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瞬きひとつで世界が変わった  作者: ろみ
序章 - 道化舞台
66/66

66.水族館のような

 強化ガラスの研究に取り組むようになってからは時々戦闘中に瓶での投擲が挟まるようになった。

 眉間に当てるのが一番いい。割れても割れなくても。

 割れる前提で足元に投げつけるのもいい。

 その際はまきびしという単語がちらつく。


 ガラスの破片を撒き散らすことになるのは忍びなく、できる範囲で回収はする。

 それから、回収が困難となるので植物が生い茂る場では行わない。

 そうなると投擲が出てくるのは今のところ岩山エリアぐらいだ。

 洞窟の中ならばできそうだけど、まだ恐怖が強いので入れない。

 いくつか見つけてはいるのでいずれね。 


 割れることはないと自信を持って言えたなら場所を選ばずできるのに、まだそこまで到達できていない。

 当初よりも瓶の強度は上がった気がするけれど、気がする程度なのだ。

 強化ガラス製作は難航していると言えよう。


(ま、そう簡単にいかないよねぇ)


 想定の範囲内なので不満は抱いていない。

 本日も元気に明るく戦闘訓練に励めた。

 今は休憩の延長線上。

 湖の中にて癒やされ&収集中。


 数十分前にこの湖を見つけた。

 魔力球の強度確認と戦闘経験を積むべく森にて活動していた最中さなかに。

 木々の間から抜け開いた視界に入り込んだのは自然が織りなす見事な調和。

 湖面も草花も木々も風に身を任せ気持ち良さそうに揺らいでいた。

 揺らぎ方は各々違うというのに、一体化しているような。

 個々であり、この光景を作り出すひとつであり、全てでひとつ。


 ここで休憩をと考えるのは当然とすら思う。

 気づけば湖のほとりいざなわれていた。

 足が止まったのは水のすぐそば。湖面の下がいくらか見える位置。

 周囲に結界を施しながら鮮やかな芝生に腰を下ろした。

 波音と木々のさわめきを耳にしながら食べる昼食はまるで薬のようで疲労が抜けていく。

 水の色と青々とした緑、視線をさらう小花たちを眺めながら嗜む紅茶は香り豊かで花のよう。

 実に穏やかで心安らぐ昼食の時であった。


 そうして過ごす内に水に入りたくなった。

 一度やりたいと思えば振り払うのに苦労するのが私。

 それが分かるから今回はあっさり己を許した。

 休憩時間と言い聞かせて。


(綺麗だなぁ)


 水中から見上げる世界は実に美しい。

 様々な生き物たちが思い思いに水中世界で生きている。

 降り注ぐ陽の光が当たる位置に留まる者もいれば、逆にそこを避ける者もいるみたい。

 上にも下にも水と生きる生物がたくさん。


 想像以上にこの湖は深かった。

 だけど、底が暗くなるほどではない。

 深さの真ん中辺りにいるけれど、底に生える植物たちが見えている。

 水の抵抗を受けることはないから360℃好きに見渡せるのは実に贅沢だ。

 だけど、その代わり水を感じられないから不満もある。


(なんで人は酸素がないと生きられないのだろう…)


 水中で生きられる身体でありたかった。

 なんて思うのは水の中に入っているときだけなのだろう。

 陸に上がれば、大地を駆け回れる身体でないと困るよ。


 水に飛び込むとなれば人は呼吸のことを考えるだろう。

 当然私も酸素の供給について考えた上で水の世界に入り込んだ。


 初めは水中呼吸を目指しあれこれ考え試していたけれど、途中で諦めた。

 湖に飛び込み試行錯誤した意味は無く、傍からはただ水遊びをしている人に見えたことだろう。

 だが、諦めたのはあくまで水中呼吸についてだ。

 ご覧の通り長時間の水中滞在を諦めることはなかった。


 一度水から上がり、紅茶で身を温めながら熟考開始。

 その結果思いついたのが透明な筒に入ること。

 天井部分を閉じなければ酸素は常に。

 

 湖の淵に大きな大きな透明グラスを浮かばせ静かに身を乗せた。

 そして、胴体部分をただただ下に伸ばしていく。

 ゆっくりと水に沈むのが不思議で面白かった。

 湖の中は想像以上に美しく、心洗われる。

 精霊の緑色を溶け込ませたような水色は神秘的。

 やはりガラスコップの中から眺めるだけというのは物足りない。

 水を感じたいんだ。


(何故、湖に珊瑚が生えるのか…いつか解明したいものだね。)


