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語ることの出来ない剣士  作者: 大仏さん
~二人の少女~
12/18

第十一話・神の泉を護る者



 泉に近づくにつれて雨は勢いを増して行き、今はまともに前を見ることが出来なくなっていた。


「やっぱり……ウーティが原因なのかな?」

「そう考えるのが妥当ね。あら、どうやら到着したみたいよ?」


 メルシアがそう言い、ムラクモとキャシーも目を凝らして前を見るとそこには黒い泉があり、周りには大量の魔物達がいた。


「この雨の中で戦うのは危険だけど、通らなければいけない以上は戦うしかないわね」


 そう言いながら大太刀に手を掛いつでも抜刀出来るようにメルシアは構え、ムラクモも既に刀を手にしていた。キャシーもシュヴァイスに手を掛、構えた。


 ムラクモは二人に目配せし、先に行くことを伝えると同時に駆けだした。



「ガア!」



 五体のヘルガルムがムラクモの姿に気付き吠えたが、その時には既に遅くムラクモは刀を振るっていた。最期の声を上げるまもなく絶命した五体はノアに呑み込まれ、それを見た辺りの魔物達は警戒を強くした。


 キャシーとメルシアもそれに続き、雨の中の戦闘が始まった。




「キャシー、後ろ! そのまま振り払って!」

「うん! メルシアも、左右から来てるよ!」

「ええ!」


 メルシアはキャシーの、キャシーはメルシアの目の届いていない所をカバーし合いながら戦っていた。


 キャシーは言われた通り体を後ろに回転させると同時にシュヴァイスを振り、襲いかかってきていたガルムを斬り裂き、メルシアも同じようにその場で回転し左右から来ていたラビ達を斬り裂いた。更にその勢いを活かし、上空から来ていたガルーを下からの振り上げで両断する。


 そうして、敵を倒した二人だが、最初の一体を斬った時から何か違和感を感じていた。


(ここに来るまでに戦ったガルム達よりも強い?)

(変ね。ここの魔物達、周囲の魔物とはレベルが違う)

「メルシア、気付いてると思うけど」

「ええ。泉の影響、ね!」


 お互い背中合わせの状態になり、違和感のことをキャシーが言うと、同じことを感じていたメルシアは魔物を斬り伏せながら答えを言った。


「でも、ムラクモはいつもと変わらないね?」

(「なにも違う所なんてないだろ?」)


 会話の聞こえていたムラクモはノアでそう文字列を作りながらも辺りの魔物達を次々と倒して行っており、それを見たメルシアが呆れた様に溜息を付いたがすぐに気持ちを切り替え魔物の討伐を再開した。


「それにしても……どこからこんなに湧いてくるのかしら?」

「もしかして、森中の魔物が来るとか?」

(そういうこと言うと、ホントにその通りになるから不思議だよな……)


 ムラクモがそう思うと同時に、森の四方八方から一斉に魔物達が現れムラクモ達に襲いかかった。


「うそ」

「いい加減にして欲しいわね」

(じゃ、一掃するか)


 そう決めたムラクモはノアを全方位に展開させ、魔物達を一体残らず倒した。


「………………」

「………………」


 その光景を見た二人は何も言えなくなり、その場に立ち尽くしていたが、次の瞬間泉の中央から蒼い服を着た女性が飛び出してきたことにより現実に引き戻された。


(お出ましか)


 その女性はムラクモの前に立ち、水の剣を作り出し予備動作も無く斬り掛かったが、ムラクモはそれを受け止めた。


「ウーティ!」


 女性の姿を確認したキャシーがその名を叫んだ。だが、ウーティはムラクモだけに集中している様子で、キャシー達の方は見向きもしなかった。




――――助けて




 ウーティの剣とぶつかった瞬間、ムラクモはその声を聞いた。それは紛れも無くウーティのものであることが、ムラクモは理解することが出来、


『初端からそのつもりだよ。待ってろ。楽にしてやるから』


相手に伝わらないことを承知の上で、そう言った。


(「お前達は魔物を頼む。コイツは俺がやる」)


