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語ることの出来ない剣士  作者: 大仏さん
~二人の少女~
10/18

第九話・出来る者の感覚、出来ない者の感覚


『まさかそのまま寝るとはな……』

「戦闘の疲れ、っていうよりは、泣き疲れたのかも知れないね? 見た目より、成長してる訳じゃないのかな?」


 あの後、暫く待っていた二人だが、突然少女が静かになったことに疑問を持ち見ると少女は眠ってしまっていた。結果、大太刀を落下防止に背負い、その背中で少女はすやすやと寝息を立てており、今はレークナへの道をゆっくりと歩いている。


『ま、コイツよりもお前の方が年は下だろうけどな?』

「それとこれとは関係ないもん……そういえば、わたし何歳か言ったっけ?」

『言ってないな』

「十四歳」

『おお。当たってたか』

「え? 分かってたの?」

『十四~五辺りかな、とは思ってた。あ、そういや、EXの下って何だ?』


 その質問に一瞬首を傾げたキャシーだが、すぐにギルドのことと分かり、「SSSトリプルエス」と答えた。そして、「その下に、『SSダブルエス』『S』『A~G』まであるの」と、そう付け加えた。


『てことは、あの金髪は結構強かったんだな?』

「だからそう言ったでしょ? まあ、確かにムラクモが最初から最後まで圧倒的だったけど……その衣装にすら掠ってなかったし」


 キャシーのその言葉を聞いたムラクモは、感心した。


 恐らく、あの場にいた殆どの人間がムラクモか金髪男の動きに夢中になっていたであろう中で、そこまで細かく見ることは余り出来ないだろう。だが、キャシーはしっかりと見ていた。


(その目はいつか武器になるかもな……)


 ムラクモはキャシーの成長が楽しみになった。


 尤も、そんなに長く一緒にいるかどうかなど分からないが。




 レークナへと戻ってきたムラクモ達だが、少女は未だに眠っており、仕方なくそのまま宿に向かった。空いていた大部屋を取り、ベッドに寝かせ、二人もそれぞれベッドに腰掛ける。


「中々起きないわね? この娘」

『まあ、いいんじゃねえか? 俺達も、明日まではいる訳だしな』

「………………」

『どうした?』


 急に黙り込んだキャシーにムラクモは問いかけ、キャシーは気になったことをムラクモに聞いた。


「ムラクモはさ、どうして会ったばかりの人に、自分のことを教えられるの?」


 少女が戦う前に尋ねたことにも、始まりの森を抜けた後、キャシーに尋ねられたことにも、渋ることなくあっさりと答えた。ムラクモと出会い、まだ一日も経っていないが、冷静になって考えてみれば、聞かれたからと言って誰でも自分のことを教えてくれる訳では無い。


 キャシー自身、素性は聞かれた所でおいそれと教える訳にはいかないのだから、尚更にそう思っている。


『? 別に理由はねえよ。聞かれたから答えただけだ』


 だが、ムラクモから返ってきた答えは、そんな単純な物だった。


「じゃあさ……ムラクモの質問にわたしが答えなかったどうする?」

『答えたくないなら答えなくていいだろ? どうしたんだ?』

「…………ううん。何でもない」

『そうか? ならいいが』

「あはは……それで、この娘が目を覚ましたらどうするの?」

『別にどうもしねえよ。何をしようとコイツの自由だ。結果何が起きようとな』


 一見冷たく聞こえるかも知れないが、少女自身がそう言ったことを知っているキャシーは納得した。




 陽が沈み、外が完全な闇に包まれた頃、少女は漸く目を覚ました。


「……ここ……は?」


 上体を起こし辺りを確認した少女は、今自分がいるここが宿だと言うことを起き抜けの頭でなんとか理解したが、そうすると次は何故自分がここにいるのか、という疑問が浮かんでくる。


