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語ることの出来ない剣士  作者: 大仏さん
~海の支配者~
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第十二話・灰色の剣


「メルシア、良く寝てるね?」

『やっぱ、水掛けて貰えばよかったかもな』

「あはは」


 コマナシを目指し出発して一時間が経過するが、メルシアは未だ目を覚まさずムラクモの背で眠っている。


 余程ムラクモの背中が心地良いのかも知れない。


(そうだ。「キャシー」)

「ん?」

『コイツが寝てる間に出てきた魔物、全部お前が相手してみろ』

「え!? なんで?」


 いきなりのムラクモの提案に驚きを隠せないキャシーが大声を上げそう聞き、ムラクモは自分の考えを話した。


『例えばだ。お前が俺かメルシアのどっちかと戦うとする』

「うん」

『どっちかにでも一太刀入れる自信はあるか?』


 その問いかけに、キャシーは顔を俯かせ小さな声で「ない」と答えた。


 キャシーは、実戦経験こそまだ少ないが戦闘経験はムラクモ同様十年程はある。だが、ムラクモが毎日魔物との実戦経験を積んだのとは違い、キャシーは命の遣り取りが無い、悪く言えば温い戦いをしていた。例え戦闘経験を積んだ時間が同程度だとしても、その濃密さが違えば濃い方が強くなるに決まっている。


 キャシーもそれは分かっているのである。


(ムラクモとメルシアの動きは、今のわたしがどう足掻いてもついていける物じゃない。昨日の泉での戦いの時だって、メルシアは決して本気なんかじゃ無かった…………ムラクモと戦った時の速さ。あれに比べたら全然遅い)

(結構意地悪なこと言うのね……出来ればそれを私にして欲しいんだけど。まあ、キャシーの今後を思ってのことだろうけど……それにしても、この人の背中、気持ちいいわね)


 実を言うとメルシア、先程キャシーが驚きの声を上げた時に目を覚ましたがムラクモの背中にいたいが為に寝たふりをしていた。


(さて、どうするか。こいつは痛めると喜ぶからな……)


 そして、そんなメルシアに気付いているムラクモは、どうメルシアに制裁を加えようか考えている。


(「キャシー」)

「……あ、なに?」

『メルシアの脇腹を突つけ。こいつ起きてやがる』

「え、そうなの?」

『ああ』


 言われてキャシーはメルシアを見るが、寝ている様にしか見えず本当に起きているのかどうか分からない。だが、ムラクモが言うならそうなんだろうな、と思いながらさり気なくメルシアに近づき、


「えい」


とメルシアの脇腹を突いた。


すると、


「ひゃん!」


と、なんとも可愛らしい悲鳴を上げた。





「はいこれ、ウーティから貰ったアイテム」


 背中から降ろされた(落とされた)メルシアは大太刀をムラクモから受け取り背中に提げ、キャシーから水玉を受け取った。説明を求めるメルシアに、キャシーは自分かウーティから聞いたことをそのまま伝えると、メルシアは素直に感心し腰の荷物袋にしまった。


「さて、キャシーの特訓のことは賛成よ。それで、当面の目的はなにかしら? あ、一応言っておくけど、私は読唇術をマスターしない限り貴方たちと居るわよ?」


 言われなくとも、離れるつもりなど無かった二人は頷き、ムラクモが聞かれた当面の目的を二人に話した。


「アクア・ドラゴン、ね……世界中を泳ぎ回るドラゴン相手に、どう戦うつもり?」

『適当に見つけた所で角もぎ取る』


 そうキャシーから聞くとメルシアは、「そんな簡単なことじゃないわよ」と溜息混じりに言ったが、ムラクモは特に気にしていない風だったのでそれ以上何も言うきは起きなかったらしく、先に歩き始めた。