 ムラクモはキャシーとメルシアにそう伝え、ウーティとの戦いに集中した。


 剣を弾き、右袈沙斬りを繰り出したが、ウーティは一歩下がって躱し水の剣を左手にも作りだし二刀流となり反撃を始めた。


 回転斬りから両腕を交差させて振り上げた状態から斜め十字に斬り、更に左での突きを放つ。ムラクモはそれらを全て躱し、剣を粉砕する為ウーティが持つ左の剣を打ち砕いた。

 だが、水属性の上級魔物であるウーティは、大気中に存在する水のマナを集めいくらでも剣を作り出すことが出来る。その力によって、すぐに左の剣は復活した。


『厄介だな』


 悪態をつきながら、また剣を砕こうとするが、ウーティもそう来ることは分かっていた様で、躱すのでは無く突っ込んだ。一気に自分の有利な状態に持って行く為だ。

 左右からの連続斬りに体術を織り交ぜ、更には降っている雨までも操り、様々な攻撃を繰り出す様になったウーティに対し、ムラクモも二本の刀を使い、ノアにスカイブルーを使わせて応戦した。

 泉には何度も何度も甲高い音と尚勢いを増し続ける雨の音が響いていた。






 人と魔物の血で穢れてしまった泉と、その泉を護るウーティ。


 飲んだ者の体を癒すと言われる効果を持つ水はその効果の一切を失い、全く逆の効果を飲んだ者に与えることになってしまった。


「飲んだ者の体を蝕む」と言う効果を……。


 だが、その時泉の色は正常であり誰も異常がある等と考えもしなかった。


 周りには魔物や兵士の死体があったが、それらはここに辿り着いた所で力尽きた、もしくは衰弱していた状態で魔物との戦闘になってしまい、相打ちとなったのかと思う者が多かった。


 だが、ある時三人の兵士が、隊長の命で水を汲みに泉に向かった。


 泉に着いた三人は、周りにある兵士の死体に黙祷を捧げ、水を汲んだ。


 帰ろうとした所で、喉が渇いていた一人の兵士が泉の水を飲み、それを見た二人は笑いながら、後で飲めよと言ったが、飲んだ兵士の様子が可笑しいことに気付き笑みを止めた。


 近寄って声を掛けると、兵士は少し遅れて反応したが、顔色が異常な程悪くなっており、まともに立つことすら出来なくなってしまい、その日の夜に死んでしまった。


 全くの健康体であったにも関わらず、その兵士は命を失い、他にも何人もの兵士が命を失った。


 一緒に水を汲みに行った三人の内二人が死んでしまい、残った一人が泉に原因があるのではないかと疑問を持ち、その翌日他の兵士も共に泉に向かった。


 その時ウーティは、これ以上人が近づかない様にしようと外に出ていたが、運悪くそこで兵士達が来てしまった。


 言葉の通じない種族が出会ってしまえば、結局戦うことになってしまい、ウーティは自分の所為ではないことをなんとか伝えようとしたが、兵士達はそんなウーティに構わず攻撃を仕掛けた。







――――助けたかっただけなのに…………人も魔物も、何も聞いてくれなかった。わたしが悪いんだって、決めつけて、何度も何度も泉を荒らされて……沢山血を浴びて……泉もわたしも穢れてしまった。もう、これ以上は、自分を抑えることが出来ない。だから、お願い。わたしを消して





ウーティの瞳からは、涙が止め処なく溢れていた。





『ふざけんな。消してたまるかよ。言っただろ、元より助けるつもりだって……』


 そう言った瞬間、ウーティはムラクモから離れ、泉の中へと飛び込んだ。ムラクモもノアを球状にし、泉に飛び込む。




「まずいわね。水の中じゃ、ウーティは無敵よ」


 ウーティの討伐ランクが高い理由は、もちろんその強さにもあるが、真の驚異はテリトリーである泉の中から繰り出される攻撃にある。泉の水全てを操り出される多種多様な攻撃により、どんだ手練れの戦士は魔術師だろうとその攻撃を完全に防ぐことは出来ない。加えて、それまでにどれだけのダメージを与えていたとしても泉の中に入られてしまえば回復する。

