第七話・次なる目的地
ギルド内の医務室に運ばれたムラクモは何か寒気を感じ目を覚まし、同時に腹部の痛みが蘇り、キャシーの思いがけない威力の攻撃を思い出した。
(強力過ぎるだろ、あれは……)
と心の中で愚痴っていると、扉が開きキャシーが入室してきた。
「あ、起きた? 貴方、戦いが終わった後気絶したのよ?」
(トドメはお前だったけどな……)
ムラクモはそう思ったが、口を動かすとまた面倒が起こりそうだったので思うだけに留めた。
持ってきた水と水差しをベッド近くの棚に置き、キャシーはベッドに腰掛けた。
(小せえ体だな……。そういや、なんでこいつは旅してんだ?)
そんな疑問がムラクモの頭には浮かんだが、本人が話そうとしないなら無理に聞いてもしょうがないだろうと思いこれも思うだけに留めた。
「…………」
『…………』
ただでさえムラクモは話すことが出来ない、そんな状況で二人きりになり、その一方が何も話さなければ必然的に場を沈黙が支配することになる。今度は、道中の様にムラクモは何かを考えている風は無い。
無いが代わりに、
(じゃんけん、ほい! うし! 勝った!)
じゃんけんをしていた。
(んじゃ、今度は六人でやるぞ?)
その意思に従い、ノアは体を六つに分けそれぞれが拳を握った。
(じゃんけん、ほい! あいこ、で、しょ!)
ムラクモの意思に従って動いてるんだから必ずムラクモが勝つんじゃないか?と言う疑問を抱いた者もいるかも知れないが、ノアが自分から消えたり現れたりすることもあると言ったことを覚えているだろうか?
つまり、今の様にじゃんけんや何かで勝負をする時は、ノアは自分の意思で動いている為どこにもおかしな所は無いのである。
(七人でやると中々終わらねえな。次であいこだったら、じゃんけんは終わりな?じゃ~んけ~ん……ポン! ぐあ、負けた!)
「……何してるの?」
『ちょっとな、ノアとじゃんけんを。頼むからそんな目で見ないでくれるか?』
何故かベッドが揺れていることに疑問を持ったキャシーが後を見ると、そこではムラクモがノアと何かをしておりその時の動きでベッドが揺れていた訳だが……キャシーはそんなムラクモをジト目で見ていた。
「まあ、いいけど。これからのことだけど、わたしは少し資金を貯めたら街を出るわ。出来るだけ急いで王国から離れたいし……貴方はどうするの?」
『少し依頼を受けたら出る』
「そうなんだ……あ、あとこれ」
『ん? 何だ?』
立ち上がったキャシーはバッグから袋を取り出しムラクモに差し出した。流れで受け取り、中を確認するとムラクモは驚愕に目を見開いた。
中に大量のギールが入っていたからである。
「ワイバーンの首とか脚とか翼とかね……ギルドの人に本物だってことを確認してもらって、その場で換金してもらったの。角とかは、武器屋さんに持って行けば武器に加工してもらえるって言うから、一応貰ってきたわ」
そう言って今度は角を取り出すキャシー。だが、ワイバーンの角はキャシーが両手で持たなければいけない程の大きさを持っており、その体はふらついていた。
その結果、
「にゃっ!」
ベッドに躓きムラクモの上に倒れるのは当然と言えるだろう。
「あ、ごめん……」
素直に謝るキャシーの頭を、ムラクモはまた撫でた。
「あぅ……」
流石にキャシーも恥ずかしいのか、顔を紅潮させながらムラクモを上目遣いで見た。
なんだかんだで、この二人は相性が良いのだろう。
二人で過ごす時間を、どこかで心地よく思っている。
『とりあえずだな、この金はお前が持って行け。あ、やっぱ駄目だ。その辺の奴に狙われるかも』
差し出した袋をすぐに引っ込めたムラクモを見て、キャシーは暫く無言になったが、
「ねえ……わたしと一緒に旅しない?」
やがて、ポツリとそう言った。
『は? なんだ、いきなり?』
「いや、その……なんていうかね? 貴方とは会ったばかりだけど、不思議と一緒にいるのが楽しくて…………それに、そのお金も、わたしが持ってるのが危ないなら、貴方が一緒にいれば取られる心配も無いでしょ?」
ムラクモの疑問にキャシーはたった今思いついた考えを述べる。
『ああ、成る程。そうだな。じゃ、一緒に行くか』
「え? ホントに良いの?」
『ああ』
まさか、こんなにあっさり承諾してくれると思っていなかったキャシーは純粋に驚いた。
『それで、次はどこを目指すんだ?』
「……あ……道なりに、<ディロウア>に行こうと思ってる。武器職人、剣士、魔術師とか色んな人が集まってて、年に五回、街挙げての大会が開かれるの」
『随分と血気盛んな街だな。それで? すぐに出発するか?』
理由は分からないが、キャシーが何か急いでいることは先程の台詞からも分かっているムラクモはそう問いかけたが、キャシーは、「そんなに急がなくてもいい」と首を横に振り言った。
「武器屋さん行こう? 角の加工とか、して貰いたいし」
『そうか。で、それはいいが、早く起きてくれるか? その角結構重いんだよ』
「あ、ごめん」
この会話中もキャシーは倒れたままであった為、角がずっと足に押しつけられていて地味な痛さをムラクモは感じていた。言われてやっとそのことに気付き、キャシーは体を起こして角をバッグにしまった。
ベッドから出たムラクモは体を解し、水を一杯飲み、その後医務室を出てギルド内の者達の視線を浴びながらも気にすることなく外に出た。
『武器屋はどこにあるんだ?』
「そこ」
ぴっ、とキャシーが指さしたのはギルドの二つ隣の建物。
その動作を見たムラクモは何故か和んだ。
(可愛い奴だ)
早速店に向けて歩き始めた二人。
ムラクモは先程金髪男と戦っていた時に感じた視線をまた感じたが、場所は掴んでいる為無視することにした。その内痺れを切らして出てくるだろうと考えたからだ。
そのまま、キャシーは何も気付かず、ムラクモは無視を決め込み、武器屋へと入っていった。
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