 それを考えている時、足音が聞こえた少女は一気に意識が覚醒し側にあった大太刀を抜いた。


「――さかガルムがあんなに美味しくなるなん……」

「ハッ!」

「ヒッ!」


 扉が開くと同時に天井を削りながら大太刀を振り下ろした少女だが、その剣はキャシーの後ろにいたムラクモによって簡単に止められた。


「あわわわわ」


 余程怖かった様で、キャシーはムラクモに抱きつきガタガタと震えていた。


「貴方たち」

(「よ。元気そうで何よりだ。とりあえず刀をしまってくれ」)

「あ、ええ。ごめんなさい」


 言われた通り刀をしまった少女を確認し、ムラクモはキャシーの背を押しながら部屋に入り扉を閉めた。


「それで、どうして私はここにいるの?」

(「眠ったお前を運んできたからだよ。顔、洗ってきたらどうだ? 目が赤いぞ?」)

「え?」


 言われて少女は、目元に手を持って行き触れた所が少しヒリヒリすることを感じた。


「私……泣いたのね」


 そう独り言を呟いて、少女は洗面台のある浴場へ向かった。


(泣いたことがないみたいな言い方だったな……ま、いいか)


 そう考えながら、ムラクモはキャシーの頭に手を置き、


「うう……怖かったぁ~」


 ポンポンと、優しく叩いた。








「酷い顔」


 姿写しに写った自分の顔を見て、少女はそう呟き、もう一度冷水を顔に浴びせた。


「ふう。さて、これからどうしようかしらね」


 幾分スッキリした頭でこれからのことを少女は考える。だが、特段考える必要も無く、少女はどこか適当な所に行くことを決めていた。


(今までずっとそうしていたんだから、これからも何も変わらない)


 備えられている布を使い、顔を拭いた少女はムラクモ達の所に戻った。






(「お前、これからどうするんだ?」)

「どうもしないわよ。今まで通り、気の向くままに旅を続けるわ」

「ずっとそうしてきたの?」

「ええ。十年前からね。<マクトウェイ大陸>から、道に沿って歩いていたら、ここに辿り着いたの」

「へ~……」


 戻ってきた少女は、ベッドに腰掛け、何故か同じベッドで並んで座っている二人と会話をしている。その二人の内の一人、ムラクモに聞かれ答えた少女にキャシーがそう聞き、特に隠す必要も無いと思った少女はまた答える。


 その話に、キャシーは殆ど外に出られなかったこともあり、大きな興味を示した。


「何か面白い所とかあった?」

「これと言って、そんな所は無かったわ。それに、あったとしても十年前の<終焉戦争>で破壊されてたりする所が多いと思うわよ?」

「そっか…………残念だな」

(「終焉戦争ってなんだ?」)