 だが、本来ウーティは好戦的な魔物ではなく、この討伐ランクは戦争以降付けられた物だ。


 今、ウーティは水の中にいる。それがどれだけムラクモにとって不利なのか、メルシアはそのことをよく理解していた。


「大丈夫だよ」

「え?」


 だが、同じように見ていたキャシーは、そんなメルシアの心配など気にせずそう言った。顔には笑みさえ浮かべている。


「ねえ、メルシアはムラクモのギルドランク、知ってたっけ?」


 そして視線は、ムラクモに向けながら突然聞いた。メルシアは首を横に振るが、ウーティと互角に戦っていることから高ランクだろうと思っていた。


「Fだよ」

「嘘ね」


 聞いた瞬間、メルシアは否定した。キャシーも、概ね思った通りの反応が返ってきたことに苦笑ししながらも、「本当だよ」と言った。


「メルシアが、ムラクモと金髪男の勝負を見ていたのか分からないけど、相手はBランクだったの。でも、ムラクモは圧勝した」

「それは私も見ていたわ。でも、彼はAランクの私にも勝ったのよ? それなのに『F』? 冗談にしか聞こえない」

「私だってそうだったよ。見てた訳じゃないけど、ムラクモはワイバーンすら一瞬で倒した。それなのに、カードに表示されたランクは間違いなく『F』」


 メルシアのランクがAだということに驚きながらも、キャシーはそう言った。


「でも、戦ったメルシアは良く分かってるんじゃない? ムラクモの強さ」

「それは……」


 そう言われると、メルシアは何も言えなくなった。


「ね? だから今は、信じて待とう?」


 キャシーは屈託無く笑いながらメルシアに言った。


「はあ……分かったわよ」


 観念したのか溜息を付きながら、メルシアはそう言った。




 水の中に入ったムラクモは、底にノアをのばして刺し引っ張られる形で一気に潜った。目の前には二本の剣を持ったウーティがおり、周りには泉の水で作ったと思しき剣が数十本は浮いていた。

 それらは、水の色と同化しており目視することは難しいが、ムラクモにとっては特に関係のないことだ。


(「こい」)


 瞬間、全ての剣がムラクモに向けて放たれたが、高速回転したノアが全て弾きそれを防ぐ。


 その回転の影響を受け、泉がムラクモを中心に渦を巻き始め、次第に水は竜巻となり上空に昇っていきウーティの隠れる場所は一切無くなった。竜巻の中なら入ることが出来るだろうが、いくらウーティと言えど高速回転する水の中では自由に動けない。


「ちょ、何よこれ!?」

「ムラクモ、こんなことも出来るんだ……なんか、あれだね? ついさっき言っておいてなんだけど、Fとは思えないね?」


 また苦笑しながら言うキャシーを見て、メルシアもまた溜息を付いた。


(さて、そろそろ終いにしようぜ?)


 まるでその思いが分かった様に、ウーティは竜巻と化している水を無理矢理操り、降っている雨も交えて巨大な水球を作り出した。


(来るか)


 ムラクモはノアを刀に戻し、迎撃体勢を取る。


 その間にもウーティは水球を巨大にしていき、それが直径二十メートルを超えた辺りで一気に凝縮し始めた。それは掌程の大きさとなり、ウーティは前に尽きだした両手の中央にその水球を構えた。


「ちょっと……あんなの、喰らっても避けてもどの道辺りは無事じゃ済まないわよ」

『お前等。一応離れとけよ?』

「メルシア、ムラクモが離れておけって……どうする? わたしは残るけど」

「私だって残るわよ。言われたから『はいそうですか』、なんて気が済まないわ」

「だよね。というわけでムラクモ! 頑張れー!」

『お前等……』


 溜息を付いたムラクモは言っても何も聞かないだろうと思い、ウーティの攻撃に集中することにした。ウーティは、凝縮した水球に更に雨を取り込んだのか、少し大きくなった水球をまた凝縮していた。


(今降ってる雨が全部集まったらどうなるんだ?)


 等と思っていると、


「ムラクモ! 来るよ!」


キャシーの声が聞こえ、ムラクモがウーティを見た瞬間、水球は放たれた。


 全身の力を一瞬だけ抜いたムラクモは、眼前に迫った水球を打ち上げた。


「「は?」」


 キャシーもメルシアも、そしてウーティもあまりに予想外のことだったのか上を見る。そして空高く打ち上げられた水球は停止した所で一気に弾け、凝縮されていた水がムラクモ達のいる所に一気に降ってきた。


