カンパネルラ 50音順小説Part~か~
カサカサ カサカサ カサカサカサ
生い茂る草を分け入って誰かがこちらに忍び寄ってくる足音が聞こえる。
眠たかったから片目だけをあけると 目の前には小学生くらいの男の子がいた。
なんだこいつ?
じっとこっちを見てる男の子。
そいつはしばらくここにいたが空が暗くなってくると「いけない、お母さんにおこられる。」と言って
慌てて帰っていった。
翌日また同じ場所で寝ていたらまたあいつがやってきた。
ったく、なんなんだ。迷惑だし。
次の日もその次の日もそいつは毎日やってきて日が暮れるころに帰っていった。
ある日のこと、そいつはいつも通りここにやってきたかと思ったら
今日は横に腰を下ろして勝手に喋り始めた。
「あのね、僕のお父さんいなくなっちゃたんだ。隣のおばさんたちがいうにはシッソウしたんだって。
お母さんもずっと病気で寝ているんだ。先生もクラスのみんなに僕の家は大変なことになっていて
かわいそうだから優しくしてあげてだって・・・。」
愚痴か、おれになんか聞かせてどうする。
けれども話を聞いてるとこんなおれでもだんだん不憫に感じてきた。
こいつはこいつで小さいのに苦労してんだな。
一通り話し終えたところでこいつはおれの方に手を伸ばして頭を撫でた。
「君はいいね。」
溜めていたことをすべて吐き出したのか少しは元気に見えた。
「ぼく、図書館で本を見つけたんだ。題名は忘れちゃったけど、そこに出てくる男の子が
ぼくと同じでお父さんがいなくてお母さんが病気なんだ。」
同じ境遇のその本の奴に自分を重ねているのか・・・
おれには父親も母親もはなっからいないからどんな気持ちかわからん。
ぐぅ~
腹へったな、そろそろごはん食べるか。
あいつをひとり残すのをためらったがおれは立ち上がってのそのそと歩き始めた。
「今度君にも見せてあげるね。」
背後でいつもより明るい声がした。
次の日もあいつは来た。
だがいつにもまして元気がない様子だった。
そいつはおれに言った。
「今度ぼく引っ越すことになったんだ。親戚のおじさんちに行くの。君にも報告しとこうと思って・・・
もうここには来れないから。」
いいんじゃないの?別に・・・
そいつは最初の頃のようにじっとみつめてしばらくして帰っていった。
もうあいつとも おさらばか。
せいせいしたような すこし寂しいような・・・
それから数日後のある晴れた日だった。
ブルルルルルルルッ
エンジン音が近づいてきてそして止まった。
カサカサ カサカサ カサカサカサ
生い茂る草を分け入って誰かがこちらに忍び寄ってくる足音が聞こえる。
眠たかったから片目だけをあけると 目の前には小学生くらいの男の子がいた。
あいつだった。
どこかしら嬉しそうな顔をしている。
「おじさんに聞いたら君を一緒に連れてきてもいいって!だから行こう。」
おれはひょいと抱き上げられると頬ずりされた。
「君にも名前をつけてあげないと。」
しばらく思案顔でいるとピンッと思いついたらしい。
「君はぼくの大事な友達だから『カンパネルラ』だ。」
カンパネルラ・・・なかなか悪くない。
気に入ったぞという意味でカンパネルラは一声ニャーと鳴いてみせた。
カンパネルラは猫だったのです。
って途中で人間じゃないってなんとなくわかるか・・・