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語ることの出来ない剣士  作者: 大仏さん
~二人の少女~
7/18

第六話・ムラクモVS金髪男



 「あ、すいません」


 恥ずかしかったのか顔を赤くしながら席に着き、一つ咳払いをするキャシー。


『どうしたんだよ?』

「どうしたもこうしたも! なんでわたしより低いのよ!」

『んなこと言われてもな……』

「だって! ガルムの群れを一撃で倒したし! ワイバーンだって一瞬で片付けたんでしょ!」

「ほう。その話、詳しく聞かせて貰おうか?」

「え?」


 キャシーが叫んだ時、話を聞いていたらしい金髪の男がムラクモを見下ろしていた。周りの者達も興味を持ったのか、二人を見ている。


「ワイバーンを倒したとはどういうことだ?」

「……なに? あなた」

「質問しているのはオレだ」

「む」


 男の態度に頬を膨らませ、キャシーはムラクモを見た。


『ま、さっさと答えて、さっさと退散してもらうのがいいんじゃねえ? 面倒だし』

「……そうだけど……信じるとは思えないわよ? 龍種がこの大陸にいるってだけでも、きっとここにいる大半の人が信じないわ」

「何を言っているかと思えば、そんなことは当たり前だ。龍種は<ライドメイル大陸>にしか棲息していない」


 そう言う男を見た後、またムラクモに視線を戻した。その目は言外に「言った通りでしょ?」と言っている様にムラクモに写り、ムラクモも「確かに」と共感していた。


 そしてノアに出てきて貰い、ムラクモはその中に無造作に手を突っ込み何かを探し始めた。


(え~と………………お、あった)


 その中から目的の物を見つけたムラクモは、それが片手では持ちきれない大きさの為、両手で引っ張り出し机の上に置いた。


 それはドシン!と大きな音を立て、机を軋ませた。


 言わなくても分かっていると思うが、ムラクモがノアを出現させた時点でギルド内にいた全ての人間が驚いていたのだが、そこから出された物を見て皆は一言も発することができなくなった。


 その中でなんとかキャシーだけが口を開いた。


「あ、貴方……これ……ワイバーンの……く、く」

『ああ。ワイバーンの首』

「…………」


 そう、ムラクモがノアから取り出したのは昨日の朝倒したワイバーンの首である。なにより説得力のある証拠を見せられ、何も言えなくなっていた者達は更に何も言えず、開いた口が塞がらない状況になっていた。


「ハッ! き、貴様! そのワイバーンを貴様が倒したと言う確たる証拠はあるのか!?」


 いち早く現実に戻ってきた金髪男がムラクモを指で指しながらそう声を張り上げた。


(人を指さすなって教わらなかったのか?)


 と思いながら、ムラクモはまたノアに手を突っ込み、ワイバーンの斬り刻んだ体を次々と出していった。倒した証拠は無いが、そんなことは本人にとってはどうでも良いことである。


「ハッ! あなたね! これを見ても……うわ! なんかいっぱい出てる!」


 次に戻ってきたキャシーは、目の前にあるワイバーンの首に加え、翼や脚などが追加されていることに驚いた。


「ふん! では、お前はこの男がワイバーンを倒す瞬間を見たと言うのか?」

「ぐ……それは」

(はあ。俺じゃなくてキャシーに絡むとか……面倒だな)


 そう思ったムラクモは席を立ちキャシーの前に出た。金髪の男を面倒くさそうに見て、その後キャシーの方を向きあることを言った。


「なんだ? そいつは何を言っている?」


 傍から見れば、ムラクモは声を出さずに口だけを動かしていると言う変な人間として映っている。事情を知らなければそうなって当然だが……。


「『お前と俺が戦って、俺が勝てば認めるか?』だって。あ、今のはわたしじゃなくて、ムラクモが言ったことだから」


 面倒になったムラクモは手っ取り早く証明するにはその方法が一番だろうと思い、そう提案し、キャシーは誤解されないようにそう付け加えた。


 それを聞いた金髪の男は何か可笑しいのか、初めは声を押し殺して笑っていたがやがて押さえきれなくなったのか大声を上げて笑い始めた。


「ハハハハハハ! 面白いな! いいぞ、その勝負受けてやろう!」


 そしてムラクモの提案を承諾した。


「ムラクモ、大丈夫なの? あいつ、結構強いわよ?」

『別に良いって。俺は勝つつもりも負けるつもりもねえから』

「え? じゃあ、なんでこんな提案したの?」

『あのままだとお前に矛先が向いてただろうな……と思ってな』

「え? わたしの為?」


『ま、結果的にそうなるのかね? 悪かったな?』と、ムラクモはそう言ってキャシーの頭に手を乗せ、キャシーは顔を赤くした。


 その後、ギルド裏庭にてムラクモVS金髪男の勝負が行われることになり、誰が言い出したのか、「どちらが勝つかを賭ける」者達が出てきた。更にこういった話が広まるのは早い物で、聞きつけた民間人や休憩中の職人などもギルドの裏庭に来ていた。