「な! あんたね! もう少し別の所に打ち上げなさいよ!」

『だから離れてろって言っただろ!』

「離れてろって言っただろって」

「こんなことするなんて思わないわよ!」

『知るか!』

「知るか、だって」

「貴女も! どうしてそんなに暢気なのよ!」

「ええ! わたしにくるの!? ムラクモ!」


 慌てる二人を他所にムラクモは盛大な溜息を付き、ノアを上空に広げた。降り注ぐ水は全てノアが受け止め、包み込んだ後そこに停滞する。ムラクモはその間にウーティに接近し、鳩尾に掌底を打ち込んだ。


『悪いな? 暫く眠っててくれ』



 薄れゆく意識の中でウーティが見たのは、困った様な笑みを浮かべるムラクモだった。





――ありがとう





 そう一言言って、ウーティは意識を失い、ムラクモに寄りかかる様にして倒れ、ムラクモはしっかりとその体を抱き留めた。


『よく頑張った』


 抱きかかえ、泉から上がったムラクモはノアをゆっくりと泉の降ろしそこで通常の状態に戻させた。するとノアが包んでいた水が泉に広がり、泉は見た目だけは元の状態に戻った。


 その後、ノアが魔物達を収納し、適当な所で三人は休憩することにした。





「ちょっと、これがホントにガルムなの? 食べたことが無い訳じゃないけど、とても信じられないわよ?」

『んだよ? 調理するとこ見てただろ?』

「なんて言ったの?」

「調理するとこ見てただろって。まあ、いいんじゃない? 美味しいごはんが食べられるんだからさ」


 キャシーのその言葉にムラクモの隣で同じように肉を食べているウーティは何度も頷いた。


 ウーティは、寝具に変形したノアの中で眠っていたが、ムラクモが調理を始めて暫くすると匂いに釣られたのか目を覚ました。そしてムラクモを見るといきなり飛びつき、それから離れなくなった。


 その時、キャシーがまた羨ましがっていたのは別のお話。


「ほら、ウーティも美味しいって言ってるし」

「……そうなんだけどね……。まあ、いいわ。それで、ウーティ? 泉はどうするの?」


 急に話を振られたウーティは食べていた肉が詰まってしまい慌てて水をのみ、背中を軽く叩いてくれたムラクモにお礼を言うように手を挙げ、立ち上がり泉の中央に立った。


 ムラクモ達もその様子を見る。


 ウーティが目を閉じ、両腕を広げゆっくりと上に上げると、泉から小さな水球が浮かび上がり、ウーティの頭上で一つに集まっていった。その集まっている物は、先の戦いで泉に混ざった雨や、人と魔物の血等であり、この泉を穢してしまった原因となる物だった。原因が取り除かれた泉は、黒から本来の透き通った青に戻った。


 ウーティはそれを凝縮した状態で右手に持ち、ムラクモに差し出すように手を出した。


 ムラクモもそれで理解し、ノアを出す。


 ノアはウーティにゆっくりと伸びていき、右手にある水球を呑み込んだ。


「これで元通り?」


 戻ってきたウーティはまたムラクモにくっついた。余程気に居られている様である。


 メルシアの疑問を解消すべく、ムラクモは畔に屈み水を両手で掬い一口含んだ。


「どう?」

『大丈夫だ。まあ、前の味を知らねえから良く分からねえけど、かなり美味いよ』


 キャシーとキャシーから聞いてメルシアも同じように水を掬い一口飲むと、直ぐに美味しいと言った。


 その様子を見ていたウーティは、もう水を飲んで苦しむ者が出なくなったことを喜び、そっと涙を流した。


『頑張ったな』


 ウーティの頭を、ムラクモはそっと撫でた。


(なんか、旅に出て毎日こんなことしてるな……俺)


 その後、夕食を食べ終わった四人は寝ることにし、キャシーとメルシアはノアに包まれて直ぐに眠りに付いた。ムラクモは見張りも兼ねて起きており、ウーティはそんなムラクモに寄り添っていた。


 月明かりに照らされる二人は、傍から見ると夫婦にでも見えるのではないだろうか?