 その後を二人も追い、コマナシに向けて改めて出発した。




「そういえば、体術の方はどうするの?」

『教えるには教えるが、俺もお前も我流だろ? 誰か肉弾戦専門の奴でも居ればいいんだが』

「肉弾戦の専門家。ディロウアに行けば、見つかると思うけど」

「どうする? それまでに私たちの知識を教えても、却って分からなくなると思うんだけど。それとは別に、仮にディロウアで見つけても、教えてくれるからどうかが分からないわ」

(「だからって、それまでの間体術を教えないって訳にもな」)

「そうよね……」


 まるで娘をどう育てていくかを相談している様である。


 実際この時、馬車に乗っていた行商人とそれを護衛する冒険者達には、三人が家族の様に見えたとかなんだとか……。


「………………」

「………………」

(「うし。ここで考えても答えは出ん。とりあえず、コマナシに着いてから考えるぞ?」)

「……そうね。そうしましょう。貴女も、それでいいわね?」

「うん」


 結局そういうことになり、三人は無意識に止めていた足を三度動かし始めコマナシに向かった。



 二日後、コマナシに到着した一行は、門でギルドカードを提示し身分を証明した所で中に入った。


 始めに宿を取り、とりあえず一週間分の料金、五百ギールを払った後、二階の「209号室」、一番右端の部屋に向かう。


 別々に部屋を取るのは面倒と言うメルシアの発言により三人共同じ部屋となった。


 キャシーも特に抵抗は無かったらしくすんなり承諾した。


「資金は問題無いみたいだし、食料も泉で調達できたからギルド行きましょう。貴方たち、依頼を受けたことは?」


 二人は揃って首を横に振り、なんとなく予想していたメルシアは、「でしょうね」と言い、次に、依頼と平行してキャシーの特訓を行うと言った。最低限の荷物を持ち、三人は早速ギルドに足を運び、何か近辺で済む依頼を探している。


「ねえ、これ「『蒼い牙』が、オーガを仕留めたらしいぞ?」ん?」


 メルシアが、丁度良さそうな依頼を見つけ二人にどうか聞こうとした時、ギルドに入ってきた三人組の男女の内、一人の男がそう言ったのが聞こえ、そちらに視線を移した。キャシーもお案じ方向を見る。


 ムラクモは特に興味を示さず依頼を探している。


(討伐対象・マッシャー。数は二十。Dランク。……なんか……なんとなくだが、見た目むかつくな)


 ムラクモが見ている依頼書には討伐対象のマッシャーの絵が載っている。全長百九十㎝。体重六十㎏。頭部は傘の様に広がっており、その所為で目は見えない。長い腕を持っており、その腕を使って移動するが、戦闘時は武器として使うため移動が出来ない。


 特にむかつくような所は無いと思われるが、ムラクモは本当に何となくむかつくらしく、ジト目でその依頼書を見ている。


「ちょっと、聞いてるの?」

「ムラクモ?」


 二人の声が耳に入り、依頼書からメルシアに視線を移すと何かメルシアは不満気な声とは裏腹にその表情は嬉しそうだった。特に気にしないことにして、ムラクモは、「何だ」と口を動かす。


「メルシアがね? 『噂が立てば、誰も手を出してこなくなるんじゃないか?』って」

『噂?』

「そう。今入ってきた人たちが言ってたのよ。『蒼い牙がどうのこうの』って」


「噂」を読み取ることが出来たメルシアは内心喜びながら説明を始めた。


「私たちでパーティを組んで難度の高い依頼をこなしたり、強力な魔物を倒していけばその内噂が立つようになるわ。そうすれば、顔も知られることになるから下手に手を出そうとしてくる奴は減る筈よ?」

