*地中海にて
「黄昏の彼方~碧き蠱惑のミューゼ~」の続編でもありますが、この作品から読めます。
「ケイト・ニールセン?」
その青年は、渡された名刺に怪訝な表情を浮かべた。
25歳ほどの外見に金のショートヘア、印象的なエメラルドの瞳に整った顔立ちは充分に女性を惹きつける。
細身であるが、よく見れば服の上からでも鍛えている事が窺えた。
青年は目の前にいる女性に眉をひそめ、名刺に目を移す。そこには、フリーのジャーナリストと記されているが……
「私に何の用だね」
その言葉遣いに、ケイトは若干いぶかしげな表情を浮かべた。
緩くカールした金髪を後ろで一つに束ね、魅力的な大きめの青い瞳。青年と同年代ほどだと思われるが、その肩には一眼レフが提げられていた。
ケイトは、地中海の島にあるオープンカフェでくつろいでいた彼を見つけ、すぐに声をかけたのだ。
「ベリル・レジデントでしょ?」
ベリルと呼ばれた青年は、少し驚いた様子で彼女を見たあと、怪訝な表情を浮かべた。
彼女は、そんな彼の向かいにある席に綺麗な曲線を描く腰を降ろし、素早く名刺を渡したのである。
爽やかな風と、カフェから見える青い海が清々しさを装っているが、この2人の間には妙な空気が漂っていた。
緊張感とでも言うのだろうか、互いに心中を探り合っているようだ。
「何故、私を知っている」
ケイトは、上品な物言いで問いかける青年を見つめた。
自分が求めていた相手とは、若干イメージが違う──もっとこう、大きな男だと思っていた。存在感は際だっているが、どちらかと言えば小柄だ。
彼が本当にその職業の人間なのかすら疑問に思うほど、ケイトには違和感があった。
「私は戦場ジャーナリストなの。今度は傭兵について書こうと思っているの」
「……」
それが答えか? と、いうようにベリルは眉間にしわを寄せる。
「何故、私の事を知っている」
そうして再度、ベリルは尋ねた。