生きる騎士本来の姿に正された。

 何にせよ、ラザフォードの将来を確立するための計画がこの時からすでに行われていた。後にそう語られる事となる大規模な改革となったのだった。




もうちょい続きます。


活動報告にも書きましたが、キャラアンケートを設置しました。

結果は今後の展開の参考にさせて頂きます。

お暇な時にでも、ポチリと押してやって下さい。

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