(「寝なくて良いのか? まだ疲れはとれてないだろ?」)

(「貴方たちは明日にはここを去るのでしょう? だから、せめてそれまでの間はこうさせてください」)


 ノアを使い文字列を作るムラクモに対し、ウーティは水を使って文字列を作り答えた。


(「確かに去るけどな……二度と来ない訳じゃないぜ? いつになるかは分からねえけど、また来るしな」)

(「本当ですか?」)


 ムラクモは頷いて返した。


(「そうですか。では、その時を楽しみにしていますね?」)

(「ああ。なんか土産でも持ってくるよ。何がいい?」)

(「本当にいいんですか?」)

(「おう」)

(「では、ファイゼンで作られる、お水を頼んでもよろしいでしょうか?」)


 ファイゼン大陸は、ガルデシアで一番水源が豊富なことで有名であり、様々な効果を与える水が売られている。身体能力を向上させる物や、毒や痺れなどを解消する物などが主であり、通常の毒消しなどの様に何度かに分けて使うことが出来、長旅をする者に取っては重宝される。


(「どんな水なんだ?」)

(「一時的に、言葉を話せない者でも話すことが出来る物です。例えば、わたしやあなた様の様に」)

(「そんな水があるんだな」)


 ムラクモは、自分には効果がないだろうと思いながら答えた。


(「はい。ですが、その水を作る材料は、<アクア・ドラゴン>からしか手に入れることは出来ませんから、まずは海を泳ぎ回るアクア・ドラゴンを倒さないといけないんです」)


 龍種はその殆どがライドメイル大陸にいるが、アクア・ドラゴンの様に世界中の海を泳ぎ回る者も存在しており、年に何度か被害を受ける船が出ている。といっても、アクア・ドラゴンにとってはただ泳いでいるだけなのだが……。


(「へ~。ま、大丈夫だろうさ。それで、どうしてファイゼンじゃないと駄目なんだ?」)

(「アクア・ドラゴンの角から、その水を作り出すことが出来るのは、ガルシデアでもファイゼンだけですから」)

(「じゃあ、どっかで船でも手に入れて海を回ってアクア・ドラゴンをぶっ飛ばして角もぎとってファイゼンに持って行けばいいんだな?」)

(「大雑把に言えば、そういうことですね。お願いできますか?」)

(「ああ。次来る時はその水を持ってくるよ」)

(「ありがとうございます」)


 ウーティは笑って、更にピッタリとムラクモに寄り添った。




 それから暫く経ち、ウーティもノアに包まれ眠りについた。




 ムラクモは、眠る三人の周りをノアに護らせ、ずっと月を見ていた。






 翌日、目を覚ました三人はノアが汲んだ水で顔を洗い眠気を飛ばした。ウーティも、疲れは綺麗にとれているようだ。


「おはよう、ムラクモ」

『おう。メルシアはまだ眠いのか?』

「メルシア、まだ眠い?」


 キャシー、ウーティ同様水は浴びたが、どうやらメルシアだけはまだ眠気が残っているらしく、うとうとしていた。


「う~……」

「眠いみたいだね」

『だな』


 結局メルシアは目が覚めるまでムラクモが背負うことになった。


 昨日の様に、ムラクモが大太刀を落下防止として使いメルシアを背負い、キャシーは胸当ての調整をして準備を終えた。


 泉の出口までウーティは見送る為ともう一つ用事があり付いてきた。


(「これを」)


 ウーティが差し出したのは、小さな三つの水球だった。


「なに?」


 手が塞がっているムラクモの代わりにキャシーが受け取りそう聞くと、ウーティは簡単に説明した。


(「それは大気中にある水属性のマナを常時少しずつ吸収する物です。小さいですが、かなりの量の水を確保出来るので、砂漠などでは役に立つかと」)

「へ~……すごいね。ありがとう」

(「いえ。それから、ムラクモ様のその短刀、それにわたしの力を宿しておきましたので、海等、水の中でも呼吸が出来ます。アクア・ドラゴンと戦う際や火属性の魔物と戦う際は御活用ください」)

(「おお、サンキュ」)

(「いえ。メルシアさんにもよろしくお願いしますね?」)

「うん。それじゃ、そろそろ行くね?」

(「水、持ってくるからな? まあ、気長に待っててくれ」)


 ウーティは笑顔で頷いた。


 ムラクモはノアに代わりに手を振って貰い、キャシーは後ろ歩きをしながら両手を振ってムラクモの後を付いていき、泉を後にした。




――いつまでもお待ちしております。ムラクモ様




 三人を見送ったウーティは空を見上げ、またムラクモに会える日を楽しみにしながら泉の中に戻った。


次は、キャシー、メルシア、ウーティのことを載せます。

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