「ムラクモ、あいつランクBですって。やっぱり結構強いわ」

『関係無いって言ったろ? ていうか、お前ここにいるとまたこんなことに巻き込まれるかも知れねえぞ?』


 ムラクモが勝負をしようと言い出したのは、先程の理由もあるが、もう一つはキャシーをこの場から逃がすこともあった。それは本人によって難無く崩されてしまったが……。


「いいの。原因はわたしなんだから、これが終わるまではいる」


 意思は堅いようで、言葉の通りこの騒ぎが終わるまでは、この場から離れるつもりは無いようだ。


「それで、どう戦うの? 人相手に戦ったことなんて、無いわよね?」

『確かにねえけど、槍なら使ったことはあるから間合いくらい分かってるよ。ほら、危ねえから下がってろ』

「……分かった。負けないで!」

『おう』


 二人は拳を合わせた。



 その後、右手をさすっているキャシーが見受けられたとかなんとか。



「準備はいいか?」


 頷いたムラクモを見て、金髪男は全体が細い槍を構えた。それを見たムラクモも腰を落とし拳を握る。


「オレ相手に素手で戦うつもりか?」

『そうですがなにか?』

「なぜ声を出さないのかは分からぬが、後で後悔するなよ!」


 金髪男のその言葉から、二人の戦いは始まった。


 十分な力を込めた踏み込みで一気にムラクモとの距離を詰めた金髪男は常人では躱せない速度で槍を突き出した。


(Bってことは……EXの下の下? ん? EXの下ってAか? 後で聞こう)


 そんなことを考えながら、ムラクモは槍を軽くいなし同時に金髪男の足に右足をかけた、一歩下がって再度拳を構えた。金髪男も流石高ランク者と言うべきか、これ位で倒れることはなく、見事に体を捻り体勢を整えた。


 次いで金髪男は連続で突きを繰り出すが、ムラクモはそれらを全て最小限の動きで躱していた。


(ランクBってのは、こんなもんなのか? それともコイツが弱いだけか?)


 躱しながらムラクモはそんなことを考えていた。


(それに、さっきから妙な視線を感じるが……)


 戦闘が始まる前から、ムラクモは視線を感じていた。もちろん今はこの場にいる全ての人間がムラクモと金髪男を見ているが、それらの視線とは違い、探るような視線である。


(なんか寒気がする)


 同時に悪寒にも襲われていた。


「チィ! ちょこまかと動きおって!」


 次第に焦りが生まれたのか、金髪男の槍の動きが最初に比べて鈍くなっていることをムラクモは確認した。


(そろそろ終わらせるか)


 そこでムラクモは攻勢に移ることにし、その後勝負は一瞬にして着いた。


「ハアッ!」


 裂昂の気合いを込め放たれた突きをムラクモは右半身をずらして躱し、槍に向かって真上から垂直に左手手刀を落とした。


「な……」


 バキンと良い音を立て、中央から綺麗に折れた槍を見た金髪男は言葉を無くし、呆然とその場に立ち尽くしていた。周りの者も何も言えず、場を静寂が支配した。



「やったー!」



 そんな中で、キャシーがそう叫び、ムラクモに向かって突撃した。


 


 そう、文字通り「突撃」した。


(ゴハッ!)


 鳩尾に渾身の一撃をお見舞いされたムラクモはその場に倒れた。


「え!? ちょ、ムラクモ! ムラクモしっかりして! 一体誰にやられたの!?」


 お前だよ、とその場にいる全員がつっこまずにはいられなかった。




「ムラクモお! しっかりしてえ!」




 その後、ガクガクと揺さぶられたことにより、かろうじて保たれていたムラクモの意識は完全に断たれた。







「おもしろい」


 そう言ったのは、ギルドの屋根からムラクモを見ていた少女である。


 黒い瞳を持ち、ムラクモに負けず劣らずの黒髪を胸元で結んでおり、背中には身の丈程の長さを持つ、<大太刀・ドラゴンキラー>を携えている。


 黒い革製の服で上下を揃えており、下は動きやすさを重視している為か相当短く、太ももの真ん中辺りまでしかない。


 少女はもう一度ムラクモを見た後、屋根から姿を消した。




「たのしくなりそう」




 最後にそう一言残して――。





指摘・批判・批評・誤字脱字報告、お待ちしております。

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