「「は?」」


 聞き慣れない単語が聞こえた所で疑問の声を上げたムラクモに、二人は「コイツ何言ってんだ」と言う様な視線をぶつけた。


「終焉戦争のこと、知らないの?」

『ああ』

「十年前に起こった人と魔物の戦争よ? 歴史にも刻まれてるのに」

『んなこと言われてもな……ずっとハイス村にいたんだから仕方ねえだろ?』

「あ、それもそっか……じゃあ、簡単に説明するけど、いい?」

『ああ』

「ちょっと待って」

「――え?」


 まさに説明しようとしていたキャシーは突然止められ少女を見た。ムラクモも少女を見る。


「貴女は彼の言っていることが分かるみたいだけど、私は口を動かしているようにしか見えないの。今彼はなんと言ったの?」

「あ、そっか。えっとね? 『終焉戦争のことを、ずっと故郷にいて知らないから教えてくれ』って」

「成る程ね……それで、どうして貴女は彼の言っていることが分かるの? 声は出ないのよね?」


 ムラクモは一つ頷いた。


「読唇術だよ。口の動きで、ムラクモが何を言ってるか分かるから、わたしはそれに返してるの」

「貴女……それがどれだけ難しいことか分かってるの?」


 こともなげに言うキャシーに、少女は呆れたように言った。


「え? そんなに難しくないよ? やってみると結構簡単だし。貴女も……そういえば、貴女、名前なんて言うの?」


 今更? 二人は同時にそう思ったが、言うのも面倒だと思ったので言わなかった。


 一つ溜息を付き、



「メルシアよ」



少女はそう名乗った。



「わたしはキャシー。よろしくね? それで、メルシアもやってみる?」

「やるって……読唇術?」

「うん」


 少女二人が話し始め、暇になったムラクモはベッドに寝転がり、またノアとじゃんけんをして遊んでいた。


「(まあ、暇潰しにはなるかしらね)ええ、やってみるわ」

「それじゃ、わたしが何か言ってみるからそれを当ててみて?」

「ええ」

(終焉戦争のことはどこに行ったんだろうな? まあ、いいが。さて、五回連続で勝った奴が勝ちだからな? 気張って行くぞ? じゃんけん! ポン! あっ、くそ!)

「(ムラクモ)」

「『すあきゃ』?」



 全く違う新たな言葉が生まれた。



 ムラクモはそれを聞いた途端、吹き出しそうになったがなんとかこらえじゃんけんを続行した。


「(いや)」

「『びゃあ』」

「(かぜ)」

「『まえ』?」


 やはり中々難しい様で、その後一時間程掛けてやっと正解したのが、


「『ムラクモ』?」

「あ、正解」


 その言葉だった。


 途中、ムラクモは笑いすぎたことで引きつけを起こし、これ以上部屋にいると笑い死にすると思い外に出た。


「やったね。じゃ、次行くよ?」

「ええ」

「(キャシー)」

「『きゃー』?」

「悲鳴じゃ無いんだから……。次ね、(ノア)」

「……『もあ』?」

「惜しい」

「ふう……やっぱり難しいわね。貴女、どうしてこんなことが出来る様になったの?」

「え? なんとなく、『出来るかな~』って思ってやってみたら出来た」

「…………」


 果たしてそんな簡単にできて良い物だろうか、とメルシアは疑問を感じずにはいられなかったが、あまり細かいことは気にしないことに決め、その後も読唇術の練習に励んだ。






(「終焉戦争」、ねえ……確かにハイス村は、名の通り終焉を迎えた訳だが……まあ、いいか。今更気にした所で何が変わる訳でもねえし)


 宿の外に出ていたムラクモはそんなことを思いながら空を見上げた。


 ハイス村では、上空に遮る物など存在せず煌めく星々を眺めることが出来たが、レークナは建物が建ち並んでいて見える空の範囲が限られている。そのことに不満を感じたムラクモは屋根の上から見ることにして、宿の屋根に跳んだ。


(やっぱ空ってのはどこで見ても綺麗だな……)


 組んだ手を頭の下に回し、寝そべって空を見上げるムラクモ。


 陽が既に落ちているからなのか、人の姿は殆ど見当たらない。


(いたら怪しいとは思うが。そういや、角の加工終わってんのかな?)


 金髪男と戦った後、ムラクモとキャシーの二人はワイバーンの角を加工して貰う為武器屋へと赴き、店主に見せた所、「明日まで掛かる」と言われ、明日まではここレークナに滞在することを余儀なくされたが、もしかしたらもう終わっているのではないかと思い、行ってみることにした。


 屋根を伝いながら武器屋の屋根まで行って下に降り、灯りが点いていることを確認したムラクモは中に入った。


「ん? おお、朝の兄ちゃんか。丁度良かった、さっき角の加工が終わってな……持ってくるから少し待ってろ」


 白髪に眼鏡を付け、作業着を着た人の良さそうなおじさんは、ムラクモを見るとそれだけで用件を理解し、そう言って奥へと消えた。


 戻ってくるまでの数分、改めて中を見回したムラクモはどの武器も優れていることに感心していた。


 武器に詳しいという訳では無いが、どの武器にも何かしらの想いが込められていることが分かる。


(中々いねえだろうな……ここまで一つのことに打ち込める奴ってのは)

