第三話・受け継いだ物
今回でプロローグは終わりです。次回からは三人称で進めていきます。
何もしてくる気配はないので、まずは様子を見ようと思い一歩下がった。のだが、黒い何かはまるで、「離れないでくれ」と言わんばかりにぴったりとくっついてきて、胸に頭?を擦りつけてきた。
子が外出しようとする親にくっついて、「行かないでくれ」とせがんでいる様な物だと考えればわかりやすいか……?
まあ、よく分からないが……敵じゃないのかも知れない。
それなら、オレとしては助かる。ブラッド・ドラゴンをあんな簡単に斬り裂く奴が相手では、オレなど紙を斬る様に斬られてしまう。
と、考えている間も、黒いのはオレにぴったりくっついていた。
お前はオレの敵なのか?
「!」
いきなり黒いのが、ぶんぶんと勢いよく体?を振った。オレが思ったことを否定しているかの様なタイミングの良さに驚き、今度は別のことを思ってみる。
オレの味方か?
そうすると、今度は大げさな程体を上下させた。
その後もとりあえず思いつくことを思ってみると、全てに上下に振るか左右に振るか分からないと言う様に傾げる様な動作をし、こいつが、「オレの思っていることが分かる」ということが分かった。
さっきのブラッド・ドラゴンがまだいると思っているのか、あたりに魔物の気配は全くと言って良いほど無い。
安心して黒いのと会話、の様な物が出来た。
暫くそうして過ごした後、家に帰ることにして森を出口へと向けて歩く。
その間も、黒いのはオレから離れず、寝る時も離れることが無かった。
翌朝、目を覚ますと黒いのはいなくなっていた。
「…………」
寂しいと……また出てきて欲しいと……そう、思った。
「!」
思った途端、足下から黒いのが出てきてオレに飛びついてきた。
訳も分からずにいると、黒いのがオレの手を引き立ち上がらせ目の前で動きを止めた。
――まるで、オレから何か言うのを待っているかの様に。
だから、オレは思いで伝えた。
よろしくな?
黒いのは、また何度も頷いた。
それから六年。
俺は十六歳になった。
成長した俺がしたことは、村を綺麗にすることだった。村人たちは、もう既にみんな骨になってしまっているが、そのまま放置しておいては決して報われることはないだろう。
埋葬することで、少しでも安らぐことが出来るのなら……そう思い、家族ごとに近くに埋葬した。それから、家の残骸なんかを<ノア>に呑み込んで貰い片付けた。
ノアと言うのは、黒い奴に俺がつけた名前だ。
ノアは、六年前ブラッド・ドラゴンに襲われそうになった時に現れた俺の力で、それ以来俺の相棒だ。聞いてみた所、十年前俺だけが生き残ったのも、ノアが守ってくれたかららしい。
あの時意識が途切れたのは、その時の俺ではノアの力に耐えられなかったからだと思っている。ブラッド・ドラゴンの時は、ハッキリと意識があったからな……。
ノアは俺の思いを感じ取り、それによって形を変える。あの時、ブラッド・ドラゴンを斬り刻んだのは、俺に「死にたくない」と言う思いを、敵を倒すことで形に表した結果なのだろう。
それと、刀や槍、槌や弓矢など、色々な武器の形にもなれるから、戦闘の幅も広がり、場所に応じた戦い方が出来る。
弓矢に至っては、矢が切れる心配が無いからかなり使い勝手が良い。
まあ、俺は専ら刀だが……槍や槌も試してはみたが、親父から受け継いだのか刀の形が一番なじんだ。だから戦う時は、すぐに刀として出てくる様にノアにも頼んでいる。
少し脱線したか……。
とりあえず、普段の状態のノアは質量などに何の関係も無く呑み込むことが出来る。聞いてみた所、限界は無いと言うから大した物だと思う。実際目の前でブラッド・ドラゴンが全て呑み込まれたのを見た俺としては、疑うことなど最初から無い訳だ。
現に今も、言い方は悪いが、ただの木と化した家の残骸をどんどん呑み込んで……見ている内に全部呑み込み終わった。一体呑み込まれた物はどこに行っているのだろうか?と気にはなるが、なんとなく怖い気もするので聞いていない。
もし、見せてやると言う意味で俺まで呑み込まれたらどうなるか……。
最後に自分の家の片付けを始めた。
と言っても、十年間使っていた家だからな……そこまで散らかってはいない。少し整理するだけで終わりにしようと思い、細かい塵や埃をノアを箒の形にして掃いて、それだけで終わりにした。
が、ノアが家の床を見てずっと動かなかった。
ノア?