 今は湖内にて珊瑚を収集中。

 湖で暮らす魚や魔物を観察しながら透明な刃で切り取り収納していく。

 これは色ガラスの研究に役立てるつもりだ。

 どうにか色付きのガラスを作れないかと緩い気持ちで研究中。

 基本の原材料に何かを加えればいいのかと思ったのでそれを試している段階だ。

 とりあえず、粉状にできるものを思い当たり次第試している。

 これまで甲殻類の殻や色が出そうな植物、宝石などで試してきた。

 混ぜることで脆くなってしまったり、燻んでしまったりと結果は様々だ。

 それを知るのも楽しいのでどのような結果が出ようとも落ち込まない。

 この研究はあくまで趣味だ。

 多くの時間が割けないからこそ、まったり気ままに気楽に研究を進められる。


「お…おぉ…」


 こちらに真っ直ぐ向かってきた中型の魚が大きく口を開いた瞬間見えない壁にぶつかった。

 あれは痛そうだ。

 私を食べるつもりだったのだろうが、サイズ的に丸呑みは不可。

 人を正面から噛み千切るつもりだったのかな?


(脇腹とかの方がよろしいのでは?)


 なんて考えながら透明な壁から受けた衝撃を逃そうと狼狽えている魚の顔を落とし収納した。

 見たことも食べたこともない魚の魔物なので味が気になる。

 今度塩焼きにして食べようかな。


「さて、これぐらいでいいかなぁ…」


 広くもない筒内でゆっくり身体を回し水中を見渡す。

 この光景を脳裏に焼き付けたくて。

 思い出して楽しむのもいいだろう。


「うんうん」


 丁寧にこの景色を堪能したところで円筒を短くしていく。

 エレベーターのように上へ運ばれていく間も楽しくて頬と心は緩みっぱなし。

 水上に出るとなんだか不思議な感覚がしたね。

 数秒前と全てが違いすぎる。

 空気も景色も雰囲気も一変した。

 たった少し下に行くだけでああも変わるのかと驚きというか感心というか…

 悪い気でないことだけは確かだが、上手く言葉で言い表せない。

 ほんの少しの胸の高鳴りが何を意味するのか全く理解できないまま水上から降りた。


「んー」


 陸地に両足がついたところで背伸びをした。

 なんだか開放感があって思わずだ。

 どうやら窮屈な思いをしていたようだね。


「さてと…」


 そろそろ鍛錬に戻るべきなのだが、ちょっとスープが飲みたい。

 魔法で快適な温度を保っていたので冷えることはなかったけれど、なんとなく温かいものを求む。

 作り置きしているものを一杯食すぐらいいいでしょう。

 取り出した木箱にスープの入った寸胴鍋を置き、そこから木製カップに盛る。

 これまた収納から取り出した切り株に腰掛け味わう。


(これこれ)


 具はワカメと玉子だけというシンプルな品だけど、海鮮スープの素が味に奥行きを与えている。

 いつの日か作ったこの素は今も尚、大活躍。


(うん。美味しいなぁ)


 ほっと一息である。

 なんだか身も心もポカポカするよねぇ。

 こうしてのんびり過ごしているからといって警戒を怠ることはない。

 魔力感知の常時発動により周辺に魔物がいることには気がついている。

 だが、そのほとんどはこちらから仕掛けない限り襲ってこないので問題ない。

 それでも私が知らない魔物は多く存在するので警戒は常にだね。

 ほっと一息と言いつつ、完全なる安らぎとはほど遠いのだ。


(これにあの海老の粉を入れたら美味しくなるかな?)


 伊勢海老に似た魔物であるイノーセの殻で色ガラスに挑戦したことがある。

 加工前のものも、乾燥粉砕した粉も収納に残っているのでちょうどいい。

 イノーセほんのちょっぴりスープに加え口に含んでみると…


(すっごい海老!)


 海老の風味が口内にぶわりと広がった。

 味は悪くないがいかんせん強烈だ。

 量をもっともっと減らさないと。


「んー」


 海鮮スープの素の原材料である海老レッドプローンをイノーセに変えるのがいいかもしれない。

 改訂ではなく、新作登場。

 海鮮スープの素1と海鮮スープの素2だ。


「うん。それはいい」


 後で配合を調整しよう。

 さて、これにて休憩は終わり。

 そろそろ森に戻ろう。

 後片付けをし出発だ!あいつのもとへ!


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