『成る程な……単純だが効果はありそうだ。それに、俺とキャシーは底ランクだしな。ランクの低い奴が大きな依頼をこなしたりすれば知名度も一気に上がりそうだ』

「うん、無理」


 まだまだ、長文を読み取ることは出来ないメルシアはキャシーに通訳を求めた。


「効果はありそうだって。それに、ムラクモとわたしはランクが低いから、それも利用すれば知名度を上げることもすぐに出来るかも、だってさ」

「あら、結構考えてるのね?」

『おう』


 依頼は後にし、三人は早速パーティ登録をすることにした。



 キャシーがギルド員に声を掛ける。


こういうことは率先して引き受ける為、自然と二人も任せることにし、後ろで話を聞くことにした。


・最低人数は三名

・最高人数は六名

・パーティ名の変更はメンバー全員が賛成した場合に限り可

・依頼はパーティ内の最高ランク冒険者の二段階上まで受けることが出来る


 最低限の説明をした後ギルド員はカードの提示を求め、三人はカードを出した。その後、何か作業があるらしくその間にパーティ名を用紙に書くように言ってギルド員は奥へと消えた。


「パーティ名……どうする?」


 キャシーが問うたが、二人共そんな物は全く決めていなかった為答えられず、キャシーも同様だった。結局ギルド員が戻ってきても名前を決めることは出来ず、決まったらまた来てくださいと言われ、テーブルに座る三人。


 誰も何も言わず中央においている用紙を凝視する様は何とも異様な光景に見えることだろうが、三人はそんな周りの視線に全く気付かなかった。


「『おかしな三人組』?」

「却下。何が悲しくて自分たちをおかしいなんて言わないといけないのよ」

「だよね」

『『おかしな三兄妹』』

「『おかしな』は、なんとなく分かったけど却下。とりあえずそれから離れて」

「じゃあ、メルシアは何かあるの?」

(確かに)


 言われてメルシアは考え込み、暫くしても何も浮かんでこなかったのか目を閉じて黙考してしまった。その間に二人は飲み物と軽食を注文し、少し早めも昼食を摂っていた。


 ちなみにムラクモはサンドウィッチ、キャシーはイノセイドから取り寄せられたと言う米と味噌汁、焼き魚を食べている。


一応メルシアの分も飲み物だけ頼んでおいた。



(黒い三人組み……キャシーは黒くないか。えっと……ムラクモと私の属性は闇。キャシーは光でしょ。マナの色は黒と白…………黒白三人組? いやいや、三人組から離れよう。う~~~ん…………黒と、白。混ぜたら……灰色。私たち三人の武器は、共通して「剣」。「灰色剣」? 違う…………あ!)



 メルシアはパーティ名を思いつき、それを伝えようと目を開けたが見たのは、


「ご馳走様でした」

「人が考えてる時に何ごはん食べてるのよ!」


手を合わせるキャシーとムラクモだった。


 メルシアは思わず切れてしまい、テーブルに両手を叩きつけ、倒れそうになったグラスを全てノアがキャッチしなんとか事なきを得た。


 周りの者が注目したことはわざわざ言う必要は無いだろう。


「あ、メルシア。名前、浮かんだの?」

「貴女ねえ……まあ、いいわ。ええ、考えたわよ」

(「なんて名前なんだ?」)


 ムラクモに聞かれ、メルシアは一つ咳払いをしてその名を答えた。




「『灰色のつるぎ』なんてどうかしら?」




 結構良いと思うわよ、とメルシアは最後に付け加えた。


「へえ、格好良いね」

「ありがと。貴方も、良いかしら?」

『ああ』

「じゃあ、決定だね」


 キャシーが用紙に「灰色の剣」と書いた。


「あら、可愛らしい字ね」


 文字を見たメルシアが言うと、キャシーは少し顔を赤らめた。


 この時のキャシーは、周りの男性陣から見ると大層可愛らしく写った様で、近くに居た殆どの男性陣が見惚れていた。


 そんなことに気付かず、ムラクモは席を立ち、キャシーの横に立つと頭を撫で、メルシアをコツンと軽くノアが小突いた。


「あん」



 その後、パーティ登録を終えた三人は依頼を受けるのは明日からにし、キャシーの特訓を始めることにした。


レークナで金髪男と戦った時同様、ギルドの裏庭にて行われる。


「それじゃ、まずは私が相手をするわ」


 大太刀は背負ったまま抜かず拳を構えるメルシアに対し、キャシーは若干不満気な顔をしながら、何故剣を抜かないのか尋ねるが、メルシアは「今の貴女には必要ないからよ」と言い切った。


