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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
9/66

9.初めの一品

(さて、何を食べようか)


 朝食を食べてエネルギー補給しなければね。

 温かい物を食べたくて魔道食料庫の中を探したがやはり調理済みの物は見つからなかった。


「いてっ」


 なんとなく思い立ち魔道食料庫の隣に置かれた戸棚へ手を伸ばした際に勢い余って指が“ガッ”とね。

 大したことではないのでそのまま中段にある両開きの扉を手前に開いた。

 そこにはいくつもの瓶がズラリと並べられており、なんだかワクワクする。

 瓶の中身は粉や液体、実や乾燥した葉っぱなどなど。

 調味料やハーブと思われる。

 見て分かるものもあるが、ほとんどは正体不明だ。


(こんなときの鑑定だよね)


 淡い黄色の小さな結晶が入った瓶を手に取り、調べてみる。


──────────

【サリュー】


 食用可

 品質:S


 サリューサという植物から採れる。

 透明度が高いほど品質が良い。

 爽やかな酸味を持つ。

──────────


(鑑定凄いね。次はこっち)


──────────

【バロット粉】


 食用可

 品質:A


 バロットの木の実から皮を剥ぎすり潰した物。

 皮が残っていると雑味が混ざり品質が下がる。

 すり潰せば潰すほど辛味が増す。

 目に入ると痛い。

 直接触れない方がいい。

──────────


(本当に食べて大丈夫なのだろうか…)


 鑑定が信じられなくなってしまったではないか。

 とりあえずこれは棚に戻そう。


(塩はどれかな?)


 ひとつひとつ調べるのはめんどくさい。

 一気に知る方法はないかと考えた末に棚の中全体が見えるよう数歩下がった。


(詳細はいらない。名前だけが出るように)


 棚の中にある物全てに鑑定を発動する。


──────────

【サリュー】

【バロット粉】

【ピントゥ】

【ポーツ粉】

【ローリエ】

【コーラルペッパー】

  ・

  ・

  ・


──────────


 次々に名前だけが思い浮かぶ。


(おぉ!凄い!)


 一気に流れるにはもの凄い情報量のはずだ。

 だけど、本人はそこに違和感も頭痛も覚えておらず、面倒事が減ったと喜ぶだけに終わっている。


(塩は…これかな)


 棚に近づき瓶をひとつ手に取った。

 そこには赤みのあるオレンジ色の小さな小さな結晶がたくさん入っている。

 振るとシャラシャラと音が鳴り、心地いい音色だ。


──────────

【コーラルソルト】


 食用可

 品質:S


 透明度が高いほど品質が良い。

 まろやかな塩味でコクがある。

──────────


(あとこれもか)


 追加で少し灰色がかった結晶が入った瓶も取り出す。


──────────

【インベルソルト】


 食用可

 品質:A


 透明度が高いほど品質が良い。

 辛味が強いピリッとした塩味。

──────────


 塩を使い分けたことなどないので本日はどちらを使うか迷う。


(今日はこっちでいいかな?)


 交互に見ながらなんとなくで選んだ。

 後に手にしたインベルソルトを棚に戻す。

 塩が決まったところで、次は肉と野菜選びだ。

 棚の扉を閉め、魔道食料庫へと近づいた。

 縦長の扉を開き引き出しを引き、真っ黒なそこに手を入れる。

 頭に浮かぶ食材のなかから野菜を数種類と肉をひとつ選び取り出す。

 それらを調理台に並べ、肉の包みを開いていく。

 大きな葉を開き現れたのは見るからに弾力がありそうな肉の塊。


──────────

【ケイラバードの肉】


 食用可

 品質:A


 ケイラバードという魔物の肉。

 肉質は硬め。

 旨味とコクがある。

──────────


(魔物か………いるんだ…)


 ただの鳥肉ではなかったようだ。

 私が知らない鳥のお肉だと思ったのに。

 突如知った事実に恐怖が押し寄せてくる。

 魔物といえば凶暴なイメージがあるからだろう。


(実際どうなんだろう?見境なく襲ってくるのかな?普通の動物もいるのかな?)


