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記す者  作者: 河野 る宇
◆第3章~傷
8/11

*流される血

「集会所に!」

 ベリルは声を張り上げて指示すると、倒れ込んだ少年に駆け寄る。

「手当を」

 もう1人、駆け寄った仲間に発して周囲を見渡す。

 仲間たちは色々なものを盾に、敵であろう者たちが潜む森の中に銃口を向ける。それを確認し、ヘッドセットに声を乗せた。

「レンジャーは何人だ」

 ベリルの問いかけに、9人が手を挙げた。ここでいうレンジャーとは、野戦に長けた者の事だ。

 ベリルは東を指差しながら、

「3人一組で攻撃。私は向こうに」

 言われた者たちは装備を軽くして、ウォーミングアップするように肩や腕を回し始めた。ベリルは、銃撃の合間をぬって仲間の1人に駆け寄る。

「何人、いると思う」

「各、ヶ所に5人ずつくらいかな」

 自分の予想と同じだと確認して頷いた。

 準備を終えた事をそれぞれが示すと、ベリルは手を挙げ一斉に森に向かって走る。

 いくつもの銃声と叫び声が森の中から響いた数分後──辺りは静まりかえった。

 怪我を負いながらも9人は無事に生還し、最後にベリルが戻ってくる。しかし、その左肩には大量の赤い液体が──

「! やられたのか」

 スティーブが問いかけると、ベリルは苦笑いを返した。

「ノイン、手当してやってくれ。それまでは俺が指揮っておく」

 そう発し、救出の続きを始めた。

「大丈夫?」

 ノインは慌ててベリルに駆け寄る。

「うむ」

 ケイトは、なんとなく近づけない雰囲気の2人を遠目で見つめる。

 ベリルを取材するハズなのに、全くとっいっていいほど彼の事をなに一つ掴めない。ベリルについて他の傭兵に質問しても、ぶっきらぼうに対応されるだけで深い部分にまでは踏み込めなかった。

 一体、彼の何を守っているのだろう──それを知られて、彼が怒り狂うことを恐れているという感じじゃない。

 まるで、彼を失う事を恐れているような……そんな感情が垣間見えた。それほどに彼は大切な人物で、それほどにとんでもない秘密を抱えている?

 手当を終えたベリルは指揮に戻り、しばらくすると輸送ヘリが上空を旋回した。

 ヘリがゆっくりと村の広場に着陸する──村人たちをヘリに乗せ、ベリルは撃たれた少年に笑顔で何かを手渡した。

「!」

ケイトが見たそれは、木で出来たオモチャだった。

「あの子のお父さんが死ぬ前に作ったものなんだって」

「!」

 ノインが後ろから説明した。

「ベリルに取ってきてって頼んでたの」

 そしてベリルは、腕に巻いていたバンダナを少年に差し出した。

「あれは?」

「ベリルのエンブレムが入ったバンダナ。あの子、一度も泣かなかったでしょ。だからベリルがあの子の強さを称えたの」

 説明したあと、ノインは他の作業をするためにケイトから離れるが、彼女はその後を追った。

「自分のエンブレムなんて、いつもならあんまり持たないし付けないんだけど。時々、ああやって子どもとか元気づけるんだ」

 助けた後も、彼らに安息が訪れる訳じゃない──だからベリルはそんな少年に、少しでも生きる気力になればと願いを込める。

 ケイトは、少年の頭をなでるベリルの姿を見つめて立ちつくした。

「どしたの?」

 ノインはそれに、怪訝な表情を浮かべる。

「なんでもない」

 ケイトは我に返り、慌てて帰り支度をした。

「ベリルはあげないよ」

「! またそんなこと」

 私じゃ、あなたに適わないわよ……ケイトは小さく笑った。


 全ての作業を終え、傭兵たちもヘリに乗り込む──着陸した時と同じように、ヘリはゆっくりと上昇した。

 少年は、すっかりベリルと打ち解けたようで、楽しそうに彼と会話している。

「妬いちゃう?」

 それを、隣で見ているノインにケイトはイタズラっぽく言った。

「ま、ね」

 ノインは肩をすくめる。

「ああやって、みんなベリルに憧れてその背中を追うの。いつか、ベリルと一緒に仕事がしたいって」

「え?」

「なんでもないっ」

 ノインは無意識の言葉にハッとして、プイとそっぽを向いた。

 危なかった、ベリルが不死だってバレるとこだった……。あたしがバラしてどうすんの! ノインはドキドキした。

「この中にもそんな人間がいる」

 ノインは続く言葉を飲み込んだ──傭兵見習いの2人以外、ベリルより年下の人間はいない。


 ヘリは無事に正規軍の空軍基地に到着し、村人たちは一端、検査や治療のため病院に運ばれた。

 ベリルは、基地の責任者らしき男といくつか会話を交わし、その男がベリルに握手を求める。それに快く応え、ノインたちの処に戻ってきた。

 基地の端に仲間を集め、ベリルは〆の言葉を述べる。

「よくやってくれた。報酬は約束通り軍からと、私から少々、上乗せさせてもらう」

「やった!」

「ひゃっほぅ!」

「さすがベリル」

 口々に発せられる言葉に、ケイトは「ようやく終わったんだ」と初めてホッと溜息を漏らした。

 銃弾駆けめぐる多くの戦場に身を投じてきた彼女にも、この経験は大きかった。

 ただの『雇われ』じゃない──傭兵の中には、こうも活き活きとしている人たちがいるのだと。

 色んな傭兵がいるのは解っている。しかし、この戦いで出会った傭兵たちは素晴らしい人たちだ。

 そうして傭兵たちは、それぞれ自分たちの帰るべき場所に戻っていく……ベリルに駆け寄るノインを、ケイトはじっと見つめていた。

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