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花菖蒲  作者: 弦
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二人の日常

ある日の夜。鈴は少し破けていた着物を繕っていた。

静かな時間、虫の鳴き声がふすま越しに聞こえていた。


トンッ


そんな時何かが落ちたような小さな音が聞こえた。

そしてすぐに部屋のふすまが音を立てずに開いた。


「戻った」

「佐助様。お帰りなさい」


黒い忍服を着た背の高い男が立っていた。

鈴は繕いものをやめて、すぐに頭を下げるのだった。


「そういうのは俺にしなくていい。この城の主は幸村様だ」

「あなたは忍隊の長ですから。私とは違うんですよ」

「・・・そういうものか?」

「はい。そういうものです」


にっこりと笑って返せば、ため息をつかれる。

であった頃にはもっと畏まった話し方をしていたものだ。

今となっては懐かしく思える。


そんなことを考えていると、佐助はすっと歩き出そうとした。

どこに行くのか尋ねると、「風呂に行ってくる。汗で気持ちが悪い」と返答が来た。

鈴はそれを見送って、繕いものを再開するのだった。





数十分後に佐助は鈴の部屋に戻ってきた。


「汗は流れましたか?佐助様」

「あぁ。十分だ」

「それはよかったです。・・・あ、お食事持ってきますね」



そう言って鈴は部屋を出る。

食事は用意されてはいるが、時間がたっているため冷えている。それを温めなおしてお膳に乗せて部屋で食べる。

それが普通になっている。

もちろん佐助には自分の部屋があるのだが、昔、鈴の部屋が落ち着くといわれて以来鈴の部屋で休むことが多くなっていたのだった。

落ち着けるのならと、鈴も何も言わずに過ごしている。



「佐助様、お待たせしました」

「すまない、助かる」

「いいえ、お仕事ですから」

「では、いただく」



そう言ってゆっくりと食べ始める。

鈴は黙って控えていた。


佐助が食べ終わると鈴はそのお膳を片付け、部屋に戻る。

部屋で佐助は暗器などの手入れをしていた。

鈴はそれから部屋の片づけをしたり、教養を学んだりしていた。



あれから十数分経った頃、佐助が小さく伸びをしているのが見えた。


「佐助様、今日はもう就寝なさってはいかがですか?明日は休みだと幸村様からお聞きしました」

「そうか・・・それもそうだな」

「では私も就寝いたしますね」

「・・・ありがとう、鈴」



小さく微笑んで、頭を撫でる佐助だった。

頭を撫でられたことが恥ずかしかったのか、顔を赤く染めている鈴。



「そんな顔をして、襲われるぞ?」

「そ、そんなのありえませんっ」

「・・・お前は十分可愛いと思うが」

「からかわないでくださいっ」



ぷいっとそっぽを向く鈴に佐助はくすくすと笑っていた。


「本当に、お前は俺を普通に見てくれるんだな」

「だって、佐助様も私と同じ人ですから。忍も女中も同じです」

「・・・ありがとう」




これが私たちの日常である。


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