「待たせたな」


 そう思っていると、おじさんが戻ってきた。持っている小さな木箱の蓋は開けられており、中には刀身の青い短刀と、黒に黄色い紋様が入った鞘が入っている。


(角ってあんな色じゃ無かったけどな……)

「ワイバーンの角はな、熱すると青くなるんだ。どんな原理かは分からんがな。名前は『スカイブルー』と付けたが、良かったか?」


 角を持ってきた時に代金を払っていたムラクモは、頷きながら鞘と短刀受け取り、感謝の意を込め頭を下げた。


「……声が出ないということは、この先苦労することが多いだろうが、一人じゃないんだからな……仲間には頼って良いんだ。まだまだ先は長い、思う存分楽しめよ?」


 そして、頭を上げたムラクモにおじさんは拳を突き出した。


 ムラクモも拳を突き出し、ゴツンと痛そうな音を響かせながら互いの拳をぶつけた。



 腰の帯に、スカイブルーを差し、「そろそろ練習も終わっているだろう」と思いながらムラクモは宿に戻ったが、部屋の前に来た時に、「しぇい?」、とメルシアの意味不明な単語が聞こえ、まだ練習をしていることが分かった。


 メルシアは暇潰しのつもりが、かなり夢中になっている様だ。

 

 出来るだけ邪魔にならないように、扉をそっと開き中に入ると、何か言おうとしていたキャシーが動きを止め、ムラクモの名を呼んだ。それにより、メルシアも気付いたが、その目はまるで、「邪魔するな」とでも言っている様だ。


「邪魔しないでちょうだい」


 というか実際に言っていた。


『悪いな』

「『まぶいわ』?」

「惜しい!」

(そうか?)


 この短時間の間に癖になってしまったのか、メルシアはムラクモの口の動きを見て言った。ムラクモもそれを分かって、ノアでは無く口を使ったのだが。


「あら? 腰の帯に差してるそれ、どうしたの?」

「あ、ホントだ。拾ったの?」

『んな訳ねえだろ……ワイバーンの角を加工した奴だよ。さっき行ったら、もう出来てたんでな、受け取って来た。名前は『スカイブルー』だ』

「へ~……」

「何を言ったか全く分からなかったわ」


 抜きながら説明し、キャシーは刀身を見て感嘆の声を洩らし、メルシアは全く分からなかったことを悔しく思っていた。


『お前達、風呂は済ませたのか?』

「あ、ううん。まだ。ずっと練習してたから」

「む……分からない……」

「なら、さっさと入れ」、と言って、ムラクモはベッドに寝転がった。キャシーは素直に返事をし、当然の様にメルシアの手を掴み浴場へと向かった。

「ちょ、キャシー、どうして私を引っ張っていくの?」

「お風呂でも練習するからに決まってるでしょ? それに、誰かと一緒にお風呂入ったことって無いんだ、わたし」

「だから何よ?」

「まあまあ、良いじゃない。スキンシップだよ、スキンシップ」


 楽しそうに手を引き、キャシーはメルシアを浴場まで連行していった。





「メルシア、肌綺麗だね? どんなお手入れしてるの?」

「何もしないわよ。体のことなんて何も気にしてないから」

「いいなあ……」

「それで? どうして広いお風呂の中で、並んで入っているのかしら?」


 この宿のお風呂は、小部屋と大部屋で大きさは違うが、その差が激しい。小部屋では精々二人が同時に入るのが限界だが、大部屋では五人程は余裕で入ることが出来る。その広い風呂の中で、何故かキャシーはメルシアにピッタリくっついている。


 今の質問はそれについてのことだが、


「え? なんとなく」


キャシーはそう答えた。


「……そう」

「うん。さ、練習始めようか?」

「ええ」


 それから二人はまた読唇術の練習に励んだが、


「ぅあ~……のぼせた」


 キャシーがダウンしたことにより強制中断となった。


「はあ」


 浴場にメルシアの溜息がやけに大きく響いた。



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