 ひとつ知れば次々と疑問が湧き出てくる。

 知らないことが多すぎる証拠だ。

 それを実感し今度は不安が押し寄せてきた。


(知らないといけない。学ばないと…本…あるかなぁ…)


 なんとなくだけど、スマホやパソコンがあるとは思えない。

 となると学ぶには本が必要で…


(どうかあの主が読書家でありますように)


 黒いローブを纏った骸骨を思い浮かべながら願う。

 さて、まずはお腹を満たさないとね。

 何をするにしても身体が資本だ。


(うん。そうだ、そうだ。命大事にだね)


 調理道具と食材を揃え料理開始だ。

 人参、キャベツ、玉ねぎ、肉を適当な大きさに切り鍋に入れ、水を加えて火にかける。

 かなり雑だけど今は温かい物が食べられるならなんでもいい。

 栄養もあるはずだから問題ないね。

 コンロを難なく使えて安心もした。

 さて、具材を煮込んでいる間に他の食べ物を選ぼう。


(やっぱりパンと果物かな…)


 視線を向けたのは魔道食料庫。

 毎回手を突っ込まないと中身が分からないのが面倒で既に嫌気が差している。

 入っている物の種類が多すぎて覚えきれないのが問題なんだ。

 せめて、段ごとに分類されていれば探す苦労はかなり減ったと思う。

 1段目には野菜、2段目には果物、のように。

 同じ物のはずなのに、ひとつの段に収めるということにもなっていない。

 リンゴは1段目と5段目と6段目に入っていた。

 このようにどこに何が入っていたか思い出すのが難しいのだ。

 なので手を入れなくても中身を知れたらいいのにと。


(分からなすぎるからなぁ…)


 案を思い浮かべられる程の知識がないんだ。

 取っ掛かりを掴めない。

 それでももしかしたらと考えてしまう。


「えーっと…」


(中身を知るとはどういうことか…対象はなんだ?魔道食料庫?お?)


 何か分かりそうだ。

 この長方形の白い箱は魔道食料庫。

 これの中身を知りたいんだ。


(対象はこれ本体?あれ?鑑定でいけそう)


 私はこの魔道食料庫のことを知りたいんだ。

 梨は意識すれば説明が詳細になった。

 それならばこれだって…


(いけそうだな)


──────────

【魔道食料庫】

 

 〜いつでも新鮮な食べ物をあなたに〜


 食料を貯蔵するべく作られた魔道具。

 魔法により内部の空間が広げられており、容量不足に難儀すること無し。

 内部の時が止まっていることもあり、食料保存の最適解と言えるかもしれない。


 《内容物》

  パイナップル

  ポーツ

  コラル

  じゃがいも

  バラディードの肉

  クラレグ

  レッドチーズ

  ゾフの目玉

  パプリカ

  カルダガの肉

 

   ・

   ・

   ・ 


──────────


「っ!ストップストップ!!」


 怒涛の勢いとはこのことだ。

 次々に思い浮かび流れていく名称の多さと速さに慌て思わず魔力を止めた。

 望み通り手を使わずして中身を確認できたが、情報量が多すぎて頭が追いつかない。

 あれでは脳内を流れるだけで、流れた後は忘れてしまう。


「はぁ…」


 現時点では手を突っ込む方向でいくしかない。

 いい方法を模索する必要があるかどうか…

 使う内に気にならなくなるかもしれないし、ふとした時にいい案が浮かぶかもしれない。


(保留だね)


 せめて整理整頓をしよう。後で段ごとに種類分けだ。

 そうこうしている内にスープの具材に火が通ったのでコーラルソルトで味を整え完成させる。


(なんか朝から疲れたな…)


 湯気が立ち昇る鍋を見ながらぼーっとしてしまう。

 今日は始まったばかりだというのにやれやれだね。


(とにかく、朝ご飯を食べましょう)


 いくらか持ち直したところで食器棚から器とお皿を取り出した。

 器にスープを注ぎ、クロワッサンをお皿に乗せ、調理台へ。

 バナナを添えて。

 そして、置きっぱなしにしていた丸椅子に腰掛ける。


「いただきます」


 まずは温かいスープから。


(……うん、美味しい)


 朝一番に溜まった疲労に効くね。

 これからどうなることやら。

 何も予想を立てられなくて困ったものです。


(梨でも食うか。あと、みかんも)


 美味しいフルーツってなんか贅沢じゃない?

 自分を労いましょう。


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