始まり
お久しぶりです。お元気ですか。
私のことを覚えていますか──
そこまで書いて、私はペンを止めた。
少しずつあの日のことを思い出しながら、続きを綴る。
何度かインクが滲んだ。
それでも、私は最後まで書ききった。
「大丈夫……」
封をなぞる指先が、わずかに震えている。
* * *
「行ってらっしゃい」
玄関で見送るのは、夫の姿。
結婚して三年目になる。結構月日が経ったなと感じるけれど、まだ新婚だと言われる。
家事もしてくれるし、優しいし、いい旦那さんだ。私はきっと幸せ者だろう。
でも、ふと昔の彼のことを思い出す。
夫の後ろ姿を見ながら、つい元彼のことを考えてしまう自分は、やっぱりダメだなぁと思う。それでも、また考えてしまうのだから仕方がない。
確か、あの図書館に“手紙”があると噂で聞いた。
私は最近、密かに元彼に手紙を書こうと考えていた。
でも、夫に知られたらどうしよう、と微かに胸がざわつく。
今日は仕事も休みだし、あの図書館に行ってみることにした。
図書館は最近滅多に利用しなくなった。知り合いがいないかなとか色々考えていたら、胸がドキドキしてきた。
中に入ると、懐かしい匂いがふわりと漂う。古い本の匂いだろうか。
司書の人と目が合うと、優しく微笑んで
「こんにちは」
と挨拶をしてくれた。私も自然に挨拶を返す。
館内には調べ物をする中年の男性や、椅子に腰掛けて本を読むおばあさんなど、ちらほら人がいた。
手紙はどこにあるのだろう。
時々噂で聞く、“手紙”の場所を探す。
司書の人に尋ねようかと思ったけれど、そもそも“手紙”が本当に存在するか分からなかったし、なんだか勇気も出なかった。だから自力で探すことにした。
歴史コーナー、雑誌コーナー、文学コーナー──様々な本の分野があった。
「こんなに色んなコーナーがあったんだなぁ」と感心しながら、ゆっくり歩き回る。
しばらく歩いていると、館内の一角に、古びた箱の置かれた机を見つけた。机の奥には背筋を伸ばして座る女性がいた。
封筒を一枚ずつ丁寧に揃えて並べている。表情はほとんど動かない。
女性は少し気になったが、視線は自然と古びた箱に向かう。
箱にはうっすら埃がかぶり、木の匂いが鼻をくすぐる。
胸が少し高鳴る。ここに手紙があるのだろうか……。
ゆっくり箱を開ける。
そこには、数枚の横線入りの白い便箋があった。
本当にあった…。
そっと手を伸ばし、便箋に触れる。




