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花菖蒲  作者: 弦
2/2

幸村様と


「おーい、才蔵。鈴を呼んできてくれるか」

「承知」


幸村は執務を終え、休憩に入り才蔵に鈴を呼ぶように言った。

才蔵はすぐに返事をし、席を立った。




「鈴はいるか?」

「あ、才蔵様。鈴なら外で庭を掃除しております」


才蔵は女中の集まるであろう厨に行き、女中たちに聞いていた。

外にいることを聞いてそのまま足を庭に向けたのだった。

庭へ着くと、掃除をしっかりとしている鈴の姿を発見した。



「鈴、今いいか」

「才蔵様、どうかしたのですか?」

「幸村様が休憩に入られた。お前を呼んで来いと言われてな」

「そうなのですか?お茶を持ってすぐ参ります」


そう言って鈴は集めた落ち葉などをすぐにとって、用具を片付け始めた。


「では俺は戻る」

「こんなところまでありがとうございます」

「気にするな、幸村様の命令だ」


そう言って才蔵はしゅっと去って行った。



鈴はさっと片付けた後、お茶と菓子を持って幸村の部屋に向かった。

一声かけて、静かに入る。



「お待たせして申し訳ございません。お茶などをお持ちしました」

「いや、気にするな。急に呼び立ててすまない」

「いえ、大丈夫です。ご用件は何でしょうか?」

「・・・あやつとはどうだ」


少し間を置いた後、幸村様が聞いてきた。

名前を言わないため、鈴には誰のことを指しているのかわからなかった。


「・・・あやつ、とは?」

「佐助のことだ」

「佐助様、ですか」

「お主は佐助が好きなんだろう?」

「・・・そ、それは・・・」


確信をつかれた鈴は顔を赤らめる。

幸村は鈴を見て、大体を想像していた。



「このことは、佐助様には・・・」

「もちろん言っていない。あやつも知らんだろう」

「そう、ですか。よかった・・・」

「で、気持ちは伝えないのか?」


真剣な声色で話す幸村。

その質問に答えがつまる鈴。


「わたしは、言いません・・・」

「なぜだ」

「これを言って、今の関係が壊れるのが怖いんです」

「怖い?」


もし言ったとして、拒絶されたら?

今よりもっと話せなくなったら?

気まずくて近寄ることもできなくなったら?


それを考えると、何も行動できなくなる。

なら、もうこのままでもいい。


「それで、いいのか?」

「・・・もし、佐助様が私のことが嫌いでも、私は好きでいたいんです」

「・・・。」

「たとえ、臆病者と思われても嫌われるよりはましです」


意思が強そうな瞳をして、幸村にそう言い切る鈴。

幸村は少し考えて、口を開いた。


「佐助は真田十勇士だ。それに忍隊長でもある」

「はい」

「何が起こるかわからんぞ?それでもか?」

「・・・。」

「俺は、伝えたほうがいいと思うが」

「・・・いえ、このままでいいんです」

「そう、か・・・。ならいいんだ」



幸村はふっと息を吐いて、目を閉じた。

鈴は下を向く。



「まぁ、何かあったら俺のところに来ればいい。いつでも相談には乗る」

「えっ、そんな!幸村様に相談、なんて!!」

「気にするな!俺はお前のことを気に入ってるからな!遠慮なんてしなくていい!」

「で、でも・・・」

「妹のようなんだ、お前は。妹なんて、いたことないがな」

「幸村様・・・」



にぃっと笑って鈴の頭を撫でる。

その大きな手が兄のいない鈴には、とても暖かく感じたのだった。




「宜しく、お願いします」

「あぁ、いつでも来い。甘やかさせてくれ」



兄とはこういうものなんだろうか、と考えるのだった。




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