「じゃあ、わたしも抜かない」

「いいえ、貴女は抜きなさい。これは体術の練習じゃないの。剣を使わないと意味が無いわ」

(まあ、そう言ってる本人が抜いてないんだがな……)


 半ば呆れているムラクモだが、言っても聞かないんだろうな~、と思い何も言わないことにした。


「でもメルシアは抜いてない」

「二度も同じことを言わせないで。今の貴女には必要ない。ほら、早く掛かってきなさい? この時間すら惜しいんだから」


 その言葉にキャシーはムキになり剣を抜いてメルシアに突っ込んだ。


(あれくらいで怒るなよ……会った時の方がまだマシだ)


 ムラクモがそう思うと同時に、メルシアはキャシーの一撃を難無く躱した。そして拳を突き出し寸止めすると、拳圧によりキャシーの髪がふわりと揺れた。


「駄目。戦闘中に目を閉じるなんて殺されても文句言えないわよ。ムラクモ、キャシーを縛って」

「え?」

(「任せろ」)

「え? ちょ、ムラクモ? じ、冗談……だよね?」

「ふふ~ん」

「あ、あはは」


 楽しそうに笑うメルシアとは正反対に、キャシーは乾いた笑みを浮かべながら後退りするが、


「冗談――――な訳無いでしょ! ムラクモ!」


 元気に言い放ち、ムラクモもそれに応じてノアを出しキャシー捕らえた。


「ちょ! 待って待って!」

「待たない。ムラクモ、このまま宿に戻るわよ」

『おう』


 シュヴァイスはノアが拾い、キャシーは抵抗空しく宿へと連行された。




「うぅ~……」


 部屋に戻ったムラクモはキャシーを椅子に乗せ改めて縛り直した。もちろん加減はしているが、キャシーではどうすることも出来ない。


「それじゃ、始めるわよ? 私がさっきみたいに寸止めするから、目を閉じないように頑張りなさい。あ、そうだ。ムラクモ、時間掛かると思うからドラゴンキラーを武器屋に持って行ってくれない? 研ぎたいんだけど」

『それならノアに頼めば出来るぞ? 一瞬で終わらせてやる』

「うう…………『ノアに頼めば一瞬で済む』って」

「そう? じゃあ、お願いするわ」

『おうよ』


 ムラクモは特訓を始める様に言い、メルシアは早速キャシーに向き直った。少しは時間稼ぎが出来るかと思っていたキャシーだったが、自分自身が短縮させてしまった為少し後悔していた。


(でも怒られそうで怖い)


 まるっきり子どもの様な理由だが、仕方ないだろう。


 その後三時間程、209号室内にはキャシーの短い悲鳴が響いていた。




「うう……怖い……」

「今日はこれくらいで良いわね」



 メルシアが終了宣言をし、ノアによる拘束が解かれたことでキャシーは気を抜いてしまい、


「フッ!」

「ひゃっ!」


メルシアの拳に一切反応出来なかった。


 もちろん寸止めだったから傷は無い。



「やっぱり直ぐには上手く行かないか……まあ、いいわ。これから先、不意打ちするから私の一挙手一投足を見逃さない様に。ああ、もちろん読唇術の練習中も例外じゃないから」

「う……分かった。ムラクモは……?」


 もしかしたらムラクモもやるのではないかと思い、一応確認しておこうと聞くキャシー。


『まあ、メルシアの拳に反応出来ないんじゃ、俺のは無理だろうが……そうだな、メルシアより少し早い程度で、俺も偶に参加するよ』

「偶になら、大丈夫かな」

「ッ!」

「ひゃっ!」

「気を抜かない」

「は……はい」


 思わず気圧されたキャシーは敬語で返事をしてしまった。



((当分は休まる暇がないよ(な)……))



 二人は同時にそう思った。




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