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記す者  作者: 河野 る宇
◆第3章~傷
9/11

*疑問符

 仕事を終えたベリルたちは、近くの街のホテルにチェックインしケイトもそれに続いた。

「う~ん」

 ケイトはベッドで寝ころびながら、今回の戦いについて反芻はんすうする。

「どう考えても変よね!」

 勢いよく起き上がった。

 あのとき、どうして彼は1人で戦ったの? それだけ接近戦に自信があったから?

 ううん、何か違う。彼が怪我をして、みんな心配していたけれど……。なんだろう、何か引っかかるのよ。

「あ、そうだ。怪我は大丈夫かしら」

 ふと思い出し、ベリルの部屋に向かった。


 ごく一般的なホテルの通路を通り、ワインレッドのドアをノックする。しばらくして、ゆっくりとドアが開かれベリルが顔を出す。

「お前か」

 ケイトを見て、少し驚いた表情を浮かべた。

「どういう意──」

 言い切る前に、ベリルが上半身裸だという事に気がつく。

「シャワーを浴びていた」

「ああ」

 そういえば髪が濡れてるわ。

「何か用かね」

「いえ、特には無いわ」

 男の裸などで恥ずかしがる歳でもないが、ベリルの整った体型に見とれてしまい当初の目的を忘れた。

「そうか。おやすみ」

「おやすみなさい」

 扉が閉じられる。

 ん? ちょっと待って!?──ケイトは何かを思い出し、ドアを強く叩いた。

「なんだ」

 眉をひそめ、鬱陶うっとうしそうに再びドアを開くと、ケイトはすぐにベリルの体に顔を寄せた。

「?」

 それに怪訝な表情を浮かべたが、見上げたケイトの顔はベリル以上に不思議そうな顔をしていた。

「傷は? 確か撃たれたわよね」

「!」

 数秒の沈黙のあと、ベリルが目を細める。

「治りが速い。傷も浅かったのでね」

「そうなの?」

「ノインが戻ってきたら卒倒そっとうする」

 まだ疑問の解けないような顔をしているケイトに、ベリルは苦笑いを浮かべて発した。その言葉にハッとする。

「あ、ごめんなさい」

「おやすみ」

「あっ……」

 ドアを閉められ、仕方なく部屋に戻っていった。

 ベリルは、遠ざかるケイトの足音をドア越しに聞き入る。

「参ったな」

 注意していたはずなのに油断した。

 てっきりノインが戻ってきたものだと思い、ドアを開けてしまったのだ。

 ノインがわざわざ自分の部屋にノックして入ってくる訳が無い、考えればすぐに気づきそうなものなのに。

 左肩を押える──すでに完治はしているが不死の体とはいえ、一瞬で治るほど万能という訳じゃない。

 完全に失われた方が、完治が速い事もある。

 痛みは不死になる前と何ら変わる事は無いし、消えゆく命に哀しみを覚える事も変わらない。

 この体が世の役に立つならば、いくらでも使って構わないが──

「気付かれるのも時間の問題か」

 ベリルは、壁に背中を預け天井を見上げた。


 ケイトは、部屋に戻る間もずっと考えていた。

「やっぱり変よね」

 ベリルの体をじっくりと思い出す。

 カードキーを滑らせて、ドアを開いた。焦点を合わせずにライトを付け、ベッドに体を投げる。

 頭の後ろで両手を組んで、天井のライトを見つめた。

「綺麗すぎるのよ」

 そう、ベリルの体は綺麗すぎた。

 傷跡の一つも、ケイトは思い出せなかったのだ──有名な傭兵で、他の傭兵よりも厳しい依頼を受ける事が多いのに、どうして傷が一つも見あたらないの?

 もしかして、背中には沢山ある? いいえ、それでもおかしいわ。

 いくら傷が浅くても、1日も経たずに完治するなんてあり得る?


「ええっ!? そのまま出ちゃったの?」

 戻ってきたノインが、素っ頓狂 (すっとんきょう)な声を上げた。

「あたしと間違えたワケね……」

 ちょっと外の空気を吸ってくると出ていた間に、随分とヤバイ状況に陥っている。

 ベリルが間違えるなんてコトもあるのか、と驚きつつも半ば呆れて右手で顔を覆った。バレるのは時間の問題かもしれない……ノインは冷や汗を垂らす。

 当の本人は、他人事のようにブランデーのグラスを傾けている。

「あんたは相変わらず図太いわね」

 溜息混じりに発したノインに、ベリルは小さく笑って軽くグラスを掲げた。

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