呼びかけても返事をしない。こんなことは今まで無かったから、俺も気になりノアが見ている一点を見る。
ノア!
一瞬にして槌に変わったノアを振りかぶって床に叩きつけると、床を砕いたとは思えない、鋼を叩いた様なガキン!という音が響いた
そして出てきたのは、少し大きな木箱だった。
それだけなら、「なぜ、こんな物があるのか?」という単なる疑問だけで終わっていただろうが、それ以上に俺は――俺とノアは驚きを隠せなかった。
ブラッド・ドラゴンすら簡単に斬り伏せたノアの攻撃をいとも簡単にはじき返したのだから、「驚くな」という方が無理だ。
なんとか平常心を保ち、いつもの状態に戻ったノアにははじき返されても大丈夫な様に後ろで支えてもらい、俺はそっと木箱に手を伸ばした。
だが、警戒していたのは裏腹に俺の手は難無く木箱に届いた。
両手でゆっくりと箱を開け中を見ると、そこには綺麗に畳まれた一着の服と、その上に赤く輝く宝石が填め込まれたペンダントがあった。ペンダントを取り、次に服を取る。すると、その下に二つに畳まれた紙が置いてあった。
服とペンダントを下に置いて紙を取り、開く。
『我等が最愛の息子であるムラクモへ
お前がこの手紙を読んでいると言うことは、オレは今母さんに怒られているのか、それとも、オレもルミナも死んだのか……そのどちらかかも知れないな。まあ、どちらにせよ、お前ももう十六歳になったということか、めでたいことだな。
さて、本題に入ろう。
力のことは既に知っているな? その力はルミナからお前に受け継がれたモノだ。詳しいことは、使っていく過程で覚えてくれ。そろそろ母さんに変わる』
そこで、字は親父のモノからお袋のモノに変わった。
『愛しのムラクモへ
力のことは、お父さんが書いたとおりよ。どうしてか分からないけど、私はその力を生まれた時から持っていたの。それで何かがあったって言う訳じゃ無いんだけど、一つだけ伝えておくわ。
力の使い方をどうか誤らないで。
私が力について伝えたいのはそれだけよ。
さて、手紙を読んでいるなら、箱に入っていた服とペンダントも見てるわよね? その服は、昔お父さんが使っていた物よ? 見た目は只の着物と変わらないけど、物理攻撃や魔法に対する防御力はかなりの物だから、安心して良いわよ?
ペンダントは、私からの贈り物。
装備者の魔力を増幅させる力と、ある程度の魔法ならはじき返す力があるわ。
この二つがあれば何も問題ないわ! さあ! 自分の目で見て、自分の手で触れて、自分の足で世界を回ってきなさい! 村とは比べものにならないドキドキが貴方を待ってるわよ!
あ、それと、大事な人が出来たら連れてきてね? 楽しみにしてるから』
手紙はそこで終わった。
とりあえず、思ったのは……「お袋ってこんな性格だったっけ?」ということだ。それと、紙面とは言え、こうも急に変わられると呼んでる側としては少し戸惑う。
もしかしなくてもこっちが「素」なんだろうか?
黒い着物を着て、ペンダントを首から提げ、少し髪が邪魔だったから、首の辺りで束ねた。
準備を整えた俺は家の裏に回り、親父とお袋が眠っている場所に向けて手を合わせた。
『行ってきます』
口だけを動かし、心の中でそう言って、俺は外に向けてノアと共に歩き出した。
村の出入り口を出て、振り返り見たのは、家なんて一つも無いとても「村」とは言えない状態のハイス村。
十六年間過ごしたこの村に、思い入れが無い訳などなく、名残惜しい気持ちが胸に広がる。
そんな俺の気持ちを察してか、ノアがすり寄ってきた。
大丈夫だと、そう思いを込めながら撫でると、安心したのかそっと離れ、自分から消えた。
俺の意思に反応して出てくることが殆どだが、偶にこうやって自分から消えたり出てきたりする。
「…………」
さて、出発するとしようか。
何が起こるかなんて分からないが、それでこそ旅ってのは楽しい物だろう。
面白い奴にも会えるかも知れないしな。
指摘・批判・批評・誤字脱字報告、お待ちしております。
次はムラクモのプロフィールと世界の事を少し載せます。興味が無ければ飛ばしてくれて構いません。